【コラボ小説】友達契約
はじめに
今回、白米士椏さまとのオリキャラうちよそ企画で、コラボ小説を書かせていただきました。
本当に本当に、ありがとうございます!
キャラクター紹介
乙宮 圭太(おとみや・けいた)くん
白米さんの御作、「運命だと決めるなら」に登場するキャラクター。大人しく無口な子。
https://novel18.syosetu.com/n0485ij/
コルンバ
拙作、四つ星男子のセンセーション! に登場するキャラクター。穏やかな性格の変人。
本編
1話
「……暇だなぁ」
屋根の上で羽根を休めていた小鳥が、私の言葉に同意するように、チュン、と愛らしい鳴き声を上げる。
この日は、私の暇発言にツッコミを入れてくる仲間が居ないので、自分自身で否定をするしかない。
ここ、クレセント王国を最前線で護る魔法騎士の長たるこの私、コルンバが暇だ、ということはつまり、それだけ平和だということだ。
「いつものメンバーすら忙しいって言うのに、私だけ休暇だなんて。まったく、スケジューリングミスにも程がある」
発する言葉全てが独り言になる稀な状況に、思わずため息を吐く。
昼下がりのクレセント王国城下町は、活気に溢れていた。
近頃は、やれ戦いだ何だと多忙を極めていた事もあり、王都を気ままに散策するのは久々だ。
昼食がまだなので、何を食べようかと屋台を見て回る。
その時だ。
「まったく持ってねェ訳がねェだろ! アァ!?」
突然聞こえて来た怒号に、思わず足を止める。声は、この先の路地の方からだ。
――これは、穏やかじゃないね。
この国を護る魔法騎士トップの四英星として、トラブルは見過ごせない。
私は、足音を立てないように、声のする方に向かった。
「だから、本当に何も持ってないって言ってるでしょ。というか、しつこいしうるさい」
「な、何だと……ッ!? もういい、野郎ども! やっちまおうぜ!」
おっと、これは本当に楽しめそ……いや、いけない状況だ。
物陰から出て、コツ、コツ、とゆっくり足音を立て近づく。そこにいたのは、屈強な男性が三人と、細身の男性が一人。
「だ、誰だテメェ!」
「……誰?」
「麗らかな陽気だね。こんな良い天気に、喧嘩だなんて頂けないな」
ゆっくりと近づいていくと、屈強な男性のうち一人が殴り掛かってくる。
それを片手で止め、そのまま手を捻った。
「痛ッ、や、やめろォッ!」
「やめて欲しくば、三つ数える間に、この場から立ち去ってもらおうか」
そう言って、男性を一睨みする。すると男性は、ヒッと声をあげ、まるでお化けでも見たかのように顔を歪めた。
「三、二――」
「わ、わわ分かった! 立ち去る! 立ち去るから離してくれェエ!」
喚く彼の腕を放す。よろけた彼に、笑顔を向けると、慌てて立ち上がりそそくさと逃げて行った。
「意気地無しだなぁ」
「……ッ!?」
残る二人は、言葉を失い、私を見ていた。
そんな彼らに笑顔を向けると、彼らはヒッと声をあげた。
「お、お前はまさか……あの四英星……!?」
「さあね。で? 君たちは私の相手になってくれるのかな?」
そう問いかけると、残る二人は、大きく首を横に振り、捨て台詞を吐いて逃げ出して行った。彼らを見送り、細身の男性に目を向ける。
「こんにちは、いい天気だね」
「……」
おや、警戒されてしまったみたいだ。
2話
「そう警戒しないで。私は通りすがりのただの暇人だから」
「……」
ね? と笑ってみせる。
他意は無い。だって本当にただの暇人だから。
それにしても、彼の服装は初めて見るものだ。この辺りの服屋では見かけないような感じがする。
「あの。ひとつ、聞いてもいい?」
恐る恐る、と言った感じに口を開いた彼に、私は笑顔で頷く。
すると、彼は警戒は解かずに、続けた。
「……ここ、どこ?」
