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野球にも戦術的ピリオダイゼーションを取り入れられるのでは、という話

サッカー界で話題のトレーニング理論、戦術的ピリオダイゼーション(以下戦ピリ)。2020年にはサッカー専門誌footballistaから、戦ピリを題材にした日本人による日本語の書籍が発売され、一般のサッカー愛好家も、欧州最先端のトレーニング理論に触れることができるようになりました。

そして、サッカー愛好家にはスポーツ全体の愛好家も多いもの。戦ピリの長所を他のスポーツでも活かせるのではないかと思う人も多くいるようです。私もそんな1人です。

今日は野球×戦ピリの可能性を考えていきたいと思います。
野球ファン向けにかいつまんで説明するので、複雑系やフラクタルの話などは省略します。興味を持った方は書籍やfootballistaを手にとっていただければと思います。

また、戦ピリへの理解が間違っている点があれば、教えてくれると助かります。


戦ピリとは

戦術的ピリオダイゼーションとは
戦術(チームでの意思決定)とピリオダイゼーション(ベストコンディション)を引き出すための期分け法」(ポルト大学オリヴェイラ教授)です。

より噛み砕いて説明すると、
チーム内の意思決定のシンクロ率を一週間スパンで高めていく手法
と言えるでしょう。

戦ピリでは、ゲームモデルをもとにプレー原則を設定し、それを実現するためのトレーニングを行います。
太字の各用語について説明していきます。

ゲームモデル
 選手がいかなる状況いかなる瞬間でも、全員が同じように問題解決をするための模型
 意思決定がシンクロした結果、うまれる理想的な試合展開と言えるでしょう
プレー原則
 ゲームモデルをプレーの指針として噛み砕いたもの
 プレー原則が、個々人の認知・判断・実行のガイドとなり、ゲームモデルが達成されます。
 具体的には、サッカーの複雑な場面をシチュエーションやタスクに分類して、噛み砕くようです。
 ・シチュエーション化
  攻撃時・守備時・攻撃→守備・守備→攻撃の4つのシチュエーションに分けることが多い
 ・タスク化
  ゲームモデルを達成するために必要な要素をタスクとしてメンバーに振り分けます
    
主原則、準原則、準々原則
 プレー原則をさらに細分化して噛み砕いたものです。
 具体性をあげることで、主原則を実現しやすくします。ただし具体性を上げすぎると抽象度が下がるため、応用が効きづらくなるそうです。

戦ピリを支えるトレーニングの法則(例)
・特化の法則
 ゲームモデルとプレー原則に特化した練習をします。「ピアニストはピアノのまわりを走らない」という格言の通り、ランニングや単純なシュート練習といった、一部の要素だけを取り出して練習をすることはしない傾向にあります。
・傾向の法則
 起きる可能性の高いプレーを、その頻度と精度で実行します。例えば、6割の時間を攻撃にあてるゲームモデルだったら、練習の6割は攻撃にあてられることとなります。
・戦術的疲労
 意思決定を繰り返すと精神的な披露がたまるので、頭を休める時間も必要だという考え方です。

以上がかいつまんで説明した戦術的ピリオダイゼーションとなります。
個人的には、ゲームモデルを定めることと、それに特化した練習をしようという考え方が斬新だと考えています

では、野球への応用可能性について考えていきましょう。

野球×戦ピリ

まず、戦ピリはどんな野球選手に有効か考えてみます。
戦ピリ自体が、ピリオダイゼーション(区分けしたトレーニング)なので、毎日試合があるプロ野球向けではなさそうです。逆に、毎週末に試合があるアマチュア野球ではピリオダイゼーションを活用する機会がたくさんありそうです。


