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佐々木まなび『空を、読む。』『雨を、読む。』

☆mediopos-3091  2023.5.5

二年ほどまえに
mediopos-2356(2021.4.29)でとりあげた
『雨を、読む。』に続く
佐々木まなびの『空を、読む。』

「空」にまつわる美しい言葉が
集められている
妖しく美しい「空」の辞典である

たとえばはじめの「ニッポンの空」の
「うつくしの空」の章の
いちばん最初の見開きのページには

「羽二重曇り(はぶたえぐもり)」
「さし曇る」
「燻(いぶ)し空」
「無月」
「朧雲(おぼろぐも)」
「八重雲(やえぐも)」
「雲の澪(みお)」
「雲の帷(とばり)」
「雲の梯(かけはし)」
という言葉と
その意味が記され

そうした言葉の紹介のあいだに
美しい写真や鈴木春信などの浮世絵を挟み
アートディレクターとしての著者ならではの
装幀・編集の妙を飽かず楽むことができる

日本語ならではの「空を、読む」ための言葉の多くは
知らないでいたものも数多くあり
それらの言葉を知ることで
空を見ることが
こんなにも豊かな心をひらいてくれるものかと驚かされる

たとえば最後章の「空の云われや、ことわざ」の
最初にとりあげられている
「空知らぬ雨」
という言葉がある

それは
「空の知らない雨とは「涙」のこと。
人に知られたくない涙を雨にたとえている。」
とある

この言葉をひとつ知るだけで
「涙」は心の「空」と通じあうことができる

『雨を、読む。』
そして『空を、読む。』をひもとき
日本語ならではの絶妙な言葉で
表現されている自然の姿を見ることで

「自然」は
そしてそれに通じ始めるだろう私たちの「心」は
これまでとは異なった姿をとってあらわれてくる

この「雨」の「空」の言葉が集められた辞典は
あまりにも即物的な科学主義に汚染され
平板な機械のようになってしまいがちな私たちの心に
ポエジーをひらいてくれる
たいせつな手引きともなってくれるのではないだろうか

■佐々木まなび『空を、読む。』(芸術新聞社 2023/4)
■佐々木まなび『雨を、読む。』(芸術新聞社 2021/4)

(「ニッポンの空」より)

「「風と雲」が、自然界すべてを表すという。
雲の生まれる場所があったり、雲の果てがある。
宇宙という別の世界の言葉のような響きに
違和感を覚えるのは、先人たちが生み出した言葉が
あまりに美しいからかもしれない。」

(「そらの一年」より)

「「雪消月」「月不見月」「燕去月」「初空月」
この国の月の異名の多くは
空を見上げないと浮かばない言葉だと思う。
空を見て、天気を予測し、作物を心配して備える
とてもシンプルで大切な生き方だ、

(「そらのきまぐれ」より)

「ソーダ水の中を泳いでみたい。そうつぶやいた友が浮かぶ
彼女の想像力に、いままで出逢った人々に、
刺激された瞬間は、同じ景色に出逢うことのない空のカタチと似ている
生き方が変わるほど心が動かされるのに、もう戻れない————。」

(「うつろいの空」より)

「雲や風を留めることはできない、
人の心も同じように、測ることも留めることもできず
やりきれなくて空を見る。
雲を見て、風を見て、鏡を見るように
その瞬間の心を、映してしまったのかもしれない。」

(「空の上のものがたり」より)

「雲の生まれる場所がある。
天界の方々だけの知る通路がある。
侵してはならない雲の上の世界を畏れ、崇め
それでも何とかお願いをする。生きるために。
命を繋ぐという、大切な役割のために。

(「空の云われや、
  ことわざ、四字熟語」より)

「自分の信じていることわざがある、
必ず当たる、お天気がある。
空を見て、雲を見て、湿度までをも感じとるチカラが
まだ強く残っていた時代の言葉は
大切な子どもたちに、そして未来につながるのだと思う。」

○『空を、読む。』【目次】

雨女からの絵空事

ニッポンの空
  うつくしの空
  空を、刻む
     ノ、時間
     月夜の窓の向こう側

そらの一年
  春の空
     そういえば空
  夏の空
     呼び名が変わる入道雲
     季のニオイ
  秋の空
     言の葉と金木犀
  冬の空
     けあらし
     水際より

そらのきまぐれ
  いきもの
     四角い窓
  カタチアソビ
  いとをかし
     気になる風
  いろ
     朱色の液体
     大切ナ

うつろいの空
  ウツスココロ
     ココロトメテ
  たとえ
     見てしまった空
     初午の鳥居

空の上のものがたり
  妖しの空と神様のいろ処
     神様と風
  おめでたい祈り

空の云われや、
  ことざわ、四字熟語

おわりに

◎佐々木まなび【プロフィール】
雨柳デザイン事務所代表
「裏具」アートディレクター
「HAURA Kyoto Japan」アートディレクター

「気配、闇、間」に惹かれ、それらを意識したデザインを追求。茶道、美術館、劇場関係、装幀、広告のグラフィックデザイン、菓子メーカーの顧問、ショップの空間演出などのディレクションやデザインを手がける傍ら、二〇〇六年に京都宮川町にオリジナルの紙文具屋「裏具」、二〇一五年に三十三間堂南「URAGNO」を株式会社グッドマンのプロジェクトとしてオープン。二〇二〇年に京都八坂通に初ユニットでのオリジナルのテキスタイルショップ「HAURA Kyoto Japan」をオープン。
一九九七年から二十年間、書家、石川九楊に師事。

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