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人生を教えてくれた本。衝撃のラストに目が点。『ああ無情』

図書室が好きだった。
両親の仕事柄、家には読む本がたくさんあったし、めんどくさがりだったのでわざわざ自転車で町の図書館まで行くことはほとんどなかったけど、
図書室は休み時間や放課後に寄れるし、たくさん本が並んでいる空間にいるだけでわくわくした。
青い鳥文庫、ホームズ、わかったさん、ポケット海賊団、名前も覚えてないミイラくんと一緒に魔法の鍵で世界各国の歴史を旅するシリーズ。伝記や偉人伝。図書室に置かれることを許された漫画、はだしのゲンやブラックジャック。(なぜかお〜い!龍馬は保健室にあった)
クラスでの流行りを追いながら、図書室の本を端から端まで読んでやろうと密かな野望を持っていたぼくは、ある日この一冊に出会った。

『ああ無情』はヴィクトルユゴーのレミゼラブルを翻訳した、児童向け文学シリーズ「子供のための世界文学の森」のなかの一冊。訳は菊池章一さん。
ネットでこの児童版の話題を見かけて、子供の頃の思い出が蘇り、居ても立っても居られずに探し出して読みました。
(表紙は赤じゃなかった気がするけど、中身は一緒だった)

レミゼラブルは多数の翻訳版があるけど、その中でも飛び抜けてすごい一冊です。
翻訳ってほんとに大変な仕事で、言語も文化背景も違うものを、物語の質感や面白さを残しつつ意味が通じるようにしなくちゃいけない。例えば、アラゴルンの呼び名のストライダーが馳夫になったりと、職人技が光るその一言!が生まれたりして、好き。
特に児童向けの翻訳は、そもそも制約が多すぎて無理があるものから、それをどうクリアしながら物語の良さや面白さを伝えるかというのが、とても興味深い。
もちろん、レミゼラブルもそのまま訳したのでは子供は読めないので、いかに物語を咀嚼してあるかが読みどころだったりします。

本作は、ある意味ではその最終地点に到着したというか、一つの答えが出されていて、
子供の頃最後のページを読んだ瞬間に、大人になるってことを学んだというか、
人生を教わった気がする。
以下に、最後の一文を引用します。
(ネタバレになるので、読む予定の方はここまででやめてください)







本作の最後はこう締めくくられる。

マリウスとコゼットは、はたしてジャン・バルジャンがまだ生きているうちに、たどりつくことができるのでしょうか。そして、この三人が手をとりあって、おたがいに心からうちとけた話をかわすことができたのでしょうか––。それは、あなたがたがもっと大きくなって、この物語の原作をほんやくで、あるいは原文のフランス語で、はじめから全部読んで、自分でたしかめてください。 おわり

うん。

はじめて読んだとき、目が点になるってこういうことかって思った。
今なら、「想像を遥かに超えたラスト」って帯をつけたいくらい。訳者の菊池さんもこの後の解説でこの本の本当の題はレ・ミゼラーブルですって言ってるし。笑

今、大人になって日本語だけどレ・ミゼラブルも読んだし、映画も観たし、いろんなことを知った。そして、「ほんとうのしあわせとはなにか」は今もずっとも考え続けてますって、いつか菊池さんに伝えたい。

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待てうかつに近づくなエッセイにされるぞ あ、ああ……あー!ありがとうございます!!