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朝里樹 (監修)『日本異類図典』

☆mediopos2749  2022.9.5

「異類」という言葉は
あまり聞く機会がなかったが
辞書的には人間以外の存在という意味だが

本書では特に
「神や霊、鬼や天狗などの見えないものや、
狐や蛇などの霊力をもつ動物など、
いにしえの人々が恐れ崇めた「人ならざるもの」」
としてとらえ

それらがどのような存在としてとらえられてきたのか
その起源や歴史そして暮らしとの関わりが
コンパクトに紹介されている

以下本書の趣旨からは
少し離れてしまうところもあるだろうが
こうした「異類」について少し

おそらくかつて日本人が現代のように
即物的に生きていなかった時代には
目には見えない神や鬼・天狗なども
リアルに感じられていたのではないだろうか

そして実際に存在している動物たちも
そうした霊的な存在たちの化身として
とらえられていたのではないだろうか

ギリシア神話の神々たちも
(神秘学的な観点からいえば)
かつては人間がじっさいに関わっていた存在だったが
それらの存在はしだいに人間の内的世界のなかで
人間の魂の要素としての存在となっていったという

こうした「異類」たちもまたしだいに
私たち日本人の内的世界のなかへと姿をかえて
存在するようになっていったとも考えられる

その姿は地域や文化などで
さまざまに投影されたかたちで
想像的な姿をとって存在しはじめたのだろうが

目には見えない神々や鬼・天狗たちも
霊的世界のなかではいまでも実際に存在し
私たちの内的世界を通じながら
多くは集合的無意識とでもいいった場所で
関わりつづけているともいえる

その意味で「異類」としての動物たちもまた
それは個別の動物というよりは
出自としての集合魂からの神威なのだろうが
そのほんらいの出自としての霊的世界での姿が
ある種の神威をもって感じとられたりもする

こうした「異類」について見ていくことは
私たち日本人の魂の底に
集合的無意識として働いているものを
具体的に想像していく重要な契機ともなる

私たちの内界では
さまざまな力が無意識的に働いてる
そしてときにその力に
ふりまわされたりすることもあるが
「異類」たちの世界に親和性をもっておくことで
無意識の世界の力との共存的な関係を
なにがしか結んでおくこともできるのではないだろうか

■朝里樹 (監修)
 『日本異類図典』
 (ジー・ビー 2022/5)

(「はじめに」より)

「異類とは何でしょうか。
 辞書的な意味でいえば、人間以外のものを指す言葉となるため、大変広い意味を持つ言葉です。
 神や妖怪、 動物や植物はもちろんのこと、 ポケットモンスターなどのゲームやア ニメなど様々な媒体で活躍しているモンスターたち。ゴジラやガメラ、ウルトラシリーズに登場する怪獣、宇宙人。仮面ライダーシリーズやスーパー戦隊シリーズに登場する怪人なども、含めようと思えば広い意味で異類に含まれるでしょう。
 また都市伝説や学校の怪談にも、多くの不思議で怪しい存在が登場します。古くから様々な記録や物語に登場する人間や動物の霊は、今でも多くの人々にとって実在するものとして信じられていることでしょう。
 人間というものは、 実在するしないにかかわらず、 自分たちとは異なる存在を意識的に作り出したり、 無意識に想像してしまったりするものです。
 それに加えて、実在する動物や植物たちもまた、神の使いであり、神そのものであり、人を化かし、言葉を話し、妖怪に変わるなどといった、特殊な性質を付与されてきました。
 現代では科学の発展によってそれぞれの動植物がどのような生態や性質を持つ生き物であるか、多くのことが判明していますが、それでも動植物に不思議な力があると信じている人も多いでしょう。それが悪いことであるとは思いません。むしろ、人間であるからこそ想像できる、夢やロマンのある話ではありませんか。
 本書では、そんな異類の中でも主に日本人が古くから特殊な力や性質を持つものとして考えていた存在を紹介・解説します。
 私たちが人間であるからこそ自分たちとは異なる、不思議な存在としてとらえることができる異類たち。その世界に入ってみましょう。」

(「PROLOGUE1 異類の定義」より)

「人々は古くから「異類」を信仰の対象としてきた
人間以外のものを指す異類は、換言するなら人ならざる存在である。これには霊的存在と物理的存在があるが、日本の古代信仰の対象だった神・鬼・霊(たま)・物は前者に当たり、古くはそれぞれが互換関係や近似性によって結ばれていた。」

