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筧裕介「課題解決とデザイン/ 複雑な課題を表現してみると、解への道筋が必ず見えてくる。」『反集中』(ミラツク)

☆mediopos-3038  2023.3.13

mediopos-3023(2023.2.26)で
ヌッチョ・オルディネ『無用の効用』をとりあげた

「〈役立たず〉が〈役に立つ〉」ということである

筧裕介は昨年6月東京・神保町に
『無用之用』という書店をつくったという

「「役立ちそうだ」と自分で気づいていることは、
自分が属している狭い世界でしか役立たない」
「いかに自分の意識の外の世界に気づけるかが、
今一番大切なこと」であり

その気づきのトレーニングとして
「関心なさそうな書籍を眺めてみる」ための書店だという

エンジェル投資家の故瀧本哲史さんの
「教養というのは「自分とは思想が異なる人、
自分にとって未知の領域に精通している人」と対話ができる能力だ
という趣旨の発言」に共感したとのことだが

現代の日本のでいちばん欠けているのが
まさにその「無用の用」である

すぐに役に立たないものは
「無用」とされ切り捨てられる

学校教育においてはいうまでもなく
学問の世界でも研究費を捻出できないため
「専門」以外については一顧だにされない
すべてが細分化され
ますます全体が見えなくなってしまっている

上記の教養についての話のように
教養はすぐには役立ちそうにもないことについて
問いかけ学ぶことで少しずつ身につくものである
専門領域や関心のあることだけをいくら積み重ねても
それは教養とは無縁の単なる専門知識にほかならない

そうした意味での教養を身につけていないと
専門領域を少しでもはなれたとき
まったく意思疎通ができなくなるのでそれとわかる

年をとるということが意味をもつのも
「無用」であるいろんなことを知らずに身につけ
その生に奥行きを持ちえているときだろう

そうしたひとと対話するのは
それがたとえ言葉にならない対話であるとしても
そこから得られるものはかけがえのない知恵である

■INTERVIEW 07 筧裕介(NPO法人issue+design 代表理事)
(インタビュアー:西村勇哉)
「課題解決とデザイン/
 複雑な課題を表現してみると、解への道筋が必ず見えてくる。]
 (『反集中――行先の見えない時代を拓く、視点と問い MIRATUKU FUTURE INSIGHTS』
 ミラツク 2022/12 所収)

(「問いをフォーカスするきっかけは人との出会い、旅、そして「無用の書」」より)

「西村勇哉/今年6月に東京・神保町に『無用之用』という書店をつくられましたよね。「無用の用」は、すごく好きなテーマで。役に立つかどうかは状況次第なので、役に立たないと思っていることはむしろやったほうがいいと思うんですけども。今の話は、「無用」にフォーカスした背景にも実はつながっているんじゃないでしょうか。

筧裕介/イシューのフォーカスが合わないということは、自分のなかにそのための知がまだないんですよね。だから、問いを定めるための外からの刺激や知がすごく大切だと思うんです。

西村勇哉/「問いを明確にするための知がない」というと、人は役に立ちそうなものを手に取ろうとしてしまう。そうではなく、本当に無用だと思う世界に行っても大丈夫だと思ってもらうにはどうしたらいいのかなと思うんですね。

 最近、僕は天文考古学の本を読んでいたんですけど、天文考古学が僕の役に立つ可能性は2ミリくらいしかないと思われる。でも、僕はそこに本当にすごい可能性があると思うんです。なぜなら、自分が取り組めていないテーマはきっとまだ残っているし、それに気づいていなければ役に立つと思えるはずがない。だからこそまったく関係なさそうなテーマに行ってみるんです。

 それでも、今見えているテーマに紐付けようとするところが前段階にあるなと思っていて、もういっそぐっと役に立たないほうに行ったほうがいいよと、ある講演でちょっとしゃべってみたら、みなさんがポカンとしているのがすごい伝わってきて(笑)。

筧裕介/すごくよくわかります。「役立ちそうだ」と自分で気づいていることは、自分が属している狭い世界でしか役立たないですもんね。いかに自分の意識の外の世界に気づけるかが、今一番大切なことだと思ってます。関心なさそうな書籍を眺めてみるというのは、その絶好のトレーニングです。

 よくわからないけど、感性や気持ちがちょっと動くものを見つけ、「普段は興味を持たないけど、ちょっと興味がわいた」みたいなことに気づけるようになると、自分から少しずつ遠いものに徐々に徐々に気づけるようになっていきます。そういうトレーニングは、今誰もが大切にすべきことだと思います。

西村勇哉/子どもと遊んでいると、すごく役に立たないところに向き合わざるを得ないのがいいなと思っていて。うちの子どもは今、すごく鳥が好きで「あの鳥は、◯◯科のこういう鳴き声の鳥で、たぶんああれは冬羽(ふゆばね)だから夏はこういう色で」みたいな話をしてくれるけど全くわからない。下の息子は電車が好きで、やたらと電車の型番を知っている。家族のなかで、自分にはない趣味をもっている人と向き合っていくと世界が広がるなと思います。筧さんは、自分の世界を広げるための出会いってどうやってつくっていますか?

筧裕介/昨年亡くなられたエンジェル投資家の瀧本哲史さんは、教養というのは「自分とは思想が異なる人、自分にとって未知の領域に精通している人」と対話ができる能力だという趣旨の発言をされていて、すごく共感しました。

 最近は「この人たちと対話できるんだろうか?」と感じるような異分野の方が募るパネルディスカッションにはできるだけ積極的に登壇させてもらうようにしています。僕は、そういう場でにたまたま隣にいた人との出会いから、視界がひらけ、イシューのフォーカスがあい、プロジェクトが生まれる成功体験がけっこうあるので。

 本の選び方も、そういう成功体験に出会えるとやっぱり変わりますよね。だんだん誰とでも、どんな領域のテーマでも、比較的理解しながら話せるようになって、瀧本さんが言うところの教養が身につくんだろうと思います。自分が「無用の知」に触れるために、「無用之用」という書店を作ったというところもありますね(笑)。

西村勇哉/なるほど。特に最後の『無用之用』の話は、すごく聞きたかった話でした。今日もいつにも増してありがとうございました。」

◎筧裕介(NPO法人issue+design 代表理事)
1998年、「株式会社博報堂」入社。2008年、ソーシャルデザインプロジェクト「issue+design」を設立。以降、社会課題解決のためのデザイン領域の研究、実践に取り組む。代表プロジェクトに東日本大震災支援の「できますゼッケン」、子育て支援の「日本の母子手帳を変えよう」他。主な著書に『ソーシャルデザイン実践ガイド』(英治出版)など。グッドデザイン賞、竹尾デザイン賞、日本計画行政学会学会奨励賞、カンヌライオンズ(フランス)など、国内外の受賞多数。

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