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新見の「悪性リンパ腫になりまして。」vol.2~ミラクルファクトリー代表 青木一将さんと対談

美術館や展覧会の設営、アーティストの作品制作補助などを手がけるインストーラーは、現代美術の現場になくてはならない存在。今回のゲスト、青木一将さんは美術関係以外にも住空間や建築系の仕事もこなす、自他共に認める「何でも作れちゃう器用なお兄さん」。新見も「青木くんはさらに想像を超える面白いことを巻き起こすスーパーインストーラー!」と、絶大な信頼を置く。3年前、病気を乗り越えた新見がその想いを具現化した作品ともいうべき「新栄のわ」の内装も、実は青木さんの手によるもの。ともに作品づくりに取り組んだ二人が「新栄のわ」誕生までのあれこれを振り返る対談企画の第二弾。


新見永治(のわ代表)× 青木一将(ミラクルファクトリー代表・インストーラー)
interview:谷亜由子

出会い

青木:実は僕、大学生の時から新見さんのことは知ってたんですよ。  

新見:え、どうして?

青木:パルルがあったから。十数年前、いろんな人が展示とかやってましたよね。

新見:うん、やってた。でも、ちゃんと出会ったのって最初のトリエンナーレの後ぐらい? 2010年か11年。

青木:トリエンナーレの期間中ですね。どんな出会いだったかはあんまりはっきり覚えてないんですよ。挨拶もしてないと思うし。でもその後にパルルで村っちょの結婚パーティやったじゃないですか。あの時のことはよく覚えてます。

新見:やったやった!村田峰紀くん(パフォーマンスアーティスト・あいちトリエンナーレ2010に参加)の。

青木:そう、そこで僕と(ミラクルファクトリーの)谷さんとまっちゃんが余興で瓦割りやったんですよ。僕と谷さんは黒服にサングラスで立ってて、そこへまっちゃんが裸に革ジャン着て出てきて目の前に積まれた瓦を割るの。全部割れたのに、最後の一枚だけがどうしても割れなくて、よく見るとそこに「二人の絆」って書いてあるっていう、めっちゃバカなやつ(笑)

新見:…バカだねー。あ、でもごめん。そこは全然、肝心なとこ、まったく覚えてないや(笑)

あいちトリエンナーレ2010が繋いだ縁

新見:ところで、村田くんとはどうして仲良くなったの?

青木:村っちょが2010のトリエンナーレに出てて、長者町の会場に僕らが空間作ったから。

新見:ああ、そっか。2010の時は僕も長者町にあったインフォメーションセンター兼カフェだったところで運営として関わってたんですよ。

青木:思い出しました。後にアートラボあいちになった場所。僕、あの空間もけっこうやってるから、そこで新見さんに会ってるんだ。

新見:そうだよね。でも確かにお互い「初めまして、新見です~」みたいな挨拶は一度も交わしてないよね。気がついたらしょっちゅう顔合わせてたけど。

青木:あの時はみんなそんな感じでしたね。友達について行ったら、そこにいる人たちといつの間にか友達になってた、みたいな。

新見:いま振り返るとトリエンナーレの時の長者町って、めちゃめちゃたくさんの人を引き寄せたんだね。青木くんともよく会ってたわりに、一緒に何かをするというのはなかったけど。

青木:うん。そうでしたね。

—— 今回、対談相手に青木さんを選んだのはどうしてですか?

新見:青木くんとはその後、港でもよく会うようになったんですけど、それなのに意外とちゃんと話したことがなかったなと思って。

—— 「新栄のわ」の内装とかいろいろ仕事を頼んだりしてますよね。青木さんの仕事ぶりを見込んでのことですか?

青木:単に頼みやすいからじゃないですか(笑)

新見:はははは…いやいや、実際に作業をしてる現場を見たことはないんだけど、青木くんの仕事自体は僕、相当見てるから。長者町だけじゃなくて豊田市美術館のやつとかも。

青木:「悪魔のしるし」とか?

