記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

素晴らしき日々 〜不連続存在〜 フルボイスHD版 長文感想

2023年2月末に「サクラノ刻 -櫻の森の下を歩む-」という、萌えゲーアワードでも大賞を取るという出来レースを展開させた作品が発売されましたね。
私はこの作品をやりたくて、同年3月に「サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-」をプレイしたのですが、このまま刻へ進むつもりでした。
が、同じくしてすかぢ先生が担当された今作も幸福をテーマにしているとの事で、サクラノ刻の前哨戦としての攻略でした。
この作品の感想はチラホラと見かけているのですが、2~3章による虐めの描写が胸糞すぎるという噂を聞いているのでずっと避けていたんですよ。
このようなポストを投稿した時に、「そこを乗り越えれば神なので是非ともやってくれ」等のリプを頂いたのを思い出しました。
その言葉を信じてプレイすることを決断しましたね。



物語の本筋は

・2012年の7月20日を迎えるまでのお話を展開
・20日に世界滅亡の噂が流れ、ざくろの自殺によって一同はパニック
・不可解な出来事に悩まされながらも、由岐がその原因を突き止めるために行動している

という構成元い前提となっています。
20日を迎え原因を突き止めたところで由岐の力でどうすることも出来ないので、実質的なBAD ENDを色んな方向から何度も見せられる...と言った所ですね。
由岐の視点だけでは分からない部分を解明するのに、各登場人物視点でのお話を章事に分けていくという構造になっています。
では、その構造の中でどんな事を感じ取ったのでしょう?

〇各章ごとの感想

・第1章ルート1

水上由岐の視点によるざくろの物語なのかなと感じました。
表面上ながら1周目という状態でできる限りの感想を書いていきます。

意味難解な発言を繰り返したり儀式のためにぬいぐるみを落とす等、謎の行動を取るざくろちゃんですが、恐らく彼女は故人で由岐が見ている世界は夢なのか?と思っています。
そうでないと、突然消えた若槻姉妹の謎や、銀河鉄道内で起きたざくろちゃんの別れとタイトル回収、由岐が前を見て進んでいくEND、そして煙草を吸うようになった今との繋がりを感じられないですからね。
あまりに都合が良すぎる感はありますが、今後の展開でどう説明してくれるのかが本作の醍醐味だと思っています。
冒頭に会った卓司のいる世界は現実世界なのだろうか、謎はまだ深まるばかりですね...。

現時点ではこれが限界です。
再走した時にようやく分かってるってタイプの作品なんだろうけど、振り返るにも出来る範囲は限られてくる。
...なんでしょうねコレ。





・第1章ルート2


故人と思われていたざくろちゃんが生きていたのですが、もしかすると逆だったのかもですね。
銀河鉄道内のざくろちゃんが故人どころか別の存在だったのかなぁと推測出来ます。

開始直後の冒頭で間宮卓司と会うのですが、おどおどしてる状態での絡みは少なかったですね。
逆で覚醒して頭がおかしくなった状態での対峙が印象に残っています。
突如として消えた若槻姉妹、バラバラ死体となって帰ってきた鏡と泣く司、家に遺体を返そうとすると全くの赤の他人がお出迎え。
最終的には間宮卓司は世界滅亡の日を境に、飛び降りて命を絶ってしまいます。
まだ導入編故に全ての謎が解けた訳ではありませんが、全体的なミスリードの多さを実感しました。
この章において本格的に書かれていたのは、由岐がざくろの死によって狂ってしまう世界でも理性を保とうと必死に言い聞かせてる所です。

第1章のタイトル名は「down the rabbit hole」。
直訳だと「ウサギの穴に落ちる」ですが、これは、「本来の目的とは逸れてしまう」「本筋から逸れる」などという意味で、転じて「底なし沼にハマる」「複雑な状況から抜け出せない」のようなニュアンスで使われます。
ルート1における若槻姉妹との百合ックスとざくろとの銀河鉄道の会話がタイトル名の意味を上手く具現化していましたね。
ルート2における不可解な出来事の数々と、その謎に迫っていく由岐を見ると、これまたニュアンス通りにキャラを動かしているなという印象を受けました。






