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♯15 【入院8日目】脳血管撮影はまだまだ続く

考えまくったあとは、無の境地だった。
いつかは終わるのだから身を任せるしかない。相変わらず痛みと眩しさは酷かった。

一区切りはついたようだが、やはりそのまま塞栓術に入るとのことだった。


腫瘍の近くの血管に、詰め物をする。すると、腫瘍に栄養が行かなくなるのでこれ以上腫瘍が大きくなることもないし、手術までにしぼむような形になり隙間が出来て取りやすくなる。

ざっくり、そんな説明だったと思う。私が咀嚼したので学術的な用語ではないが。理屈はわかるけど、そんな遠隔操作みたいなことをどうやってやるのよ、というのが本音ではあった。とにかく素人がどうこう言える域ではない。

信じて、任せる。


再び足の付け根から、細いワイヤーを通す作業が始まる。さらに太い何かが押し込まれた。ワイヤーのガイドらしい。ストローくらいに感じた。グイグイ押されて冷や汗が出そうだ。

痛くはないがズズ…と進んでいく感触はある。
「何をやっているか、ある程度言ってもらえた方が良いんですが」と伝える。
うるさい患者だったかもしれない。
「わかりました、でもこちらもやりながらなので逐一全部は話せないよ」。また顎にワイヤが当たる。
「痛いです」
「そうだね、入ってるからね」

「なんか、音がします」
「どんな音が」
「なんか、チャリチャリ言ってます」
「へえー」


自分でも何を言ってんだろうと思いながら。多分話して落ち着きたかったのかもしれない。ただ、さすがに段々朦朧としてきた。
痛い。眩しい。何かが頭に当たってる。

話す気力もない。それは先生も同じようだった。佳境に入っているのはわかる。
私が言葉を発しなくなったので、先生は看護師や助手に入っている先生と何やら話している。でも、ぼんやりとしかわからない。

(分岐がエグイ…こっちにいかない…3ミリの方に変えて…いや、やっぱりこっちに変えて…)

この時、ただ思っていたことは「誰か手を握っていて!」。

それだけだった。早く終わってほしくてしんどくて。喉の奥まで出かけていたこの言葉。でも、いきなりこんな事言ったら変かもしれない。この期に及んで自意識過剰が発動するとは、少しは冷静さがあったのかもしれない。


「もうすぐ終わりますよ」と告げられ安堵する。
「最後、脚の付け根を止血して固定したら終わりです」。ああ、良かった。長かった。

最初に入れたストローみたいなものを抜き去る感触がする。代わりに何かが押し込まれた。が、サイズが合わなかったようだ。
「あっちに変えて」「了解です」「はい」「どう?」「入らないです」差し迫っている空気。「メス頂戴」

は?メス!?その言葉の響きに目が覚める。「メス、こわい、やめて」と思わず口にする。「大丈夫だから」「メスはやだ」「鎮静剤!」「痛い」「麻酔してるから痛くない」

ああ、痛くない。止血する際に入れる栓のようなものを入れるために、メスで切り開いている感触がする。痛くはない。少し冷静になった。

何かが押し込まれる。脚が動かないように、添え木のようなものが包帯で太ももに巻かれ、ガチガチに固定される。


…終わった。


「ICUに移ります」


はっきり言ってもう二度とやりたくない。
予備手術でこんなに消耗するなんて。

でも、やって良かったのだ、これを。

#入院記録 #髄膜種   #2021髄膜種入院記録 #脳血管撮影


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