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アリ・ブザーリ『おいしさをつくる8つの「成分」──理想の料理を作るための調理科学の教科書』

☆mediopos-3154  2023.7.7

本書は各種レシピの紹介された料理本ではない

料理をするときに使う食材を考えると
野菜・穀類・豆類・果物・
肉・魚・海産物・乳製品等で

それらに水・油・酢・
各種調味料(砂糖・塩・醤油・味醂・麹等)を加え
熱したり冷やしたりしながら料理をつくるが

本書はおいしい料理を作るための
基本的な「成分」とその「ふるまい方」について
解説されたユニークな一冊

レシピではなく
どのような「成分」があって
それらがどのような性質をもち
どのように働き
また働きあって
美味しい料理がつくられるのかを
イメージできるようにされている

つまり料理そのものではなく
料理をどのようにデザインすれば
より美味しくできるかという発想本である

その「成分」とは
水・糖類・炭水化物・脂質・
たんぱく質・ミネラル・気体・熱の8つ

「最初の7つは
私たちが食べるものの内側で回る歯車で、
熱はそれらを動かすエネルギー」

多かれ少なかれ料理には
この8つの「成分」が含まれているが
8つそれぞれの
「すること」と「しないこと」のセットで
料理は作られている

つまり料理をしているとき
そこでなにが起こっているのかを理解できれば
「料理をより思い通りデザイン」するためには
どうすればいいのかがイメージしやすくなる

この視点というのは
いうまでもなく
料理だけではなく
考えること
感覚すること
感じること
意志するといったことについて

そこでなにが起こっているのか
どのような働きの「成分」があり
それらがじっさいにどのように働いているか
そしてそれぞれの働きのなかで
「すること」と「しないこと」が
どのように構成されながら顕在化しているかを
イメージするためにも有効である

あるいは地水火風(そして空)という
世界で働いている「成分」が
どのように展開されているか
または展開することが望ましいか
といったことをイメージし
実践していく際にも
その発想を応用することができる

ある意味でそうした視点をもつことは
意識魂的なものを顕在化させる際にも
重要な視点ではないだろうか

つまり料理にせよ心魂的なものにせよ
世界のさまざまな事象にせよ
それらそのものに呑み込まれることなく
いわばメタレベルでとらえることで
むしろそれらそのものとの
意識的なコラボが可能になるということである

それはともかく
とりあえずは実際に料理をしているとき
8つの「成分」をどのように生かせば
美味しい料理を作れるかである

食材の組み合わせ方
調味料の使い方
熱の加え方など
ちょっとしたことで
ずいぶん美味しくなりそうだ

■アリ・ブザーリ(川崎寛也=日本語版監修・廣幡晴菜=訳)
 『おいしさをつくる8つの「成分」
  ──理想の料理を作るための調理科学の教科書』
 (楽工社 初版 2023/4)

(「はじめに」より)

「ジャガイモ、チーズ、キャビア、ダックファット、パスタはすべて食材である。すべての食材は、どんな複雑なものであっても、もっと単純なもの、すなわち食べ物の基本構成要素である成分でできている。成分には8種類ある。水、たんぱく質、炭水化物、ミネラル、気体、糖類、資質、そして熱だ。最初の7つは私たちが食べるものの内側で回る歯車で、熱はそれらを動かすエネルギーである。それぞれの成分には特徴があって、それぞれがすることとしないことのセットがある。」

「料理や食事をするときは、人間のものさしでものごとを経験している————視覚、嗅覚、味覚、触覚、そして聴覚で感じている。本書を読んだ後には、頭の中に生まれた声やイメージのおかげで、見えないものを心に思い描けるようになるだろう食べ物の食感、味、香り、外観の裏にある顕微鏡でしか見えないドラマを想像することができる。まるで透視能力を手にして料理をするような体験になる。」

「各成分のパターンを知れば、料理の問題の解決策には基本的な選択肢がいくつかあるだけだということがわかる。
(・・・)
 これらのパターンは失敗したときだけに当てはまるのではない。たとえば、おいしいものができたとき、何のおかげでおいしかったのか、どうやったらそれを再現できるか、あなたは知っている。ある料理を千回作っていて、千一回目はもっとおいしくしたいとき、こうすればいいとわかる。パリパリした食感は水分とほかの成分のバランスで決まるとわかっているので、ご自慢のピザの皮をさらにパリパリにしたければ、そこから探求を始められる。」

「本書には学べることがたくさんあるが、事実や数字を山のように暗記するのではなく、物語に出て来る8つのキャラクターを知るという形で提示されている。それぞれの成分が主役になる8つの章があり、それぞれの性格の特色がスポットライトを浴びて輝く。(・・・)科学的な予備知識は必要ない。」

(「これからのパントリー」〜「水」より)

「液体を薄める。ほかのものを溶かす、液滴が動ける隙間を作ることでエマルションを安定させる、pHを利用して食べ物を酸性あるいは塩基性にする、凍ったり結晶化したりすることで食べ物を硬くする、蒸気に変わることで膨脹させる、といったことに役立つ。」

※参考:エマルション「水の中に油が、もしくは油の中に水が分散している状態のこと」

「たくさん:野菜、果物、肉、シーフード、卵、ハーブ、きのこ、酢、ワイン、ビール、ジュース、ソーダ、牛乳、調味料(醤油、魚醤、ケチャップなど)、ストック/ブロス、フレッシュチーズ
 少しだけ:熟成チーズ、シロップ(蜂蜜、メープルシロップなど)、濃厚なエマルション(バター、マヨネーズ、クリームなど)、干し肉、ドライフルーツ、干し野菜」

(「これからのパントリー」〜「糖類」より)

