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【群馬クレインサンダーズ】最高で最速で最強の新アリーナ構想。と同時に野球ファンが感じる3つの不安


Bリーグ新記録の33連勝を代表する圧倒的な強さでB2東地区を制した群馬クレインサンダーズ。プレーオフ初戦も順調に制し、今週末に行われるセミファイナルに勝利すれば念願のB1リーグ昇格が決まる。

新進気鋭のオープンハウス社に完全子会社化されて1年、『日本一』を目指すサーガは栄光を極めている。日本代表候補マイケル・パーカーを筆頭にB1クラスの選手を大補強。さらにシーズン中盤には大学日本代表2人を特別指定で獲得。9割超の勝率で優勝。あらゆるニュースのスケールが『日本一』だったと言えよう。そして極め付きが、本日発表された新アリーナ構想だ。


最高で最速で最強の新アリーナ構想

まずは新アリーナのPVを見て欲しい。1分の動画である。

ワクワクが止まらなかった。群馬に、太田に、こんなに近代的なアリーナができることに。
群馬には大きなスポーツ施設はあるものの、観戦に特化したアリーナは存在しない。5000人を収容できるアリーナは複数あるものの、コートが4面あったり、コートが2階だったりと観戦の満足度は決して高くない。また、野球やサッカーでも観戦に特化したスタジアムは存在しない。

つまり、観るスポーツに焦点を当てたスポーツ施設がようやく群馬に誕生するのである。スポーツの裾野が広がりが、ようやく地元にやってきた。


驚きの速さ:完全子会社化から1年で構想、2年で建築

何より驚き、そして称賛に値するのは速さである。オープンハウスが群馬クレインサンダーズ(以下、サンダーズ)を完全子会社化したのは1年前である。つまり、スタジアムの構想を練り、太田市を代表とするステークホルダーと同意を取り、Bリーグの厳しい審査を通過し…を1年で成し遂げたわけだ。

速さがオープンハウスの社是だったり、オープンハウスが以前別クラブの運営に関わる経験があったり、太田市長が前向きだったり、様々な運が噛み合ったとはいえ、あまりに速い。

そして、完成が2023年というのも驚きだ。たった2シーズンまでば新アリーナができる。バスケ好きには普通の感覚7日も知れないが、野球ファンとしてはひっくり返りそうなスピード。というのも同じ2023年に完成する日本ハムの新スタジアムは構想発表が2017年だった。7,8年は待つのが相場だと思っていたからだ。

さらに、太田という地方中枢中核都市(正確には施行時特例市)でこのプロジェクトが進行していることも評価に値するだろう。太田は人口20万人ほどの都市で、政令指定都市並みのパワーはないし、群馬の最大都市でもない、新幹線も飛行機も止まらない。しかし、裏返せば『大都市じゃなくてもスポーツで町おこしができる』という貴重なサンプルになる。日本を見渡せば太田と同じ地方中枢中核都市が82存在する、太田でうまくいけば彼らも続くはずだ。スポーツ誘致&町おこしは大都市のもの、野球やサッカーのもの、という固定観念を覆すことができる壮大な社会実験といえる。


日本一への不安:並ぶ美辞麗句は何を目指すか

新アリーナ構想に胸躍ったと同時に、登壇者から繰り返し聞かれた”日本一”や”地域共創”といった美辞麗句に不安を感じる記者会見でもあった。最初に断っておくと、私は主に野球ファンであり、バスケには疎い面がある。的はずれな指摘であることを最初に断っておく。

私の感じた不安は大きく以下の3点である。
・スマートベニューへの逆行
・地域共創の行き先
・体育館とアリーナの違い

不安①:スマートベニューへの逆行

1つ目の不安は、新アリーナが球場と経営の一体経営というスポーツビジネスの潮流に逆行している(ように見える)からだ。杞憂であってほしい。

球場と経営の一体化は、特に野球ファンにとって敏感な話題だ。最近はソフトバンクホークスが福岡ドームを買収したり、日本ハムファイターズが新スタジアムを1から作ったり、三井不動産グループが東京ドームを買収したり、球場の経営権を得るメリットは大きいことが推察される(具体的には賃貸料が不要、スケジュールの融通が効く、イベントの収益が自分のものになる、施設を撤去しなくてよいなどのメリットがある)

Bリーグ初代事務局長の葦原一正氏は著書の中で、球場の経営段階を以下の6段階に分類している。

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野球では福岡Paypayドームや日本ハムの新スタジアムのように、バスケでは先日こけら落としした沖縄アリーナのように、近年は第5,6段階の球場づくりが盛んである。