新見:そうそう。

—— それはどんな展示だったんですか?

   新見:「悪魔のしるし」っていうのは2017年に亡くなった危口統之さんが主宰してた劇団で、よく知られているのは、まず大きな作品を作って、狭い隙間とかをすり抜けながら建物の中に入れていくっていうのをやってた。

青木:「搬入プロジェクト」っていって、搬入することを目的としたパフォーマンスなんですよ。いかにドラマチックにものが入っていくかっていう、あれ、めっちゃ面白かったですよね。

新見:面白かった。青木くんがあれを手掛けたのはどういう経緯だったの?

青木:たしか、山城くん(美術家・映像作家の山城大督さん)が僕らを推薦してくれて、能勢さん(豊田市美術館学芸員の能勢陽子さん)から話があったんじゃなかったかな。

新見:なんか大きな壁みたいなのにいろんなものが組み込まれてる作品もあったよね。

青木:ああ、それは設計図のない方の作品ですね。あの時、二つ作品を作って、一つは石川さん(「悪魔のしるし」/建築家・石川卓磨氏)のアイデアが元になってるものでちゃんと設計図があったんだけど、もう一つの方は初めから設計図も何もなくて。あるのはただ「危口さん」ていう作品名だけ。危口さん自身を表現するっていうものだったんです。

新見:それがあの板っていうか、壁になったんだ。

青木:そう。最初に山城くんの方から「危口さんのすべてが詰まった箱」っていうアイデアが出たから、じゃあそれをどういうビジュアルにしようかってことで、危口さんの実家にあった遺品をいろいろ持ってきて大きな壁に埋め込んだんです。

新見:なるほど。そういう感じでできたんだ。

青木:あの壁の幅、666mmなんですよ。そこには僕、こだわったから(笑)

新見:666…ああ、「悪魔」だから666!

設計図のないものづくりの面白さ

青木:そう、それで搬入する物体の制作を二つとも担当したんだけど、やってみたら設計図のない方がより面白かったんですよね。まあ僕は大体、そういう面倒くさそうな造作物の時に呼ばれることが多いんですけど(笑)

新見:青木くんの作品というか、それが出来上がっていくプロセスも含めて、僕はなんとなくこの部屋(新栄のわ)にも似てるような気がしてるんですよ。頼む側があらかじめ、こういうものを作りたいのでこうやって作ってくださいって指示するんじゃなく、何もないところから関わって、一緒に考えながら形にしていくっていう感じが。青木くんの場合は基本、図面や設計図ありきでものを作るっていうスタンスではないもんね。仕事としてそういうのもやらないわけじゃないだろうけど。

青木:そうですね。何もないところからいろいろ話し合って作っていくのが楽しいですね、僕は。

—— 何もないところから作るのって、難しくないですか?

青木:難しくはないですよ。逆に細かく指示がある方がやりづらいかな。

—— やっぱり建築の人ではなく彫刻の人なんですね。

青木:そうなんですよね。やっぱ僕はインプロがいいな。アイデアどんどん出てくるし。しかも自分で自分を苦しめるようなアイデアが(笑)でもそっちの方が面白いなって思っちゃう。

新見:僕から青木くんに美術関係の施工を頼むってことはないけど、建物とか空間の内装をどうしようかと考えた時に、普通じゃ面白くないなって思ってて。で、青木くんにはそういうのも頼めるんだって思って「新栄のわ」のことをお願いしたんですよ。

安価なポリカの波板もアイデア次第
「これ面白いでしょ」ポリカの波板でサンドイッチされたスイッチは剥き出しのように見えるけど、しっかり絶縁されている

青木:僕らの仕事って、アーティストから「こういうのが作りたい」って相談されて、それに合わせて設計図を描いて、OK出たら作りはじめるっていうパターンもあるけど、完成のイメージがはっきりしないふわっとした状態から一緒に考えていって、図面も描かずにいきなり作り出すみたいなパターンも多い。「新栄のわ」の場合は後者のやり方に近くて、アイデアから一緒に考えて、設計とかそういうのすっ飛ばしていきなり施工って感じでしたよね。僕も新見さんがやってることって僕らのやってることとどこか似てる気がする。

