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チャンスが巡って逆転勝ち -第2期VSリーグ 対かくきりこ戦

※カバー画像に深い意図はありません.

▲かくきりこ 三段 VS △新橋歌織 二段
(令和6年5月12日・VSリーグ)
持ち時間各10分・フィッシャー1手5秒

初手からの指し手
▲26歩 △34歩 ▲25歩 △33角 ▲96歩 △84歩 
▲97角 △62銀 ▲26飛 △85歩 ▲48銀 △84飛(第1図)

【第1図は△84飛まで】

2度目の対戦

 かくきりこさんとは2度目の対戦でしたが,ニコニコ将棋界隈との縁が深く,昔からよく知る存在でした.特に第1期△杯(ニコニコ将棋界隈の3人x5チーム団体戦;https://note.com/sara_minobe/n/n85bd2e4e8659 )での縁が大きかったでしょうか.弊チームリーダーのポメヒさんと仲良くなったのもこの大会で同チームになった縁であり,なにかと不思議な巡り合わせを感じます.
 △杯もハンデあり団体戦で,私(当時1級)はかくきりこ三段より2階級低い扱いでした.本戦では同階級差(私二段vsかくきりこさん三段)の対戦になったため,この2年半の進歩を感じるところです.

第1図以下の指し手
▲39金 △42銀 ▲68銀 △31金 ▲58玉 △71金
▲79金 △52玉 ▲16歩 △14歩(第2図)

【第2図は△14歩まで】

相アヒル

 かくきりこさんは四間飛車穴熊とアヒル戦法を得意とする力戦型.四間飛車穴熊に対しては居飛車穴熊で互角以上に戦える自信がありましたが,問題はアヒル対策.最近のネット対戦ではアヒルに対して相アヒルを挑みかなり高い勝率を出しているので,アヒル相手には指し慣れている相アヒルで対抗することに決めていました.ニコニコ将棋の団体戦でも相アヒルの登場は慣例化していたため,その流れを継いだ部分もあります.

第2図以下の指し手
▲46飛 △35歩 ▲38金 △22角 ▲45飛 △13角
▲75角 △34飛 ▲66角 △33桂 ▲85飛 △74歩
▲55角 △73桂 ▲83飛成(第3図)

【第3図は▲83飛成まで】

4五飛車からの展開

 金銀4枚を守りに使う相アヒルは手詰まりになりやすく,飛車角を動かしあう手待ち合戦になることもしばしば.そこで私の研究が,石田流に構えてから相手の手待ちの間に両方の桂馬を跳ねる手順です.これにより飛車角2枚の攻めが飛角桂桂の4枚の攻めになり,より強く戦えることが多くなります.
 対するかくきりこさんは ▲45飛 から歩を取りに来る作戦で来ました.手順に石田流に組んで桂馬を跳ねられたので龍を作られても不満がなく,ここからのカウンターが楽しみとみていました.しかしこの場面は先手有利とみるのが自然なようで,ここから苦戦を強いられることになります.

第3図以下の指し手
△36歩 ▲73角成 △同銀 ▲同龍 △62角 ▲83龍
△37歩成 ▲同金 △25桂 ▲35歩 △同飛 ▲36歩 
△37桂成 ▲35歩 △38成桂(第4図)

【第4図は△38成桂まで】

細かい分岐

 △25桂 の所では △45桂 と中央に利かす手もありましたが,歩の補充を優先.▲35歩 の叩きは予想していたところで,一旦は持ち歩を増やすために飛車角どちらかで取る予定でした.どちらを残すかは難しいところですが,13の角は相手陣の中央に効いており,残す価値が高いと判断します.結果的には,これが後の流れに大きく影響することになりました.
 △38成桂 と拠点を残したところでは,△48成桂 ▲同玉 △84金(参考1図)で飛車を取りに行く展開もあり,迷ったところです.飛車が手に入れば相手陣に打ちながら,自陣の守りにも効くのが強い.本譜では相手にプレッシャーを与えるために成桂を残す手順を選びましたが,△84金 を狙うのが本筋だったかもしれません.

【参考1図は△84金まで】

第4図以下の指し手
▲64桂 △同歩 ▲63銀 △41玉 ▲59銀右 △84金
▲62銀成 △83金 ▲71成銀 △28飛 ▲69玉 △49成桂
▲55角 △29飛成 ▲61飛 △32玉 ▲33金 △同銀
▲同角成 △同玉(第5図)

【第5図は△33同玉まで】

錯覚

 かくきりこさんは激しい攻め入りを好む終盤型で,いきなり ▲64桂 と行くのは彼女らしいところでしょうか.下がる手もありますが攻め駒として使えるとみて △同歩 と取る手を選択.ここで ▲59銀 と手を戻すのは,変調のように感じました.おかげで△84金とさっき取り逃した龍を取りに行く手が入ります.私はここで ▲62銀成 △同金 ▲81龍 を予想しており,これは負けだと思っていたので予想外でした.
 ▲55角 は攻防の名手で,勝ちを狙うなら龍を逃がすしかないところ.飛車を逃げた際に ▲61飛 と打たれた時,△32玉と逃げる手が ▲33銀 からの詰みになるため, ▲61飛 には △51桂 と合駒して耐えているかを読んでいる途中で,▲61飛 △32玉 ▲33銀 が詰みではないことに気づきました.そしてまさかのかくきりこさんも私と同じ詰み筋を読んでいたのです.
 本譜で ▲33銀 △同玉 ▲同角成 △同玉 と清算する手はよくある詰み筋ですが,この場合は31の金に13角の紐が付いているため,私の王様が寄らない状態.かくきりこさんに読み抜けがあった形で,形勢が一気にひっくり返りました.▲33銀 に替えて ▲34歩 と伸ばし次の ▲33銀 を狙う手なら難しい展開ながら,私が指しにくい将棋だったと思います.

