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他者との関わり、そして変容

道路に一箇所くぼみがあった。

親指の先ほどの小ささで、
アスファルトがぬらりと濃い影を作っていた。
雨が降れば水がたまって光を反射し、
落葉の季節にはどこからか飛んできた枯葉が
すっぽりはまりこんでいることもあった。
その「くぼみ」に気づいてから、通るたびに
なんとなく確認するようになっていた。

ある日。
数日は雨も降らず、その日もよく晴れていた。ところが、乾燥して白っぽくなった周囲の
アスファルトとは対照的にくぼみは普段より
一層ツヤツヤとして黒く濡れて見えた。

 こんな晴れた日に濡れているのだろうか

くぼみに吸いよせられるようにかがみこむ。
自然と地面に指を這わせたが、どうしても
くぼみが見つからない。

指先がヒヤリと濡れることを期待して何度も
往復させて、触れた指と地面を交互に見ても
乾いた砂塵がわずかに付着するだけだった。

「くぼみ」と呼んでいたそこは紛れもなく、
平らなアスファルトの一部だった。

その日から、私はそこを「くぼみ」と呼ぶ
ことをためらった。

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