・第2章


間宮卓司の視点でのお話で、1章ルート2の真相にだんだんと近づいて来ます。
虐めの描写が本当に胸糞であり、ここで折れて攻略を諦めたという方もいるんじゃないかなと思いますが、ここからが耐えゲーです。
ざくろと結ばれる云々の説明がなくて急に感じられましたが、裏掲示板と救世主としての覚醒の描写が生き生きとしていましたね。
ただ間宮卓司は弱気なヒョロガリオタクでかなりのクレイジーボーイなので、ざくろの机に欲情したり、アブノーマルなHを妄想でしたりとなかなかに気が狂っています。
もっとヤバイのはクスリ漬けと鏡陵辱シーンの2つくらいですかね。

─ざくろの自殺現場に居合わせたことがきっかけで、彼の世界は周囲とズレ始める。 そして彼は「救世主」として、人々を「『終の空』に帰す」ための行動に出る─

この終ノ空に帰す、というのが肝でありなかなかおかしな事を言っていますが、実際にやっていることは教祖じみたマインドコントロールにおける集団飛び降り事件ですからね。
この時点で、後述の赤坂めぐ、北島聡子、橘希実香は事実上の死を迎える訳ですから。

ただこの章は屈指の電波要素を誇り、救世主として目覚めたが為に世界のブレが生じます。
そのブレ故に、電波度の高いテキストを何度も何度もイヤになるまで繰り返し続けるので進めるのが億劫に感じる人も出ると思います。
私もそうであり、いつまで繰り返すねん早う次の話聞かせてぇやと思いながら真顔で進めていました。
そんなこんなで救世主として覚醒した卓司君ですが、葛藤の描写が上手いなと感じました。
彩名が現実に意識を戻そうと意味深な発言を繰り返して、それを聞いた卓司が絶叫するところが顕著に現れていましたからね。

この章のタイトル名はIt's my own Invention。
意味は「これが私の発明なのです」かなぁと
卓司が何かを発明したようには思えませんね。
ルイス・キャロルの説明文から引用したようですが、これは一体なんでしょうかと謎がここでも膨れてきます。





・希実香END


このお話の醍醐味はラストに全振りというパターンでした。
ざくろの虐めに加担していた事に心のどこかでは引っかかっていたんだと思います。
それが分かるセリフがこちら。


「めぐとか聡子とかどうでも良かったんです......本当にどうでも良かった......

私にとっては、ざくろだけが......大きな存在でした。ざくろ、ずっと私を恨まず......ずっと私に微笑みかけてて......それが私には許せなくて......苦しかった

殺してやりたかった......

だから彼女が死んで......呪いが発生した時に......すごく、嬉しかったんです

ああ、やっとざくろ怒ったんだ......恨んでくれたんだ......

やっとちゃんと私を見てくれるんだ......って

やっと、人として見てくれるんだって......」

「私、全然理解できないんです…生きて償え?相手が死んでるのにですか?

相手は死んでるのにですよ?生きてて何をどうやって死者に償いが出来るというのですか?

償いって向き合う事ですよね。生きてる人間がどうやって死者と向き合うんですか?そんなの自己満足ですよ。生きてる人間が勝手にそう思ってるだけですよ。

死者に対する償いは…死者じゃなきゃ出来ない…当たり前の事なんです…

昔は…仇討ちは美徳とされてたじゃないですか…当たり前ですよね…殺された者の恨みは、相手を殺すことでしか解決なんてするわけないんです…

それは当たり前の事なんです…

救世主様が言うところの、嘘吐き達が隠して、みんなにその真実を言わないだけなんです。

死は死によってしか償われないのです。

だから…

だから…ざくろが死んだ日から…償い方法は一つしかないんです…

死です

いじめた人間…いいえ、それ以外だって、見て見ぬふりした大勢…そいつら全員の死

それだけが、正しい償い方法なんです

くすくす可笑しいじゃないですか…生きてる人間…償いって何ですか?