***
「なるほど。つまり、君は気づいたらここにいて、ここがどこなのかも、どうしてここにいるのかも分からないんだね?」
私の問いに、控えめに頷く彼。
事の経緯は大体分かった。
彼は、コウコウ、という学園に通っている学生で、帰宅する途中、気づいたら見知らぬ地――ここクレセント王国城下町にいたらしい。そして、あの集団に絡まれてしまったようだ。
「ふむ……。不思議なこともあるものだね。君の言う、ニホンという国は聞いたことが無いな。異国であることは明確だけれど、言葉は通じるのも不思議だし」
「俺も、クレセント王国、なんて国は聞いたことが無いよ」
互いの住む国について、互いが何も知らない。なのに、互いが今、同じ場所に立っている。
まさに、不思議、としか言いようの無い状況。
――さて、どうしたものか。
その時、シンクロしたように、二人の腹の虫が、ぐぅーっと鳴った。あまりにもタイミングがピッタリだったので、思わずくすっと笑い声をあげる。
「あはは、お腹が空くのは万国共通みたいだ。着いてきて」
「え、でも」
「大丈夫さ。私も昼食まだなんだ。腹が減っては何とやら、だろう? まずは場所を変えて、どうするか考えた方がいい」
戸惑いを見せる彼だが、私の言葉に納得したのか、やがて頷いてみせた。
そんな彼を連れ、路地を出る。
「そういえば、まだ名前を聞いて居なかったね。私はコルンバ。君は?」
「……乙宮、圭太」
「圭太、よろしくね」
握手を求めて手を差し出す。少しの間を置いて控えめに握られた彼の手は、ほんのりと温かかった。
「私がよく行くレストランに案内しよう。まあ、案内と言っても、すぐそこなんだ。ほら、着いちゃった」
魔法舎から近いこの店は、まだ見習いだった頃からよく来ていた店だ。特にパスタが美味い。
店に入ると顔なじみの女性店長が、こちらに向かって敬礼をした。彼女に手を振って返す。するとその時、隣にいた圭太が顔を歪ませるのに気づいた。
「こんにちは、コルンバくん。いや、今はコルンバ様かしら? そちらの彼は?」
「ああ、こんにちは店長。いや何、ちょっとした知り合いさ。それより、個室は空いているかい?」
「え? いつものカウンター席じゃなくて?」
笑顔で頷く。珍しいわね、とか言いながら、ちょうど空いていた個室に案内される。
個室に入り、店長が離れた瞬間、圭太は大きなため息を吐いた。
「……しばらく息を整えているといい。私は水を持ってくるから、君は休んでいて」
「……なんで」
少し苦し気な呟きに、個室を出ようとした私は彼を見る。
美しい、朱色の瞳だ。なのに、何故だか、色のない、虚ろ気な印象を受けた。
まるで――闇の底を映したように。
「なんで、そんなに俺に構うの」
その闇の底を映したような瞳に映る私は、どう見えているのだろう。
ふと、そんなことを考えた。
私は、脳裏によぎる疑問を無視し、問いに答える。
「私はただ、困っている人を放置するくらいの嫌な奴にはなりたくないだけだよ」
「……!」
「水を取ってくるね」
そう言って、個室を後にした。
君の瞳に映る私が、せめていやな奴でなければいいな、と。そう思った。
君とは、何だか気が合いそうだから。
残された圭太が、柔らかな声で、小さく「変なの」と呟いたのに、気づかないふりをした。
3話
「美味しい」
パスタから顔を上げ、呟く圭太。その呟きがたまらなく嬉しくて、思わずふふっ、と微笑んだ。
「それは良かった。腹が満たされるまで食べるといいよ」
「うん。ありがとう、コルンバ」
表情にあまり変化は見られないけれど、気が解れてきたみたいだった。
美味しいパスタを頬張りながら、私たちは今後の行動について考える。
「これからどうしようか……。古典的ではあるけれど、図書館に行ってニホンについて調べてみるのが一番かな」
