点と点を線で結んで何度でも沼に落ちる話

 1月初め、個人的推し博物館である古代オリエント博物館(池袋サンシャインシティ文化会館7階)に行きました。

 その名の通り、古代オリエント(現在の中東に興っていた数々の古代文明)やヘレニズム文化についての常設展示が中心です。
 バビロニアに関する展示もあることから、人気ゲームシリーズでギルガメシュ王を演じる声優さんの音声ガイドがあったり、同じ施設内にある水族館や病院と連携した考古学研究をしていたりと様々な方面からのアプローチが魅力的で、小規模ながら幅広い文化に触れることが出来ます。
(音声ガイドはアプリで購入・もしくは受付でレンタルできます。(2022年1月現在))

 そんな数ある展示物の中でも私が特に気に入っているのが「ガンダーラ仏」のレリーフ。

 かねてからガンダーラ地方で作られた石仏の、ガッシリとした体付きと彫りの深い顔立ち、そして豊かに波打つ髪の毛と、まるでギリシア神話の神々のような美丈夫っぷりに魅了されていましたが、せっかくの機会なので顔ファン最低限の礼儀としてその背景を調べてみようと思いました。

 ガンダーラ地方の石仏等はギリシア仏教美術と呼ばれ、元来仏陀そのものの偶像崇拝を否定していたインド生まれの仏教がこの地でギリシャ彫刻の文化と出会い生まれたものだそう。(Wikipedia参考)

 確かに古代オリエント博物館にも釈迦(仏陀)とヘラクレスが同時に描かれたレリーフが……あった……はず(うろ覚え)(実際に類似の作品は存在します)

 第一印象の「ギリシア神話の神々のような美丈夫」はさもありなんといったところ。青春時代、聖闘士星矢やギリシア神話に心を奪われた経験のある人間なのでガンダーラの仏像にときめくなって方が無理な話だったのかもしれません。

 長年の疑問だった「なぜギリシャ神話モチーフの聖闘士星矢において乙女座のシャカ(作中屈指の強キャラ)(技が仏教由来)(金髪に修行僧風の私服)が登場するのか」について、こんな形でギリシャ神話と仏教が繋がるとは思ってもみませんでした。

 元々何となく好きだった博物館や美術館巡りが好きになった作品やキャラクターへの理解を深めるために役立ち、今度は博物館や美術館で得た興味が作品への新い解釈を与えてくれる……世界は広く、歴史は深く、自分はなんて無知なのかと軽く凹みましたが、好きなものが好きなものとが僅かでも繋がっちゃうこの世界線は間違いなくドラマチックで最高です。
 なんなら全ての神話を樹形図にしたら、どっかとどっかで繋がって伏線回収してくれるかも知れないと思うとワクワクします。博物館行きたい。


 思いがけず十数年越しの疑問に新解釈の余地が出てきたところで、また新たな疑問が一つ。

 それは「釈迦様のご尊顔って実際どんな感じだったのか」問題。
 
 日本や中国で作られた木製の仏像とガンダーラ地方の仏像は体型から髪型から彫の深さに至るまで、全く別の人種に見えます。これは「作り手の作風」なのか「出生に根拠あり」なのか。実際何人風のお顔なのか。

 ギリシア神話の英雄譚を描く技法で作られたからギリシア風の男前なのか、それともギリシア風の男前だと伝えられたからそう作られたのか。その謎を解くために図書館へと向かいました。

 「そもそも釈迦様ってインド人じゃなかった?」程度の知識しかない無知無学なので、情報を得るためにはまず図書館にある児童向けの本を読みました。
 大人向けの入門書よりもわかりやすく、なにより新興宗教等の偏った情報を警戒した結果、本来の対象年齢であるキッズ達には申し訳なさを感じつつも一番取りやすい棚にあった児童向けの伝記「世界の伝記 釈迦(著:中澤 巠夫)」を借りました。

 そこには「シャーカ族の容貌が、ギリシャ型であるのも、アーリア人の容貌を純粋に維持したからであろう」という一節があります。

 伝記を読み進めるうえで、「近親者間の結婚当がたり前」である点や、「年端も行かない釈迦少年をもてなす為のハーレムで、女性同士がくんずほぐれつしだす酒池肉林」のシーンに成人した身であってもカルチャーショック・ビンタを喰らいましたが、なんとか目的の情報を見逃さずにすみました。

 注釈や地の文章で文化的背景や当時とのモラルの違いを丁寧に説明してくれるあたり、やはり児童書のフォローの細やかさはさすがです。(大信頼)

 また、近親者間の結婚や出産の話題が出ると頭をよぎるのが遺伝性の障碍です。例にもれず病弱である描写はありましたが、ハプスブルグ家のように顎が長いなどの描写は無く、ネットで軽く調べてもそのような情報は見当たりませんでした。中世の肖像画程の忖度は無かったようです。(釈迦様の顎についてご存じの方がいらっしゃいましたらそっと教えてください)

