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なぜか時々、思い出す人

なぜか時々、思い出す人、について


大学1年生の夏、人生で初めてのアルバイトを始めた

もともと好きだったお店の、憧れの旗艦店

地元の店舗の何倍も広くて品揃えも豊富で、行く度にわくわくした

超緊張しながらまともに書いたこともなかった履歴書を携え「め、面接にまいりました!」とスタッフさんに声をかける

到着が早すぎたようで店内で所在なさげに待つ ややあって爽やかな笑顔の副店長さんが現れ面接は何とか終了、採用していただくことに

やる気だけ十分で働き始め、授業終わりに遅番、休日は昼も入り、帰りの電車1時間半はいつも爆睡だった

お客さんもスタッフも大勢いたからたくさんの人にお世話になったのだけど、一番覚えているのはある社員さん

いつもそれなりに笑顔だけど、話しかけられる時は大体注意される時、私に限らずみんなにそうで、嫌われ役を買って出ているようなひとだった

社員さんゆえの責任感を強く感じる人、私はいつも「はい、あ、すみません!じゃなくて申し訳ありません!気をつけます、はい、ありがとうございます…」という感じで必死に言われたことを咀嚼していたけど、

それなりに仕事ができる人にとっては「小言がいちいちうるさい」という感じらしく、その社員さんが去った後に愚痴を言い合ったりするのを何度か聞いた

その社員さんの口癖、とまでは言わないけど、会話の中で何度か聞いたことがある「私、友達いないからさ」という一言

何でそんな言葉が出る流れになったのか何と返したのか全く覚えていないけど、その一言だけずっと覚えている

その人は私にとって話しやすい人ではなかったけど、上司として理不尽に怒ることはないしたまに一応だけど褒めてくれるし、教え方は丁寧だし困っているとちゃんと助けてくれた

嫌われ役になって細かいことを注意して回って、それで空気がピリッとすることも多かったけど、仕事をちゃんと仕事として日々為している、という印象があって、何か惹かれる人だった 尊敬していたとも言える

「私、友達いないからさ」は、その職場内の話でもあったように思うし、その人の人生全体について言っていたようにも思う

嫌われないように、みんなとそれなりに仲良く、というのをやろうと思えばその人も出来たのだと思う でもやらなかったのだと思う

「いい子だよね」といつか唐突に言われたことがあった

いい子かどうかは知らないけど、ミスすることが多い分ひたすら素直に謝っていたので、いい子に見えたのかもしれない

何か、その一声は、100%嫌味というわけでも、100%褒めているというわけでもない、絶妙な色合いの声だった 「私とは違うタイプよね」と後に続けてきそうな感じがあった

私は私で友達がいないのだけど、当時はそれなりに友達がいると思っていたし、バイト先の人間関係でも悩むことはなかった だから、その人とは違うタイプ、と思っていた

でも、今は妙に、あの時あの間合いで発せられたその人の言葉が分かる、ような気がする

結局自分のこと誤魔化せないしニコニコしてばかりでは生きていけない、自分にとって大事なことを守ろうとしたらどこでだって分かり合えない人が出てくる

何のためにこんなに頑張ってるのかな、嫌われてまで続ける意味ってあるのかな、と

その人が思ったのかどうかは知らない

私がそのバイトを円満に辞めた後、お店に遊びに行ったら、その人も辞めたと聞いた

もう5,6年前だけど、今、何して生きてるのかなあ、と

なぜか時々、思い出す人


髪が綺麗で長かった

制服の大判ナプキンの巻き方が独特で素敵だった

英語が流暢で海外のお客さまともよく会話していた(私は片言とジェスチャーで乗り切っていた)

私にはとても強い人に見えていた 私には無いものを全部持っていると思っていた

でも、今は、実はとても似ているのではないかと

不思議に愛情のような感情が湧く

「いい子」の私などに気にかけられたくはないだろうけど

どうか元気で生きていてほしいと思う

そんな何とも消化のよくない話


仲が良かった人のことはほとんど思い出さないのにね

人って不思議です