心入れ替えた?詫びる?再発を防ぐ?くすくす…罪を問われれば、いじめた人間はそんな事簡単に誓いますよ。

ずるいからいじめたりするんですもん。
いろいろ恐いからいじめたりするんですもん。

だから、彼女たちは簡単に誓います。もうしません。許してください。こんな事が二度と起こらないようにしますっ。

くすくす、嘘、嘘、大嘘ですってば…死だけなんですよ。

当たり前じゃないですか、死に対するそれ相応の対価は死だけなんです…

私も、他の連中も…全部死ななければならなかったんです…」


・ざくろは良かれと思って、優しい性格ゆえの善意で希実香に接してくれた
・だけど彼女にとっては、ざくろの善意は悪意以上に重いものだった
・だからこそ希実香は卓司について行く中で、死を望む為にざくろの恨みを受け入れようとしていた

この3つが希実香を縛り付けている呪いだったのかなぁと思います。
瀬名川を空に還してからは卓司の計画をようやく理解し、心の底まで理解してくれている救世主に最期までついて行くと決めた彼女の心情は何となくだけど同情出来ますね。
そんな救世主に恋心を抱いてしまった事による生の実感、だけど死ななくてはならないというジレンマの描写も上手く、BGMと声優さんの演技力に拍車がかかっていました。

ここまで儚い締め方が他にあるでしょうか。
やってることは事実上のBAD ENDですが、死と向き合い続けた希実香が生を実感する。
ずっと死にたがってた彼女にとっては、短い時間ながらも素晴らしき瞬間だったんだと解釈出来ますね。
素晴らしき日々...というよりは「幸福に生きよ!」における希実香のアンサーがこの末路だったんだと思います。
なんて後味の悪い...ここからハッピーエンドに持っていくのは...無理かなぁ(諦め)

※余談
希実香END1のお話を読んでる時に、希実香のポジションに既視感を覚えたんですよ。
その正体は、この界隈に入る前に見た"深海少女をモチーフにした妄想話"なのです。
その妄想話は、先輩達からの虐め現場を目撃する1人の少女という内容なのですが...これと希実香になんの関係があるのかと言うと、先輩達から虐めを受けている深海少女の枠にまるまる当てはまるんですよ。
妄想話の続きでは、「壮絶な虐めにメンタルをやられ、先輩達がいなくなってからは主人公である少女を虐めの標的にした」という内容になっています。
希実香がざくろに対して暴力を振るったり尊厳破壊等、深海少女のような行動はしなかったのですが、立ち位置としてはだいたい枠通りなのですよね。
第2章は卓司によるエスカレートな虐め描写がありましたが、ざくろへの虐めも少し書かれていたんですよ。
ただ、この妄想話に合うかと言われると微妙ですね。
後述の第3章が1番当てはまるのかなと思っています。





・第3章


高島ざくろの視点、元い彼女が自ら命を絶つに至るまでの経緯を話すので、実質的に言えばプレイヤーからしたらほとんどが回想シーンと思えるでしょう。
この章のタイトル名はLooking-glass Insects。
意味は鏡のような昆虫?
希実香の虐めを目撃してしまったざくろは彼女を助けるのか見捨てるのか。
助ければ覚悟を持った1人の少女に、見捨てればそのまま虫けらのまま生き続ける。
ここの分岐で話は大きく変わっていくという構成ですね。
先述した妄想話に似た展開ですが、ここでは見捨てる決断をしてしまった少女の末路を描写しています。

話を戻しまして、阿鼻叫喚となっている本章はざくろの圧倒的な虐めと尊厳破壊によるメンタル崩壊を容赦なく描写しています。
希実香は不良達の相手をしてからポンといなくなってしまいました。
頼みの綱を失ったんですよ、外道アマ2人のマインドコントロールによって。
虐めの描写はとことんに胸糞であり、卓司のも大概でしたがそれよりももっと酷いです。

メンタルをやられてからは宇佐美と亜由美という2人の少女と出会うのですが、ここから先...嫌な予感というのは的中するものでして、自殺するまでの道のりが丸わかりになっちゃうんですよ。
と、ここにおかしなポイントがありましたね。
第1章では商店街で由岐にキスをした後に謎の少女2人に連れられて行ったのですが、3章ではどうでしょうか?
キスをしたのは由岐ではなく、好青年な卓司君だったのです。
勘のいい方ならこれが卓司じゃないと分かるはずですね。

第2章における魔法少女リルルのCGの正体が明かされ、台詞もまんまそのもの。
彩名の言葉も届かず、最終的にはアタマリバースからのスパイラルマタイという負の道を歩んでしまったのです。
狂ってしまった卓司も大概だけど、メンタルが壊れに壊れまくったざくろちゃんはもう...無敵の人になってしまいましたね。
繋がりが全部分かった訳ではないけど、無敵の人が作られるまでの説明書を読んでいる感覚でした。





