推したい百合、『ブルーフレンド』

――あたしは今まで いろんなものから目を背けて生きてきた
目を凝らせば こんなに 自分の世界が輝いて見える
『ブルーフレンド』第2巻「ブルーフレンド 〜after days〜」(一部の台詞を中略)

私の「推したい百合」として、『ブルーフレンド』第1・2巻についての紹介や感想、ちょっとした考察のようなものなどを書いていこうと思います。

『ブルーフレンド』は、少女漫画雑誌「りぼん」に掲載され、2010年から2011年にかけて全3巻が集英社から出版されました。
第1・2巻と第3巻では登場する人物や設定が異なっており、今回は栗原くりはらあゆむ月島つきしま美鈴みすずを中心として物語が動く、第1・2巻について書いていきます。
是非お付き合いいただければ幸いです。

注意事項
この物語は「男性に対するトラウマ」がひとつの要素として登場しますので、苦手な方はご注意ください。


『ブルーフレンド』を勧めたい人

『ブルーフレンド』の冒頭をまとめたものが以下になります。

中学2年生になったばかりの栗原歩くりはらあゆむは、クラス替えで隣の席になった月島美鈴つきしまみすずに話しかけてみるが邪険にされてしまう。美鈴はその容姿と性格のせいで、男子生徒からは評判が高く、女子生徒には疎まれている存在だった。
恋愛とは未だに縁がなく、そんな彼女とは遠い存在にいると思っていた歩だったが、女子生徒に絡まれていたのを助けたことがきっかけで、少しずつ打ち解けていくことになる。
『ブルーフレンド』第1巻「第一話」の内容を要約

物語は、主人公の歩が人付き合いを避ける美鈴に出会うところから始まっていく。察しのいい方には、これだけでも愛おしい百合の世界が広がっていく予感がするかもしれない。
ここからは特におすすめしたい人を挙げていこうと思います。

  • 思春期のリアル感を味わいたい人

『ブルーフレンド』の世界は「リアル感」がある。勿論すべてが「現実的」ではないのだが、少なくとも歩や美鈴を取り巻く世界は嫌というほど厳しい。ちょっとしたズレが批判を生み、ちょっとした思惑が心を傷付け、事実や偏見、冗談が恐ろしいほど早く広まっていく。
狭い世界でしか生きられない思春期に逃げ道は少なく、彼女たちの住む世界の生きづらさを感じさせられる。美鈴のようなキャラクターにとっては尚更……。

大人たちだって一筋縄ではいかない。『ブルーフレンド』に登場する大人は、総じて「嫌なやつ」もしくは「嫌い」という評価が下されるかもしれない。
そんな「リアル感」のあるやつらが蔓延はびこる世界に、歩と美鈴、そしてもう一人の主要人物である東五月あずまさつきは生かされている。

痛みを通して繋がっていく二人の関係を見たい人に、おすすめしたい。

  • 「依存心」というワードにピンとくる人

…欲が止まらないの… …あたし…
他の誰かを想う歩を見るたび壊れそうだった
…一人にしないで… お願い キライにならないで 歩
『ブルーフレンド』第1巻「第三話」

初めて歩み寄ってくれた人に対して見せる、依存心・独占欲がこの物語の関係性をより強固にしている。愛し方を知らない美鈴の接し方は、歩を怖がらせるまでになるが、ある事実を知ることで歩はそれを受け入れてしまう。
そのままエスカレートすれば、立派な「共依存百合」の完成だが、そこに至るまでに対する歩の感情が、『ブルーフレンド』のひとつのテーマなのかもしれない。

『ブルーフレンド』というタイトルの通り、この物語は「友達」に焦点が置かれている。「友達」の認識は人によって様々だが、いずれにせよ重すぎる感情は相手を悩ませる(もしくは避けられる)。優しい歩は前述の通り受け入れてしまうのだが、そのせいで悩み苦しむことにもなる。

歩と美鈴――二人の「友達」に対する認識のズレが何を生み、何を傷付けるかを味わって欲しい。

歩はあたしのこと好きだよね!?
嫌いになったりしないよね!?
じゃあもう他の女の子と仲よくしないで!
あたしは歩さえいればそれでいい だけど歩はちがうの!?
歩はあたしのこと
『ブルーフレンド』第1巻「第五話」(一部の台詞を中略)

重いね


「友達」が「人生」を色付ける

美鈴は最後まで逃げ惑い、歩は必死に追いかけていくが届かない。ようやく届いたラストシーンも、読み手がどういう思いで受け止めるべきか判らず、いろいろな解釈ができるだろう。
後日譚の「ブルーフレンド 〜after days〜」で美鈴の問題が解決されていくのだが、本編は苦しい余韻が襲ってくる。そのまま後日譚に進んでもいいのだが、ここで立ち止まって自分がどういう感情や解釈を抱いたかを楽しんで欲しいと感じる。