続いて、意思決定のシンクロ率向上という戦ピリのゴールは野球に役立つかです。


野球は一球一球の間にサインを出すことができ、意思決定者とプレーヤーが異なる場面が多く、選手の意思決定の高さが重視されることはあまり多くありません。
しかし、プレーヤーが意思決定がシンクロすることで、有効な場面もあると考えられます。
守備では、トリックプレーを用意に仕掛けられるようになったり、挟殺プレーがうまくなったり。攻撃ではバスターやダブルスチールなどを効果的に使えるようになるでしょう。また、狙い玉をしぼってチーム一丸となって相手投手を攻略するうえでも役立ちそうです。
野球においてサインを出すのは監督やコーチですが、ボールに一番近い場所にいるのは選手です。選手の意思決定がシンクロすることで、一戦必勝の野球を勝ち抜く確率を大きくあげることができると考えます。


では、野球におけるゲームモデルというのはどういうものなのでしょうか。
日本野球を代表する考え方である”スモールベースボール”は、ゲームモデルに近いものと言えるでしょう。走塁や小技を重視し、1つ1つの出塁や進塁を大切にすることは、勝利をかたどった模型と言えそうです。しかし、スモールベースボールをプレー原則に落とし込んでいる例は、私の知る範囲では見当たらず、ゲームモデルとして機能しているとは言い難いです。プレー原則に落とし込めていれば、送りバントをする場面などを言語化することができ、バントの是非がここまで盛り上がることはありません。

また、最近のトレンドである”フライボールレボリューション”はゲームモデルでしょうか。これは、長打確率が高い打球をたくさん打とうという考え方ですが、どちらかというとプレー原則に近いものでしょう。どうやって勝つかという視点(ゲームモデル)はフライボールレボリューション自体にはないように見えます。


ゲームモデル・プレー原則がはっきりしている例として思い浮かぶのは、健大高崎の”機動破壊”でしょうか。(地元なので思い浮かびました)
機動破壊は単に盗塁をするだけでなく、盗塁や足技を相手に意識させることで相手の配球や守備位置の選択肢を狭めることもします。もちろん出塁するために打力も磨きます。足を中心にして攻守の哲学が成り立っている点で、立派なゲームモデルといえるでしょう。
さらに、健大高崎の走塁にはたくさんのルールがあるようです。例えば、長打を打ったときに二塁打を目指す時と三塁打を目指す時では、3歩目から走る位置が違う、とか。これらのルールはゲームモデルを成り立たせるうえでの主原則や準原則と同様のものといえそうです。


ゲームモデル・プレー原則を明確に定めることができたら、それを実現するための練習も自ずと決まってくるはずです。
勝利をするために練習を組み合わせる(ボトムアップ的練習)のではなく、目標とする野球から練習を逆算する(トップダウン的練習)こと。それに加えて、単純動作の反復練習ではなく実戦形式の練習を多く取り入れると、戦ピリの目標である意思決定のシンクロに近づくことができそうです。


まとめ

野球に戦術的ピリオダイゼーションのアイデアを組み込むことで、意思決定のシンクロ率をあげることができます。野球は攻守が別れていて、サッカーのような流動性があるスポーツではないので、戦術的ピリオダイゼーションをすべて移植することはできませんが、部分的に参考にできる部分もあはずです。特に練習時間や資源が限られているアマチュアチームが、効率的に強くなるうえでは参考になるのではないでしょうか。

そういえば、日本選手権に国立大として唯一出場した和歌山大はサインなし野球だそうで、戦術的ピリオダイゼーションに近いことをしているのかも知れないですね。どんな野球をするのか、どんな練習をしているのか、今度調べてみようと思います。

参考文献

朝日新聞デジタル:
全日本選手権唯一の国立大 和歌山大野球にサインは無用
https://www.asahi.com/articles/ASP645S3TP62PTQP008.html

機動破壊 健大高崎 勝つための走塁・盗塁93の秘策

サッカーとは何か 戦術的ピリオダイゼーションvsバルセロナ構造主義、欧州最先端をリードする二大トレーニング理論 (footballista)

「戦術脳」を鍛える最先端トレーニングの教科書 欧州サッカーの新機軸「戦術的ピリオダイゼーション」実践編 (footballista)

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