・希実香END2


ざくろが命を絶ってしまう世界観ですが、もし違う未来があるのなら?1歩踏み出せばまた変われたのかな?この疑問点を的中させるために書かれた、良心的な番外編です。
この章で書かれる間宮卓司君ですが、ここで異変に気が付くと思うんですよ。
私が言う異変というのは、卓司の露骨なキャラ変です。
第2章の気弱なヒョロガリ狂信オタクっぷりを見て怪しいと思いません?
それがこの章では著名人の本を読んでいる好青年だったり、喧嘩も強いクール系になってたりするんですよ。
ここの謎は後の章で書かれるのでこの辺にして、ざくろが勇気を出して希実香の手を取った所の話をしましょう。

希実香は、ざくろの虐めが悪化しないようにと自己犠牲の精神で彼女を逃がそうとしますが、反対にざくろから助けられるというオチになります。
このまま逃げれば虐めから逃れられるが、ずっと虫けらのまま生き続けることになる...それはイヤだ、と流されることなく自分の意志で行動するには余程の勇気がいるし、それと同時に虐めと戦う覚悟もついてくるわけです。
希実香の立ち回りが功を成しており、不良達をなぎ倒していく様が気持ちよかったですね。
絶体絶命の大ピンチ状態から、クールな卓司が現れて助けてくれるという王道なスカッと展開も気持ちよかったです。
が、赤坂めぐと北島聡子の外道女2人が身体的にお咎めなしなのはちょっといただけなかったかなぁと思いました。
ついでで彼女達もボコって欲しかった感はありますね...18禁ゲームで丁寧に注意喚起したのに関わらずこの有様は、少々甘すぎるんじゃないかなぁと。
とはいえ、ざくろが勇気を出して希実香の手を取り、お互いに素晴らしき日々を過ごし続けるというハッピーエンド展開は誰しもが望んだお話だと思うのでかなり好きな番外編でした。
彩名のやりとりでうっすらと笑った表情が見れたのは彼女の安心感から来ているのかもしれませんね。





・第4章


悠木皆守の視点で描かれるお話ですが、ここで露骨なキャラ変を疑った方もいるんじゃないかなと思います。
だって、2章の外道っぷりを見たでしょ?
死ぬ前の発言に疑問点も出たでしょ?
外道と思われていた皆守君は、破壊者と言う認識ではあるものの愛する者の為に命をかけて戦うヒーローだったのです。
まぁ2章で死ぬ事が明白になっているので、プレイヤーからしたら回想シーンにもなり得ますかね。
ここでは2~3章で起こった謎の現象に迫っていきましたね。
何もかもが伏線だったのでしょうが、2周前提でないとこれは厳しいんじゃないですかね。
この章のタイトル名はJabberwocky。
意味はわけのわからない言葉かと思われ
この作品そのまんまですね。

1ルート2からの謎がここで全て明らかになっていきます。
それは由岐も皆守も、全ては卓司の多重人格元い、解離性同一性障害によるものだと。
突然消えた若槻姉妹も鏡はぬいぐるみ、司は妹であることが分かり、謎の殆どが解明されましたね。
もっとも、司がとも兄さんって言ってた時点で怪しいとは思っていたのだが...。
ここで羽咲が本格的に関わっており、皆守は羽咲を守る為に英雄となって卓司と対峙する...けど明晰夢の一瞬の隙を突かれてやられて章は幕を閉じるという流れになります。

由岐が消えてしまう云々の話はよく覚えてませんが、後ろから抱きついてきたのを見るに由岐が進める道はもう途絶えてた、だから皆守に託したんだと解釈が出来ました。
皆守も卓司も肉体が同じだから羽咲が事実上の実妹って流れもなるほどなぁと思ったり。
皆守と書いてともさね→みなかみ→水上、悠木→由岐という変換から生まれた水上由岐という1人の少女というオチもなかなか...




・第5章


間宮羽咲の視点という斜め上の世界観で描かれるお話です。
この章のタイトル名はWhich Dreamed It。
意味は夢を見たのはどっち?
基本的なところは第4章と変わりありません。
が、間宮卓司は既にいなくて...生きている方は皆守という事実と、2章の間宮卓司がああなってしまった本当の真実が明らかになっていく事がアナウンスされていましたね。
本章は兄妹愛をメインに書いており、皆守の優しさと羽咲の一途な想いの描写もなかなか綺麗でした。
最後は彩名に案内され、間宮皆守のシルエットが確認出来て幕を閉じるのですが...第2章のままだったらあれ死んでたよね...