さて、それを乗り越えた「ブルーフレンド 〜after days〜」では、「守られる」存在であった美鈴が「歩とともに歩んでいける」存在になれるまでが描かれている。美鈴が歩によってどのように変化していくのかを見ていって欲しい。

美鈴を襲った「トラウマ」は簡単に解決できる問題ではないし、フィクションだからといって適当にあしらっていい物ごとではない。そして、ここまでの「トラウマ」はなかったとしても、誰にでも忘れたいなと思うことはある。だけど、生きていく以上、折り合いを付けないといけないことも確かだろう。

成長を迫られ何度も逃げざるを得なかった美鈴が、歩という「友達」を得て、どんな風に「人生」を色付けていくのだろうか――。

歩と出会えてよかった
この気持ちはきっと ずっと 一生変わらない
『ブルーフレンド』第2巻「ブルーフレンド 〜after days〜」

そして、この「友達」という言葉に何を感じ取るのかがひとつのテーマにもなっていると感じる。
シンプルな「友情」なのか、「恋愛」なのか、その中でもいろいろな解釈が生まれるだろうし、他にも考えられることもあるだろう。

敢えて述べると『ブルーフレンド』の感想の中には、理由は様々(「トラウマ」や結末など)だが「百合とは言えない」や「百合としては弱い」というものも存在する。それぞれの「百合観」によって判定が異なりそうなのも、ひとつの魅力なのかもしれない。
私は「人生を変えるまでの関係性」に「強い百合」を感じた。


「友達」と「青」

考察とまで書いてしまうには稚拙な内容にはなるが、『ブルーフレンド』について感じたことをちょっとだけ深く書いてみることにする。

『ブルーフレンド』はそのタイトルの通り、歩と美鈴が「友達」になっていく物語と考える。その目標を遮るように、バックグラウンドの大きく異なる二人には大きな障害が立ちはだかってしまう。

一つは、物語の世界観を形成する周りの人々の存在だろう。
心を開けない美鈴に味方する者はおらず、唯一真っ直ぐに手を差し伸べようとする歩でさえも、ただ「二人が一緒にいるのに納得がいかない」という理由で容赦ない非難を受ける。

もう一つは、「友達」に対する認識のズレである。
愛し方を知らない美鈴は歩を束縛し、一度は離れていってしまう。美鈴に「居場所」がないことを知った歩が、美鈴のために友達になろうとするも、自身の友達観との齟齬に違和感を覚え、衝突を生むことになる。
その後、美鈴の過去を知り、今度は歩自身が美鈴を支えられる存在になりたいと駆け付けるが、その光こそが影を生み、美鈴を自殺未遂にまで追い詰めてしまう。

『ブルーフレンド』のゴール(物語の目標)は決してトラウマを乗り越えることではなく、これらの障害を乗り越えることにあると感じた。

絡め取るような依存心も、一方的な守護欲も、嫌われたくないがための隠しごとも、眩しすぎる決心も、きっと二人が本当に欲していた「友達」ではなかった。
そして、そのズレが本編で解決されることはなく、そこが苦しい余韻に繋がっていく。もやもやとした気分を感じてしまうのは、歩と美鈴の未来を案じているからかもしれない。

本編はあくまで歩の物語であり、だからこそ、ゴールには決して辿り着けない。しかし、「ブルーフレンド 〜after days〜」で美鈴が変化することによって、ようやく物語に終止符が打たれる。

二つの障害のうちの前者は、美鈴が一歩ずつ踏み出すことによって解決されていく。それを表したのがこの文章の冒頭で引用した台詞である。

そして、後者も――、

歩がいない場所でも
自分の足で立って歩けるような
そんな人間になれるように
『ブルーフレンド』第2巻「ブルーフレンド 〜after days〜」

別離の選択によって依存心から脱却したことを示しているのだろう。悲しい別れのはずなのに、清々しい気分を感じる。
紆余曲折の先に、歩と美鈴は二人が到達すべき「友達」になり、物語は幕を閉じる。

ブルーフレンド』には「青」という色が使われている。寂しさや不安などを感じさせる色だが、一方で「」や「」など、無限に広がっていく「青」も存在する。読み始めた時点ではネガティブな感情の色だと感じたが、読み終わった今では、歩と美鈴が出会ったことによって、広がっていく世界を想起させるものに思えている。


終わりに

私にとって『ブルーフレンド』は、私の「百合観」に「生きづらさの中にしか生まれない関係性」という概念を埋め込んだ物語だといえます。
そんな影響を受けた私の「推したい」理由が伝わっていれば幸いです。

ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?