第5図以下の指し手
▲34銀 △24玉 ▲64飛成 △37角 ▲65龍 △59成桂
▲78玉 △55桂(第6図)

【第6図は△55桂まで】

第2ラウンド

 一転して私有利の状態になりましたが,△24玉 と逃げた局面は王様の逃げ先が少なく,大変な将棋になったと思いました.35の歩を王様で払いたいですが,その瞬間に ▲45龍 とされると頓死するため,そのケアを中心に考えたところ.また,▲25歩 と打たれ △同龍 ▲同銀 と龍を抜かれる筋もあり,考えることが多い局面でした.角の効きを活かした △55桂 は単に飛車の横効きを止めるだけでなく,将来的に玉頭を攻める足掛かりになる意味もあります.チームメンバーの中では △19龍 と香車を取って ▲24歩 が打ち歩詰めで指せないという意見もあったそうです.これはさっぱり思いつきませんでしたが,もし見えていても怖すぎて指せません.本譜の進行が一番安定していた気がします.

第6図以下の指し手
▲56龍 △44桂 ▲86龍 △35玉 ▲43銀成 △58成桂
▲同金 △97銀(第7図)

【第7図は△97銀まで】

震える手で打つ銀

 ▲45龍 を消すために龍を追い払い,△35玉 と出てようやく自玉が安全になりました.△35玉 に替えて △85歩 ▲同龍 △84歩 と先手を取る手も考えましたが,方針を一貫することに決めます.△58成桂 は寄せに行く決断の一手で,▲同玉 には △82銀(取れば玉の裏から金打ちで詰み),▲同金 には △92銀(▲同香 △91銀 で退路封鎖) か △93銀(取ればやはり玉裏に金うち) を考えていました.本譜では88と86の2地点に利かした △97銀 を選択しました.これは後戻りが出来ない選択で,しかもかくきりこさんが読み抜けした直後に私が読み抜けして再逆転を許すことはできない.良い筈だと確信はありながらも,打つ手が震えました.

第7図以下の指し手
▲76歩 △88銀打 ▲86歩 △79龍 ▲87玉(第8図)

【第8図は▲87玉まで】

幻の詰み

 △97銀 から △88銀 と繋ぎ,逃さないように迫ります.△79龍 と入った手は68の金を拾いながら相手玉を追い詰める意図でしたが,ここに詰みがあったようです.第8図以下 △77銀成 で ▲同金 でも ▲同桂 でも △88龍 まで3手詰めでしたが,詰みがないと決め打っていたゆえか,考慮時間は1分残していたにも関わらずさっぱり思いつかず,終盤力の弱さが出たところです.

第8図以下の指し手
△68龍 ▲95歩 △89銀成 ▲96玉 △47桂成 ▲74龍
△64金 ▲85龍 △45歩 ▲27金 △74金打 ▲36歩
△46玉 ▲74龍 △同金 ▲56金(第9図)

【第9図は▲56金まで】

第3ラウンド

 かくきりこさんの粘りは凄まじく,9筋から王様を逃げられ再び捕まえるのが大変な展開に.△37角 の効きを作る △47桂成 から △64金 で王様の前を抑える手順は,持ち時間を使い切り1手5秒しかない中で見えた最高の手でした.対するかくきりこさんも ▲27金 から読み切るのが大変な展開に持ち込みます.▲56金 では一瞬血の気が引きましたが,44の桂馬で取れる位置でした.率直に言えば,幸運だったと感じるところです.

第9図以下の指し手
△56同桂 ▲同歩 △84桂 ▲97玉 △96金(終局図)
まで,116手で新橋の勝ち

【終局図は▲96金まで】

激戦を制す

 △84桂 以下,金打ちまで詰み.互いに残り時間は10秒少しで,一局通して30分の激戦でした.かくきりこさんの読み落としに救われる形で,言ってしまえば幸運による勝ちであり,研究の深度では完全に負けていたところ.相アヒルの選択は,アヒル党のかくきりこさんでも流石に相アヒルはそこまで経験がないだろうと踏んでのことでしたが,かくきりこさん主催の相アヒル限定アリーナが過去に開催されたと聞いたのは対局後の話でした.劇的な勝ちではありましたが,格上相手への逆転勝ちはそうそう狙えるものでもないため,より地力を付ける必要性を感じます.

本配信のアーカイブ

 最初にみたときは右の人(一宮真純くん)の声量が大きすぎて,ジョン・カビラがサッカーを実況している番組を開いてしまったのかと思いました.聞き手でも解説でもなく「実況」ということで,勢いが凄い.事前アンケートの結果を参照して選手像を解説していくスタイルは流石というところです.でも選手名を言い間違えたり持ち時間を取り違えていたり,焦りのようなものも感じました.

チーム配信のアーカイブ

 ポメヒ(チームリーダー)泣いてて草.それほどまでに熱意をもって応援してくれる仲間が居るのは嬉しい限り.

対局相手 かくきりこさん視点配信

 今回は本配信と対局相手の視点配信があったので,動画やライブでの振り返りではなくテキスト形式にしました.しかし思ったより作成が大変だったので,次回から振り返りをやるとしたらライブになるかもしれません.
 なおこの記事はとある棋書内での自戦記の構成が好きなので,それをお借りしています.

 対局相手のかくきりこさん,チームメンバーの皆さん,VSリーグ運営の皆さん,そして見てくれている視聴者の皆さんに感謝を.

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