・第6章


第4章で明らかになった、間宮皆守の過去編でした。ここでエンディングが3つに分かれるのですが、一旦後述で書きます。

まずは本編。
第5章で羽咲とジャーナリストの木村が辿り着いた、卓司が狂ってしまった原因がメインでしょうか。
この作品における全てがここに詰まっており、全ての始まりはここからだったのです。
幸福に生きよ!のフレーズが回収されるのもこの章であり、由岐の会話が幸福論についてほとんどを語ってくれています。
なんやかんやで後述の事件が起こり、現実に引き戻されての由岐との会話に戻るわけですが、ここでの「夜の向日葵」の使い方、シンプルにズルいですよ...。
由岐はもう死んでいることが明白に描写されているし、そこから羽咲と共に生き延びて幕を閉じるという完璧な締め方、演出のセンスが凄まじかったですね。



・素晴らしき日々
皆守は母の琴美を激しく嫌っていましたがその理由は何故なのか。
その理由が分かる文章がこちら。

皆守達の母親・美琴は病身の夫・浩夫を助けたいという思いから、新興宗教に入信する。
ところが、彼女は教祖に愛人として洗脳され、彼との間に双子の兄妹・卓司と羽咲を産む。
教祖は美琴を捨てるため、卓司は救世主としての力を羽咲に奪われたと告げる。
美琴は夫が死んだ際、卓司を救世主として教育する。
美琴は卓司とともに羽咲を殺そうとするも、皆守と由岐に止められたことで生きる意欲を失う。

確かに琴美さんがした事は到底許されるものじゃない。
でもその行動を取ったのは、家族愛ゆえなのではないか。
どんな物事にも必ず背景の裏側というものがあり、琴美はやり方を間違えただけ、不器用なだけだったというのが分かりますね。
良かれと思った行動が裏目に出てしまうというケースを実感しない人は殆どいない、琴美はそれを上手く体現してくれていました。



・向日葵の坂道
死んだはずの由岐は幽霊となって登場でもしたのかな?
とはいえ、ある意味こっちの方がフレーズ通りに話を持っていってる印象でしたね。



・終ノ空Ⅱ


まさかの由岐視点...ではあるんですが、この物語における全体の謎。
つまり音無彩名との対話が殆どです。
結局終ノ空って何?
結局音無彩名って何者?
公式のキャラ紹介ページでは、「すべてを見て、すべてを知り、そして何もしない」とあるのですが、不確定的存在故に正体を明かして欲しい感が拭えないし、結局この娘は最後まで何を言いたかったの?何をしたかったの?

この作品で明かされるということは無いですが、この書き方で本当に良かったのでしょうか?
そもそも終ノ空やった前提で話を進めてるからなんだろうけど、終ノ空やってからプレイすべきなんですかね。
今終ノ空やる手段ってあのめっちゃ高い豪華版買うしか無いんだろうけど、興味があればプレイするのもアリかもですね。
もっとも、やる気があるかどうかは別の話だが。
不確定的存在における考察を促される、類を見ないタイプの締め方でした。

この章のタイトル名はJabberwockyⅡ
4章同様の意味合いを持っているのでしょう。




・Knockin' on heaven's door


このタイトルはどういう意図で書かれているのかと疑問に思いましたが、翻訳すると「天国の扉をノックする」。
つまり死生観が書かれている事が分かります。
おそらく由来は、アメリカのミュージシャン ボブ・ディランが映画「ビリー・ザ・キッド/21才の生涯」(Pat Garrett and Billy the Kid) の為に書き下ろした曲における歌詞からお得意の引用をしたのでしょう。
歌詞にある「天国の扉をノックする」とは、自分が死ぬ間際の気持ちを表しています。
ということは、最後に皆守死ぬの?って思う方がいると思います。
これはね、あながち間違ってはいないんです。
このお話の登場人物はなんと、由岐と間宮皆守の2人しかいないのです。
舞台は皆守が社会人として働く、というものなのですが由岐ってあんなにダル絡みしてくるキャラだったっけ?4章の頃から変わってへんがなというツッコミをマジで入れてましたね。
皆守と由岐の哲学的な会話を電車内で長ーーーーーーーくやるのですが、会話について来れなかったのでここは苦痛でした。
ただ、「そもそも、1が何なのかさえよく分からないのにもかかわらず、我々が使う1の由来すら分からずに、我々はそれを使って、ありとあらゆる事を"分かった"と考える」という言葉が私の心にガン刺さりでした。
私もこの作品の全てを熟知しているわけでは無いですが、この作品になんやかんやで90点以上つけている方や、なんやかんやでベタ褒めしてる方を見るとそのような認識になってしまうのが現状ですからね。
そしてラストスパート。
由岐が回収したフレーズ「幸福に生きよ!」におけるアンサーはどうなったのか、を描写しているのですが、ここでもBGMは「夜の向日葵」。
そのフレーズにおける由岐のアンサーは