 顎から話を戻して「シャーカ族の容貌が、ギリシャ型であるのも、アーリア人の容貌を純粋に維持したからであろう」の一節についてですが、
 正直浅慮なヲタクとしてはもうこの時点で「言質取ったどーっ」と叫び出したいところをグッと堪えて調べると…アーリア人が分からない…Wikipediaでさえ難しい事が書いてあり…(釈迦の出自にももちろん諸説ありますが…)何事にも見切りが必要なので、ここでは「古代のギリシャの人々も古代北インドの人々も広義的な意味でのアーリア人に含まれる」=「作風ではなく、出生に根拠あり」という形で一つのゴールとさせていただきたいと思います。

 完全にご都合解釈の力技感は否めませんが、仮にガンダーラ仏のようにギリシア的な形質でなかったとしても、ボリウッド俳優の方々のご尊顔を拝見するに我々と比べれば彫りが深く、エキゾチックなお顔立ちだったのではないかとも思います。


 ……と、今回はたまたまガンダーラ仏が「最初期の仏像」で「作られた場所が釈迦出生の地の一つとされる場所にわりと近かった」為このような妄想で掘り下げていきましたが、実際は紀元前5世紀頃インドに興ったとされる仏教(釈迦の生没年含め諸説あり)に対してガンダーラ仏が作られたのは1世紀末〜7世紀にかけて。ガンダーラ地方の場所は現在のパキスタン北西部。

 おそらく仏像が造られ始めた時点で釈迦が生きた時代から数百年単位の時間が経っています。最古の経典の一つとされるスッタニパータは難しくて中村元先生の解説しか聞いていませんが、釈迦自身について「具体的にどんな顔」という話には言及されていませんでした。

 元も子もないことを言えば、生前はおろか亡くなってから数百年の間偶像崇拝が禁止されていた人の顔を正確に知ろうなんてこと自体が無理ゲーです。(正気に戻る)
 どの場面を描いたものかにもよりますが、托鉢の修行中あんなに豊かな体型であるとも考えにくい気もします。

 そんな事は調べ始めて数分で薄々勘づいていましたが、どうしても歴史を都合よく解釈したい。その一心でありもしない答えを探してみたところ、思いの外「イケメンとは言ってないけど見た感じイケメンとも解釈できる」ような作品や表現がちらほら見受けられ、めげずに幻覚を見続けることができました。もしかしたら同じような願望を込めて作品制作に録りくんだ先達がいらっしゃったのかもしれません。

 仏像は作品であり宗教的な偶像であり、やはり当時の価値観や作り手の願い・理想が反映されていて当然のもの。
 改めてそう考えると、今までちょっと興味の薄かった日本の仏像も、作られた当時の目線で見るとハンサムなのかも知れない……もしくは、親近感の湧くようなさっぱりしたお顔だったのかも……。誰がどこから聞いてどんなイメージで作ったものなのかとても興味深いです。バックストーリーを聞かされると多分好きになっちゃう。誰か教えて欲しい。(熱く語るヲタクの話を聞くのが大好き)

 人文学的な知識のない素人が横好きで調べたに過ぎませんが、軽い気持ちで調べ始めた事が、まさか芋づる式に疑問が湧いて収拾つかなくなるとは思いませんでした。
 また、副産物的に新たな解釈のヒントを得て、途中で聖闘士星矢を全巻読み返して新鮮な気持ちで楽しむ事ができたのは嬉しい誤算です。これだからヲタクは辞められません。

 完全に着地点を見失いましたが、よくよく考えれば「歴史を都合良く解釈したい」とか言い出した時点で大暴走は始まっていました。陰謀論の方がまだ目的意識がしっかりしています。

 全ては博物館で見た仏像をきっかけに点と点を線でこじつけ、かつてハマったジャンルに再燃し、妄想と史実との間で七顛八倒する様を描いたフィクションです。少しでもお楽しみいただいたり、ガンダーラ仏がTwitterのトレンドに上がったり、聖闘士星矢のファンアートがpixivで増えたりしたら幸いです。
 
 参考文献の薄さで赤点喰らいそうな自由研究に最後までお付き合いいただきありがとうございました。オススメの仏像、博物館、美術館などありましたらコメントなどで教えていただけると幸いです。

それではまた。


※「アーリア人」という言葉は一部差別的な意味を含んで使われた言葉ですが、参考にした辞書や書籍で使用されていた為ここでは便宜上、そのままつかわせていただきました。特定の人種や民族への差別行為を肯定、助長する意図はありません。よろしくお願いいたします。

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