見出し画像

ビジネス・カジュアル

2020年7月、南北戦争以前の1818年創業のブルックス・ブラザーズが連邦破産法11条(日本の民事再生法のようなもの)の申請をしました。リンカーン大統領、ケネディー大統領を含む、45人中40人の大統領に愛用され、ボタンダウンのシャツを流行らせ、南北戦争、世界大恐慌、世界大戦、リーマンショックなどを生き抜いてきた老舗のアパレル会社です。(参考文献:”Brooks Brothers store closings planned: Retailer files for Chapter 11 bankruptcy protection” https://www.usatoday.com/story/money/2020/07/08/brooks-brothers-store-closings-brooks-brothers-files-chapter-11-bankruptcy/5396613002/
“Dressing the Presidents of the United States” https://magazine.brooksbrothers.com/dressing-presidents/

ブルックス・ブラザーズの経済破綻はコロナのパンデミックで多くの人がオンラインで働くことを余儀なくされ、スーツを着なくなったためスーツが売れなくなった、というのが直接の引き金になったかもしれませんが、人々の服装がどんどんカジュアル化していく中での、当然の流れだ、という気もします。

ずいぶん前から、米国ではカジュアル・フライデーが一般化しました。カジュアル・フライデーのルーツは、1940年代にホノルル市がアロハシャツをビジネスで着用することを始めたことにあるそうです。1960年代には、ハワイ州が「アロハ・フライデー」をはじめ、金曜日にビジネスでアロハ・シャツを着用することを正式に決めました。その後、カリフォルニア州にあるヒューレット・パッカード社が金曜日にカジュアルな服装で仕事をするだけでなく、既存の枠にとらわれないクリエイティブな仕事をする、という意味で「ブルー・スカイ・デー」をはじめました。そして金曜日にカジュアルな恰好で仕事をする習慣は、全米に広がっていきました。(参考文献:“Who Started Casual Fridays?” https://www.mentalfloss.com/article/87523/who-started-casual-fridays

この後、金曜日の職場での服装がカジュアルになりすぎる、という問題もあり、新しいドレスコードをつくる、など紆余曲折もありましたが、現在は金曜日だけに限らず、普段の日にもビジネス・カジュアルが広がっています。

日本でも2005年から夏の間はカジュアルの服装が推進され、ビジネス・カジュアルであるクールビーズが広まっていきました。

そもそも、アメリカでは昔は男性は正装をするときにスーツ着用だけでなく、帽子をかぶっていました。アル・カポネの出てくる映画や南北戦争時代の映画などでは男性は帽子をかぶっていますよね?明治後期から大正時代にアメリカに住んでいた私の祖父は、
「男は帽子をかぶるものだ。エレベーターで女性と一緒になったら、帽子を取って胸の前で持っているのがマナーだ」
などキザなことを言っていました。しかし、1929年に始まった世界大恐慌の頃からアメリカではだんだん男性が正装の時も帽子をかぶらなくなってきたそうです。

ケネディー大統領は「大統領、帽子をかぶることになっています」といくら回りにいる人が諭しても、「俺は帽子は嫌いだ!」といって無視し続けたという話もあるくらいです。若い大統領にファッション・リーダーになってもらい、売り上げが落ちている男性の帽子を再び甦らせるようと画策した帽子会社がケネディー大統領に帽子着用を切望したそうではありますが、残念ながらケネディー大統領に倣って帽子をかぶらない正装が一般化していき、帽子を作る会社は軒並み経済破綻に追い込まれたそうです。
(参考文献:“JFK’s Hat Legacy” http://www.thehattedprofessor.com/jfkhatlegacy.html

ご存じの通り、女性もロングスカートの正装から、だんだん丈の短めのスカートが主流になってきて、その後、パンツ・スーツも女性の正装として認められてきました。

時代と共に服装が変わっていくのは当然ですし、コロナのパンデミックで変化するスピードは加速されたかもしれませんが、男性のビジネス・スーツを扱っているブルックス・ブラザーズが経済破綻するのも時代の流れなのでしょう。

ただ、いくら世の中の服装がカジュアルになってきたと言っても、会社にふさわしい服装というものはあります。時代が変わったから、世の中のトレンドがそうだから、というだけの理由で従業員の服装をどんなものでも認める必要はありません。会社として許容範囲の服装は会社の規則としてドレスコードをつくれば良いのです。

ドレスコードを作る時には、「ビジネス・カジュアル」などと曖昧な言い方はやめて、具体的に書きましょう。例えば、
「認められている服装は、ドレスシャツ、ブラウス、ポロシャツ、カーキー色、紺、または黒のパンツまたはスカートのようなビジネスに適する格好。ブルージーンズ、Tシャツ、運動靴、サンダル・ゴム草履は禁止。サンダル靴は認める」
などにすれば良いのです。
「安全の面から、サンダル靴もつま先があいているものは望ましくない。荷物が落ちてきたら怪我をする」
というのであれば、そういう靴は禁止にすれば良いのです。

会社のロゴ入りのポロシャツを数枚支給して、
「ビジネス・カジュアルで出社する場合には、これを着用すること」
という手もあります。

従業員規則手帳(Employee Handbook)の規定を時々見直すことはもちろんのことですが、職場の服装もどんどん変化していますので、数年に一遍はドレスコードのポリシーも見直しすることをお勧めします。(参考文献:“Sample Dress Code Policy for Business Attire” https://www.thebalancecareers.com/simple-sample-dress-codes-for-business-attire-1917931#:~:text=Examples%20of%20appropriate%20business%20attire,they%20are%20not%20too%20formal.

The Stellar Journal 2020年7月掲載
https://www.stellarrisk.com/ja/business-casual/?fbclid=IwY2xjawEmAjVleHRuA2FlbQIxMAABHVBUiP0JU8fvhnlqrDSIchXe5yB7dQsrgTKiEZfxXDif8VVhZJju8UXVPg_aem_ujDe4bt8Fe1OaNxiMELXiA

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?