「私達の生は幸福に包まれていた。だから、私達はこの先も歩いて行ける...ってね」

というものでした。
由岐は回想シーンだった頃から皆守に恋心を抱いていたのでしょう。
本格的なHとピロートークですごく幸せそうにしてたのが顕著に書かれていましたしね。
そして最後のCG、しわがつくところで誰かの死を思わせる雰囲気が漂いますが、これが皆守の手だったのですね。
このCGと最後の文章から見るに、皆守も同じくして死に、先に逝っている由岐の元へ向かうのでそこでも一緒だよという情景を浮かべていたんだと思いますね。

皆守と由岐があれだけ幸せにしてるなら、自分もそのような幸福に生きてみようと思える、そんなメッセージ性を追加シナリオとして書いたのだと私は認識しています。
では、そのメッセージ性は私の心に刺さったのか?
答えは「...うーん」です。
あくまでこれは2人の幸福論を書いただけに過ぎないですから。
とはいえ書き方や演出とかは本当に素晴らしいと思っています。



〇読み終えて思ったこと





・シナリオ


7月20日に現れる終ノ空をベースとしたお話の中で、各章ごとの謎や伏線を張り、3~4章辺りから一気に回収していくという伏線回収に特化したタイプの構造であると感じました。
そこに例のフレーズとメッセージ性のある会話、感動する場面をどのタイミングで入れるべきかの工夫もしっかりなされているようにも思いましたね。
第2章にある同じところをひたすら繰り返すところは読んでて苦痛でしたが、世界観故のブレの演出としては出来すぎていました。
ただ「幸福に生きよ!」をフレーズとして強く出した割には繰り返し要素が多かったり、哲学的なお話で読み手を置いてけぼりにしたりと目的を見失いがちな所もチラホラ見れましたね。
軸が定まってないんでしょうか。



・キャラ


サクラノ詩でも思ったんですけど、すかぢ先生の書くお話ではキャラの扱いには圧倒的な差があると思っています。
悪く言えば贔屓、ですかね。
4章から希実香、若槻姉妹が1度でも活躍したことがありますか?
ざくろは仕方がないにしても、無いですよね?
幸福に生きよ!を題材にするお話では由岐と皆守、羽咲が優遇されてたしむしろこの3人が実質的な本作の主人公ではなかろうか、とも思ったりします。
ではその3人が活躍しなかった理由を4章からという前提で考えてみましょう。
まずは希実香、彼女は第2章本編で死去したものだと思っています。
救世主となった卓司の言葉を信じて飛び降りた訳ですからね。
次に若槻姉妹、由岐の幼なじみとして書かれていたのは良いけど、この2人はぼつデータなのだと思います。
4章で正体が明かされるのは良いんですが、素晴らしき日々(無印)のタイトル画面と、START画面であたかも重要人物に見せかけた書き方してるのは何だかなぁ...という気持ちにさせられます。

とこのようにキャラの扱いに差が出てしまうのは創作ものにおいて避けては通れない課題であるし、すかぢ先生が思想重視のお話を展開するにあたって致し方がないのかなぁとも思ってしまいますね。
それと全てのお話を読み終えた時に、由岐と皆守、羽咲以外のキャラを思い浮かべた方が少しでもいますか?
余程印象に残ってればそうでしょうが、やはりその3人に取られてる印象が歪めないのも事実でしょう。



・システムとBGM


本作はサクラノ詩同様にバックログによるシーンジャンプが出来ません。
私のようなスクショ目的な方からしたら手痛い仕様ですし、とにかくやりづらいかなぁと思われます。
あと、メニュー画面を開く時には初回でマウスが必須という点もやりづらさを感じましたね。
キーコンフィグで設定すれば楽できるのですが、ここだけは、ね...うん。
唯一の救いは、Ctrl押しっぱなしで早送りが出来るくらいでしょうか。
第2章のひたすら繰り返す所や、再インストールしてから4章にたどり着かせる作業の時には大助かりでしたね。

