レートの前借りという逆張り概念

定跡への疑問

 勝ちやすい作戦を選ぶ. 将棋は最後まで諦めない. 初心者から有段者までよく言われることだが, それだけが定跡なのか.
 これは逆張りで強くなった(級位=3から段位=2まで)私の(n=1の)体験談を元にした将棋上達法の話.

勝ちにくい作戦を選ぶ

 一般論として, 将棋には勝ちやすい作戦と勝ちにくい作戦がある. 勝ちやすいものには①囲いが硬い②先攻できる, 攻め筋がわかりやすい③相手がミスをしやすい(要するにハメ手奇襲)などがあるだろう. 逆に①〜③をどれも満たさないのが勝ちにくい作戦と言える. 勝ちやすい作戦を選ぶのも普通だが, 私は将棋ウォーズだと勝ちにくい作戦を選ぶことが多い. 勝ちにくい作戦は一手のミスや手順前後が即負けに繋がることが多く, 熟考して丁寧に指すことが多い. その方が一手一手を確実に覚えられるため, 実力が安定するように思う.
 具体例を挙げる. ノーマル四間飛車に対する作戦として, 居飛車穴熊やトーチカ囲いは囲いが固いので勝ちやすい. 初級帯だと攻め筋がわかりやすい右四間飛車や45歩早仕掛けがその仲間に入る. 逆に玉頭位取りや53銀左急戦は勝ちにくい作戦と言える. 私自身も穴熊を指す時はどうにも攻め手が雑になりがちだが, 急戦を採用する時は丁寧に進めることが多く, 後者の方が自力を高められていると思う.

悪い局面は早めに投げる

 駒をタダで取られたり, 形勢を大きく損ねたりした時は早く投了した方がいい. 大会や団体戦, あるいは昇級(段)など, "ここ1戦を落としたくない"という事情がある時は粘り勝ちの可能性を残した方が良いだろうが, そうでないレート戦ならさっさと投げた方がいい.
将棋の上達には似た局面を何度も迎えて, そこで指すべき良い手を重ねていくのが最も良い. その繰り返しによって, 同じ戦型で勝ち切るパターンを学べる. 良い手を外れた先の局面を続けることには"あれは悪い手だった"以外の学びがない. それなら早く次の対局に行き, "次は悪手を指さないようにしよう"と意識した方が効率は良い.

 具体例を上げると, これは居飛車対振り飛車の1場面で, ▲45歩(左図)に振り飛車が△45同歩(右図)と間違えた局面. ▲33歩△同桂は銀が飛車で取られるので△同飛車も▲同角成△同桂▲34飛△24角▲33飛成 で振り飛車悪い. 唯一の正着は△43金だった.
振り飛車からすれば△43金からの進行は繰り返し経験する価値があるが, △45同歩からの進行は続ける価値が無い. よって振り飛車は△45同歩が間違えだと気づいた時点で投げるべき局面である. この先粘っても得るものはない(ただし53銀型船囲いは薄くミスが出やすいので, 実戦的に居飛車が勝ちきるのも簡単では無いのだが...).

レートの前借りと後ろ倒し

 勝ちやすい作戦を選び, 早投げをやめれば確かにレートはすぐ上がる. しかしそれは, いつか上がるレートを前借りしているに過ぎない. それによって雑な指し手でも勝てるから良しとなってしまうと, そのあとの上達に響く. 即効性はあるが後から副反応が来る, ドーピングのようなものと言える. 逆に勝ちにくい作戦で早投げする指し方は, 上達がゆっくりに見えるかもしれないが, 無理な伸びをしていない分, 上達が止まることは無いと思う. 着実に鍛えた筋肉は裏切らない.

個人差

 結局の所, 上記のは私の考え方であって, 世間的には勝ちやすい作戦を用い, 最後まで粘るというのが主流らしい. 別にそれでも良いのだ. ただ, それだけが王道というワケでは無いという話である.
 「粘っていると悪い癖が付くのであまり粘らない」とは横山4段の談.プロ棋士でも様々である.

 私自身は昇段直前だけ振り飛車穴熊と居飛車穴熊を指し, 関係ない時はノーマル振り飛車+美濃囲いか対振り急戦にすることが多い. これは昇段直前だけ, 後ろ倒しにしていたレートを前借りしているという意味である.
 そういえばプロの小倉久史8段も"4段昇段までは振り飛車穴熊で戦ったが, プロ入りしてからは振り飛車+美濃囲いで指してきた"と述懐していた(三間飛車穴熊の全て, の序文より) . 対照するのはおこがましいけど, 私と同パターン.
 それでは, 皆さま良き将棋ライフを.

追記: へなちょこ急戦や米長流急戦矢倉ってめっちゃ勝ちにくそうな陣形だけど, 流行ってるのは不思議なコトですネ.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?