「甘みをつける、液体にほんの少しとろみをつけ、あるいはべたつかせる、水分を取り除くとパリパリのガラス状態になる、微生物が発酵を行うための食料を与える、熱すると褐変する、冷凍食品の中で水分が粗い氷の結晶になるのを防ぐ、調理済みの食品から水分が蒸発するのを防ぐ、といったことに役立つ。」

「たくさん:グラニュー糖、シロップ(蜂蜜、メープルシロップ、アガベシロップなど)、ジャムや砂糖煮、ソーダ、甘口ワイン、果物、ビーツ、サツマイモ、スイートコーン
 少しだけ:その他の野菜、乳製品、肉、きのこ、シーフード、穀物、豆類、ビール、ワイン、酢、パン、卵、ナッツ、コーヒー」

(「これからのパントリー」〜「炭水化物」より)

「液体のとろみを強める、水分を取り除くとパリパリのガラス状態になる、混合物をとらえる、ゲルを創り出す、エマルションや泡のかたまりを安定させる、後に分解される可能性のある糖類の貯蔵庫のはたらきをする、といったことに役立つ。」

「たくさん:穀物、豆類、ナッツ、種子、パン、果物、海藻
 少しだけ:葉物野菜、ハーブ、香辛料、きのこ

(「これからのパントリー」〜「脂質」より)

「食べ物の香りや色を蓄える、エマルションになる液滴を提供する、時にはエマルションを維持するため乳化剤としてはたらく、熱の伝導を助ける、液状のときにはクリーミーな食感を出し、固形状のときにはしっかりとした食感を出す、分解して風味のよいかけらになることで香りを生み出す、たんぱく質や炭水化物のような水を好むものを引き離しておいて柔らかいバッター生地やパン生地を作る、といったことに役立つ。」

「たくさん:油、脂、乳製品、ナッツ、アボカド、濃厚なエマルション、チョコレート、シーフード
 少しだけ:香辛料、果物、野菜、ハーブ、穀粉、種子、穀物、豆類

(「これからのパントリー」〜「たんぱく質」より)

「液体に強いとろみをつける、水分を取り除くとパリパリのガラし状態になる、エマルションや泡のかたまりを安定させ乳化させる、ゲルを形成したり、何かをくっつけてまとめる、きつね色に変化させる、味や香りをとらえる、といったことに役立つ。

「たくさん:肉、シーフード、豆類、乳製品、ナッツ、卵、種子、穀物、小麦粉
 少しだけ:果物、野菜、香辛料、ハーブ、きのこ」

(「これからのパントリー」〜「ミネラル」より)

「しょぱくする、水分を微生物から遠ざける、冷凍食品の中で水分が粗い氷の結晶になるのを防ぐ、調理済みの食品から水分が蒸発するのを防ぐ、炭水化物やたんぱく質のような大きな成分がつながってゲルを形成するのを助ける、食べ物に色をつける、といったことに役立つ。」

「たくさん:塩、熟成チーズ、セロリ、貝や甲殻類、発酵した大豆製品、豆腐、ピクルス、ケイパー
 少しだけ:野菜、果物、肉、チョコレート、乳製品」

(「これからのパントリー」〜「気体」より)

「泡で液体にとろみをつける、膨脹して食べ物をふくれさせる、食べ物に化学反応を起こさせる、といったことに役立つ。」

「たくさん:発泡性飲料、ドライアイス、発酵食品、イースト
 少しだけ:果物、野菜、香辛料」

(「これからのパントリー」〜「熱」より)

「食べ物を曲げやすく、薄く、自由に動き回るようにする、プロセスのスピードを上げる、大量に使用すると酸素や微生物を殺す、といったことに役立つ、」

■目次

日本語版監修者まえがき
はじめに

糖類
炭水化物
脂質
たんぱく質
ミネラル
気体

これからのパントリー
謝辞

■著者:アリ・ブザーリ(Ali Bouzari)
料理科学者、作家、教育者であり、カリフォルニア北部に拠点を置く料理研究開発企業Pilot R+Dの共同設立者。
食品生化学の博士号を持つシェフとして、アイビーリーグからカリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカまでトップクラスの大学で教鞭をとり、カリキュラムを開発。
そのかたわらでトーマス・ケラー・レストラン・グループなどの全米有数の革新的レストランとコラボレーションするなど、料理の捉え方を変える流れを牽引してきた。
本書の原著は国際料理専門家協会(IACP)ベストブック賞の参考図書部門賞を受賞した(2017年度)。

■日本語版監修者:川崎寛也(かわさき・ひろや)
調理科学者、感覚科学者。京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了、博士(農学)。
味の素(株)食品研究所エグゼクティブスペシャリスト。特定非営利活動法人 日本料理アカデミー理事。
研究分野は、おいしさの科学、プロの調理技術の解明、食の体験と心理的価値の関連解明など。
おもな執筆書に『味・香り「こつ」の科学』『おいしさをデザインする』『だしの研究』『料理のアイデアと考え方』『料理のアイデアと考え方2』(以上、柴田書店)、
『日本料理大全 だしとうま味、調味料』(共著、特定非営利活動法人日本料理アカデミー)、『料理すること その変容と社会性』(共著、ドメス出版) ほか。

■訳者:廣幡晴菜(ひろはた・はるな)
英語翻訳者。東京大学大学院総合文化研究科博士課程満期退学。
訳書にアンナ・ファイフィールド『金正恩の実像 世界を翻弄する独裁者』(共訳、扶桑社)、スーザン・ジャングほか『シグネチャー・ディッシュ 食を変えた240皿』(共訳、KADOKAWA)など。

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