BGMはと言うと、ホラーやミステリー要素の混じった世界観によるチョイスが素晴らしかったですね。
特に電磁波ト世界の関係、不安の立像、黒い翼の舞が良い仕事をしてくれてました。
あとは「主よ、人の望みの喜びよ」がギャップ崩壊枠なのは笑いましたね。
締め付けはやはり感動する場面でしょうか。
カタルシス感を出すために殆どの方が挙げるであろう「夜の向日葵」を筆頭に、小さな旋律、言葉と旋律もなかなかの盛り上がりを演出してくれました。



・フレーズとタイトル名における世界観との共通点


この作品のフレーズは各章感想でも述べた通りで「幸福に生きよ!」となっています。
ならその幸福論って各章の主人公の誰が1番当てはまるのか?という疑問を持ったんですよね。
その疑問を晴らすべく質問をすると、大半の人は「由岐と羽咲と皆守!」と答えると思うんですよ。
まぁこれはあながち間違ってはいないんだけど、あくまで表面上での答えですよね?
ならば私はそこに「希実香」を付け加えます。
彼女は3人との接点は無いですが、希実香END1と2の感想でも述べたように、彼女にとっての素晴らしき日々というのは実在してるんですよ。
番外編ながらも、ね。
彼女が幸福に生きよ!という言葉通りに生きている前提で話していますが、
・死にたがってた中で自分の事をしっかり見てくれた。(救世主となった卓司)
・虐められの毎日から抜け出すためにと手を差し伸べてくれた。(ざくろ)
この時点で彼女の幸福があるというのは想像出来ると思うんですよ。




〇採点における決め手


この作品は難解なシナリオと凄まじい読後感を味わえるのが特徴なので、採点する際は結構頭を抱えましたね。
そこで私はAの点数、Bの点数、Cの点数の3つの点数を用意することにしました。


・Aの点数:87点
これは感想といった余分な事を考えず、世界観と伏線回収、BGMのみでの判断。
何言ってるか分かんないけどすかぢ先生のカタルシスすごいから高得点でおkだよね感。


・Bの点数:72点
これは無印の領域である第6章までを読み終えての判断。
ここで「幸福に生きよ!」というフレーズに落ち着くけど、この言葉にたどり着くだけで終わる。


・Cの点数:65点
これは当作品フルボイスHD版という事で終ノ空ⅡとKnockin' on heaven's doorの2つの追加シナリオを見て、総合的に見た時の判断。
例のフレーズから各登場人物視点での幸福論なども考えられる領域。

事実上何処までを読み終えての判断になりますが、思ってもみてください。
素晴らしき日々をやって本当に細かく考えて評価してる人がAの点数を選ぶと思いますか?
全体を見て少しでも考えを持って、反対でも良いから意見を言えるような方がBとCの点数を選ぶと思うんですよ。
もっとも、細かく説明して高得点だと言うのなら話は別ですが。
私はこの作品に高評価をしてる方がどんな理由を持って高い点数をつけているのかが大変気になっております。
もしかしたら、「幸福に生きよ!」ってフレーズに落ち着いただけで他の方に便乗して高得点つけてるだけなのかもしれないですし。
とはいえ、私がただ単に合わなかった...というか楽しめなかっただけなのを色々とこじつけてるだけなので、こういう事を言ってる人もいたよね〜くらいの認識で大丈夫です。


〇最後に


「すかぢ先生が描いた秘境は、全体的に見ると思ってた程の魅力は感じられなかった」というのが私の感想です。
面白いかと言われたら...素直に首を縦に振ることは難しいでしょうね。
前述したCの点数を採用しましたが、本作が駄作である事は断じてありません。

電波度の高いテキストと伏線回収、フレーズと彩るBGMを駆使した壮大なカタルシスを提供してくれるのは間違いないですし、興味をそそられる方からしたら世界観にものすごくのめり込めるのは約束できます。





私はこの作品から学んだ。
それは「幸福論」について考えるきっかけは、キャラの背景を含めた全体での行動を通して出来るものであるということを。

いいなと思ったら応援しよう!