シェアオフィス「のわ205」共有デスクの足。「普通は垂直に足がつくけどじゃまでしょ? だからこれも普段は見える所に使うもんじゃないんだけど、こうやってつければ便利だしクールじゃない?」
「新栄のわ205」の4連の建具。「本当は建具用のレールじゃないんだけどね。安いし見た目も悪く無いでしょ。」

新見:この部屋をどうにかしたいなというのはずっと前から考えてて、けど、どう仕上げるかってことより、何に使おう、どうやって使おうってところから相談したかった。それで山城くんも交えて考えていたら、誰か住んでくれる人がいると面白いんじゃない?ってことになって、住む人も探してくれたんだよね。あの子の出身どこだっけ?

青木:群馬。

新見:そう。群馬出身の山本千愛(やまもとちあき)さんていうアーティスト。

青木:アーティストっていうか、何者なんだろうね、あの子。

新見:いまではアーティストとして活躍してるけど、当時は居候してたりいろんなところに移動したり、なんだかよくわからない人と思ってた。けどそれも面白かった。

青木:長い木材を持って地面を引きずりながら旅してましたね。引きずってるうちにどんどん木材が削れて短くなったり尖ったりする。それがアート、みたいな。

青木さんが「のわ103」のために作った“山本さん”の小部屋
この階段を登って上で寝れるようにしたんですよ。ここの凹みが気になるんだよな~

—— よくそんな人が見つかりましたね。

青木:山城くんだね。大抵そういう人を見つけてくるのは。

新見:そうだねー。僕はもちろん会ったこともないし、どんな人が来るのか全然わからない。でもあっという間にこっち(名古屋)に向かって歩き始めることになって、気になって静岡まで来た頃にわざわざ会いに行ったりしてたんですよ。どんなふうに歩いてるのか興味があったし。で、だんだん名古屋に近づいてきた時にまた迎えに行って、最後は八事からここまで一緒に歩いたの。

(爆笑)

病気発覚、そして入院

—— 新見さんが入院されたのはちょうどその頃?

新見:そう。その山本さんが2019年の5月頃に来て、間もなく僕が入院することになっちゃったんですよ。トリエンナーレの年だったんだけど、7月ごろに、あれ?なんかおかしいなって思って検査したら手術しなきゃいけないってことになって、9月から翌年の3月まで入院。山本さんはその間にもここで住み続けてくれてて、ちょうど一年経った頃に、そろそろ次の場所に行きますってまた遠くに行っちゃった。

青木:退院してから2階の話を進めたんでしたっけ。

新見:病気が見つかる前から考えてたので退院したらすぐに始めた。そうしたら5階の部屋(シェアハウスとして稼働中)も空いたので両方一緒にやろうってことで。そういえば、入院してる時に世間ではコロナがどんどんヤバくなってきてて、3月にようやく退院できて、やっと遊べるー!って思ったのに、出てきたらまちじゅう閉鎖してるっていうね。

青木:ライブとか展覧会とか全然やってなかったし。だけど僕らにとってはそれがちょうどよかった。というのも、美術関係の仕事が減ってけっこう時間があったんですよ。

新見:そうだね。それはよかったかもしれない。

世代の差を超えて

—— ところで二人は年齢も離れていますが、お互いの印象ってどうなんですか?

青木:確かに僕から見たらずっと年上の人なんだけど、普段こうして話してても世代の差をまるで感じないですね。

新見:30歳ぐらい離れてるのかな?