その中で、太田の新アリーナは第1~3段階である。太田市長が「サンダーズが指定管理になるかはわからない、あくまで太田市の体育館だ」と発言していたように、第1段階のアリーナである可能性もある。

もちろん、第5,6を作るのはタイミングや資金などで大きなハードルがあるので、いきなりそれを作るのは高望みだろう。しかし、令和の時代になって自治体の箱物貸しに頼ることになるなら、それは『日本一』ではないと思ってしまう。


もし、『日本一』をアピールしたいのなら、アピールの方向性をしっかり変えるべきだと思う。「日本一のアリーナを」と言われたらどうしても沖縄アリーナや日本ハムのスタジアムと比べてしまう。

そうではなく、この試み自体がスポーツビジネスとして日本一であることをアピールしてほしいと思う。つまり、一部のプロスポーツや大企業に許された孤高のトップ『日本一』であるよりは、自治体や企業が目指すことができるゴールとしての『日本一』のビジネスモデルあってほしいなと思うのだ。下手にスポーツと日本一を強調されると、野球ファンとしては、野球と同じ土俵で比べてしまう。そうではない、バスケの市場規模と親しさだからこそできる『日本一』に注力するべきではないだろうか。


不安②:地域共創の行き先

続いての不安は、地域共創・三位一体といった言葉に関する不安だ。

サンダーズ・太田市・オープンハウスが三位一体であり、オープンハウスが太田市に納税することでスタジアムを作る。なので、地域共創という言葉を使っていると思うのだが、正直それ以上の意味を会見からは感じられなかった。

球場が地域にもたらす好影響はたくさんある。スマートベニューのように商業施設を誘致すること、コンサート等のイベントを開けること、子供の遊び場になること、教育文化水準が高くなること、治安がよくなること(日本では必要性をそこまで感じないが)…しかし会見では、現状スポーツ以外の利用を想定していないという。これでは、バスケに関わる人、運動する人しか恩恵が受けられない。

新アリーナがあることで、太田市がもっと幸せになる、群馬県がもっと幸せになる、そういうビジョンをもっと見せて欲しい。
例えば、スタジアムの最寄り駅の”竜舞”が無人駅じゃなって綺麗になるとかさ、そいういう小さなことでいいと思います。

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アリーナ最寄り駅の”竜舞”

不安③:体育館とアリーナの違い

3つ目の不安は、一定のステークホルダーが”体育館”を作ろうとしている疑惑が拭えない点だ。

記者会見で、太田市長は「OTA ARENAという名前は正式に決まったわけではないが、これは太田市の体育館」と体育館であることを強調した。もしかしたら、もしかしたらなんだけど、”アリーナ”という呼称に込められた思いに理解が及んでいない可能性がある。杞憂であったら申し訳ないが

行政は、市民がスポーツをする行政主導の体育館を想定している可能性がある。クラブやファンが望むのは、観戦を楽しめるチーム主導のアリーナであるのに。無論、行政には行政の言い分があるのはわかるが、この点新アリーナ構想発表の時点で足並みが揃っていないのはかなり不安に思ってしまう。

オープンハウスの人は「ディズニーランドのような施設を作りたい」と高らかに理想を掲げても、現場はスポーツバブル崩壊とともに壊れる”かっぱぴあ”を作ってしまうかも知れない。

※かっぱぴあ
高崎市にあった遊園地、バブル崩壊後に閉園。無人の廃墟と化し、犯罪の温床になると社会問題になった、群馬史に残るやべえハコモノ


群馬から日本のスポーツの裾野を広げてほしい

最後に不安を述べてしまったが、トータルとしてはむちゃくちゃ心が躍っている。ついに群馬にこの規模のアリーナができると思うと、めちゃくちゃ興奮する。こんな社会情勢じゃなかったら毎週通うまであるレベルだ。

太田×バスケという組み合わせも最高だ。これが成功すれば、多くの中核都市で、ラグビーバレー卓球という別のスポーツでも、様々なチャレンジが生まれていくだろう。企業が小さなクラブをスポンサードする旨味が知られ、チームと企業が足並みを揃えながら、日本全体に多くのスポーツが広まっていき競技レベルが向上していくだろう。

群馬から太田からスポーツの裾野が広がって、太田式のレガシーとして語りつがれるといいな。

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富士スバルの町だけにね。


参考文献:

間野義之 編著(2019)『東京大学大学院特別講義 スポーツイノベーション』日経BP
葦原一正(2018)『稼ぐが全て Bリーグこそ最強のビジネスモデルである』あさ出版
葦原一正(2021)『日本のスポーツビジネスが世界に通用しない本当の理由』光文社新書

 

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