(「PROLOGUE2 異類の歴史」より)

「神話の時代から現代へ移り変わる異類のイメージ
神と鬼の区別がなかった古代の霊的な存在から、時代が下るにつれ次第に実体を持ち出した異類。中世に天狗として魔物のイメージを帯びると、泰平の世を迎えた江戸時代には多種多様な妖怪たちの姿となった市井に拡散していった。」

(「PROLOGUE3 神仏と異類」より)

「異類は神そのもの、もしくは神や仏の使いとして信仰された
神仏と現世の人々の間を取り持つ神使も異類の一首である。動物の姿をとって神意を伝えるのが役割だが、それにとどまらず動物自体が信仰の対象となることもあった。異類は神の世と人の世を結ぶ媒介仏でもあったのだ。」

(PROLOGUE4 動物と異類より)

「動物が持つ特徴的な形姿に人々は神性を見いだした
動物は異類のうちでも物理的存在だ。であるがゆえに、彼らの持つ特異な能力、固有の形状は人々の注意を惹かざるを得ない。古来、そうした動物たちの能力や形姿などに人は信仰上の意味を見いだし、崇拝の対象としてきたのである。」

(「第1章 異界と異類」より)

「私たちには見えない人間界の外側にある世界「異界」には、空想の尊い生物たちが数多く存在している。古の人々はどのように捉えていたのかその起源や歴史、伝統文化を深掘りしていく。」

「天狗
山の神と妖怪の二面性を持つ
山という人の立ち入れない異界に棲む山岳信仰と渾然一体となった異類」

「鬼
畏怖から生まれた魔物の神
目に見えない霊的な魔物が時代を経て怪物的な姿と人を畏怖させる神通力を得た」

「河童
水難事故を警鐘する水の神
生命の源になる水辺に棲まい水神、妖怪とさまざまな役割を果たした」

「龍
異界最強の霊異を持つ霊獣
中国より伝わり日本の水神と結びついた恵と嵐をもたらす竜蛇神」

「鵺
不気味な鳴き声を轟かす怪獣
平安時代の人々を恐れさせた怪物には文化的な背景が隠されていた」

「鳳凰
幸せをもたらす吉兆の霊鳥
世の平安をもたらす象徴として中国から渡来し、日本独自の美しい姿に進化した」

「狛犬
神々を守る守護獣
古代オリエントで生まれた霊獣が、神仏を守護するために渡来し、やがて狛犬となった」

「人魚
不老不死の人魚の伝説
人魚といえば路まんっちっくなおとぎ話を連想するが、日本にも独自の伝説が生まれた」

「霊
死んだ後も生き続ける霊魂
幽霊が人を祟る恐ろしい存在となったのは地獄などの他界観が影響している」

「天人・天女
天界を舞う美しき存在
日本や東アジアに民話・伝説として受け継がれた天女は、天界に住む絶世の美女として知られる」

(「第2章 動物と異類」より)

「人々は人知を超える能力を持つ動物に神威を感じとり、神そのものや神の使いとして敬い崇めた。動物の霊力のルーツと、神威性から生まれた伝承を読み解いていく。」

(「第3章 暮らしと文化の異類」より)

「古来人々は、自然の脅威を神意と捉え、神々と共存するためにさまざまな儀礼や伝統を生み出した。本章はその中で、動物や異類にまつわる伝承を読み解いていく。私たちの暮らしと文化には数多くの異類たちがひそんでいる。」

【目次】

PROLOGUE1 異類の定義
PROLOGUE2 異類の歴史
PROLOGUE3 神仏と異類
PROLOGUE4 動物と異類
PROLOGUE5 [日本全国]異類伝承MAP

第1章 異界と異類
天狗 鬼 河童 龍 鵺 鳳凰 狛犬 人魚 霊 天人・天女

第2章 動物と異類
【ほ乳類】 狐 猿 鹿 狼 熊 兎 牛 馬 鼠 猪 狸 犬 猫
【爬虫類】 蛙 大山椒魚  【鳥類】  烏 鶴 梟 雉 白鳥 鶏 鷲
【魚類】  鯰 鯉 鮭 貝 鯛 蛸 【虫類】 蚕 百足 蝶

第3章 暮らしと文化の異類
時 方角 天気 年中行事 芸能 災害 祭り 遊び

Column1 江戸時代の怪奇現象? 不思議な力を持つ幻獣
Column2 行事や信仰で活用された植物の霊力
Column3 自然界の畏怖から生まれた異類婚姻譚


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