「いや……もしかしたら、国の問題どころの話じゃないのかもしれない。異世界転移ってヤツなのかも」
――異世界転移。
圭太のその言葉に、驚きこそしたものの、状況を考えれば納得してしまう。確かに、それなら辻褄が合うからだ。
「俺のいた世界で、ここみたいにファンタジーっぽい服を着てる人なんて、どこを探しても一人もいない」
「ああ……それは、私も考えていた。君のような服装は見た事がないからね」
それも、やはり「異世界転移」で説明がつく話だ。ほぼ間違いないかもしれない。
「そうなってくると……君を『魔法舎』まで連れて行く他、道は無さそうだ」
「まほうしゃ?」
やはり通じないか、と内心で納得しつつ、説明をしようと口を開く。
――その時だった。
「きゃぁッ!?」
「ま、魔物だッ! 魔物が出たぞ! 逃げろォオッ!」
次々に聞こえてくる悲鳴。これは穏やかじゃない。
しかし、王都に魔物が現れるなんて、そうそうない事だ。一体なぜ。
――いや、考えるのは後だ。
「圭太、ちょっと――」
「ここにいて、コルンバ」
圭太は、席を立ち、個室の外に出る。予想外の行動に、思わずえっと声を上げる。
急いで後を追うと、街を襲う魔物に、圭太が立ち向かっているではないか。
「ッ、圭太――!」
止めようとしたその時、彼の着ている服が変わっていることに気づく。彼は、じりじりと距離を詰める魔物に対して臆せず、攻撃が飛んできても華麗に避ける。
「アイスイリュージョン」
そして、彼が呟いた瞬間、魔物たちは凍りついた。
――氷の魔法……!? なぜ、彼が……。
彼は、氷魔法を使いこなし、向かってくる魔物を倒していく。やがて、最後の一体が魔力切れによって溶けるように消え、彼はふぅ、と息を吐いた。
そんな彼に話しかけようとした、その時。
彼の背後に、魔物が現れた。
――やっと、私の出番!
「途絶の氷像!」
「……!」
私の放った魔法は、魔物に的中し、圭太に立ち向かう形で凍りついた。
「……終わりだ」
パチン、と指を鳴らすと共に崩れた敵を他所に、圭太に駆け寄る。
「大丈夫?」
「コルンバ……」
少し目を見開き、驚いたような表情を見せる圭太。
驚いているのは私も同じだけれど、ひとまず怪我は無いようだ。
「まさか、君も魔法が使えて、しかも氷だなんてね。驚いたよ」
「“魔法”……能力者じゃないの? コルンバって一体……」
能力者、か。
どうやら、同業者という訳では無さそうだ。
私は、外套の内側から星の飾りのついた懐中時計を取り出した。
「私は、クレセント王国魔法騎士隊長、通称四英星が一人。六花の星、コルンバだ」
「……偉い人、ってこと?」
まあね、と笑ってみせる。すると、圭太はふっと表情を緩め、小さく呟いた。
「……良かった、敵じゃなくて」
「あはは、同感だよ」
心做しか、微笑んでいるように見える圭太を見て、密かにある決意を固める。
――彼なら、きっと、応じてくれるはずだ。
「……乙宮圭太。私と取引しよう」
私の言葉に、緩めていた表情を一層引き締める圭太。そんな彼に、私は手を伸ばした。
「私は君に食事を奢る。それを条件に、君は私と友達になる。これは契約だ。さぁ、どうする?」
すると彼は、目をぱちくりさせる。私は真剣に手を差し出し続けた。
すると、圭太は、はぁ、とため息を吐いた。
「ほんと……変なの」
「えっ、変かな?」
「変。すごく変」
でも、私を見る彼の瞳は、木洩れ日のように穏やかだった。
異世界転移、突然王都に現れた魔物。
今日は「変なの」だらけな日だ。
でも、悪い日ではない。
現に、私の持ち出した契約は――成立したのだから。
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