青木:そうですね。それぐらい違いますね。

新見:僕は普段、誰かと話をしていて歳の差を感じることはほとんどないの。でも最近は年下の相手が僕との歳の差を意識してるなって感じることはあるかな。まあ30とか、下手したら40も違うこともあるわけだからそれも仕方ないよね。そもそも同世代の人が周りにあまりいないんだけど、たまーに同じぐらいの歳の人と話したりすることがあったとしても、まったく話が合わないし、会話の接点がほとんど見出せない。

青木:(笑)いやあ、そうでしょうね~。

新見:10歳下ぐらいの、比較的近い世代の人でたまたま話の合う人に出会うと、それだけでめちゃくちゃ嬉しくなっちゃう。結局、30歳ぐらい違っていてちょうどいいのかも。

青木:そういう人ってなかなかいないですよね。新見さんが俺らの歳ぐらいの時に、30歳も年上でこんな感じで付き合える人っていました?

新見:うーん、いなかったな。いまだって建築家とかアート関係に同世代の知り合いもいないわけじゃないし、しっかり仕事のできる人たちばかりだけど、多分その人たちにこの部屋の使い方とかを相談しても、さっき話したような山本さんみたいな人を連れてきて住まわせようとか、そんな展開には絶対にならないでしょ。でも僕、こっちの方が断然、面白いんだよね。

完成してから生まれるこだわり

青木:僕らの施工に関しても、新見さんから細かい注文とか全然ないっすもんね。

新見:建物の色や形に関しては特に、自分ではまったくアイデアが浮かばない。だから、こうしようって言ってくれたらもうお任せでいい。青木くんなりにいろいろ考えた上でそれが最高だと思って提案してくれてるんだろうっていうのがわかるから。

青木:見栄えとか細かいところの造りにこだわるっていうよりも、思いつきで作っていく即興の面白さそのものが新見さん流のこだわりかな…。

新見:場所に対する愛着とかこだわりは、きっと空間が完成して使い始めてからできていくので。

青木:そうかもしれないですね。「新栄のわ」に関してもどういうコンテンツが入ってきて、そこから何が起きるかっていうようなことを一緒に考えてきましたよね。でも本当は僕、実際に人が住む空間よりも美術館の仕事とかの方が気持ちは楽なんですよ。なぜかって言うとあれは仮設、つまり、ひとときのものだから。期間が来れば消えてなくなってあとは記憶の中だけに残っていくものじゃないですか。逆に人が住む場所は期限があるわけじゃなく、そこにずっと人がいる。ちょっとした不具合とか騒音問題とかシビアな問題もついてくるから責任の重さが違う。

新見:だからこそ、施主側も同じように責任を負ってくれるぐらいの相手じゃないと成立しないのかもね。

青木:そう。施主さんも僕らと同じくらいファンキーじゃないと(笑)

—— 即興を面白がるファンキーな二人の関係はこれからどう展開していきそうですか?

青木:そうですねー、とりあえず、今後も気軽に「鍵が壊れた!」って電話してくれればいつでも駆けつけますよ(笑)

新見:はははは…トイレの鍵とかね、壊れると業者さん呼ぶみたいにすぐ頼っちゃう。でも青木くん、忙しいのにすぐ来てくれるね。

青木:そこはまあ、県美で仕事やった帰りとか、ちょうどいいところ狙って来るんで大丈夫ですよ!

新栄の街を歩きながら。対談後、みんなで中華料理屋さんに。ボリュームいっぱいお腹いっぱいの名店

□青木一将さんプロフィール


ミラクルファクトリー代表。ミラクルファクトリーとは、青木一将を中心に結成された現代美術のインストーラーチーム。あいちトリエンナーレ(国際芸術祭あいち2022)や美術館の展覧会などで作品を効果的に見せるための展示設営や、アーティストの作品の構想を可視化・具現化するための制作補助などを行っている。アイデアをカタチにする、クリエイティビティーと高い技術力とパワーを持つプロ集団。


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