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堀元見・水野太貴『言語オタクが友だちに700日間語り続けて引きずり込んだ言語沼』

☆mediopos-3064  2023.4.8

言語学には素人の堀元見と言語オタクの水野太貴が
「言語」にまつわる話をするYouTubeチャンネル
「ゆる言語学ラジオ」が書籍化されている

本書を読むまで知らずにいたが
登録者数は18万人を超え
第3回JAPAN PODCAST AWARDS(というのがあるらしい)で
ベスト ナレッジ賞とリスナーズチョイスを
Wで受賞しているとのこと

もともと言語学には関心があるけれど
本書の紹介にあるように
「知っているようで知らない言語にまつわる話」が
なかなか面白いのでとりあげてみることに

まず「山川」

やまかわ

やまがわ
の違い

「やまかわ」は山と川という並列関係なのに対し
「やまがわ」は山の川という修飾関係となり濁音となる

「尾ひれ」と「尾びれ」も
前者は尾とひれで後者は「尾のひれ」で濁音になる

しかし「ドクガエル」のように
「カエル」に濁音がないばあいは濁音になるが
「ドクトカゲ」のように
「トカゲ」に「すでに濁音がある言葉は連濁」しない

あまり意識してはいなかったものの
私たちはこうした細かい言語表現を
ほとんど無意識のうちに行っている

そして「アニマシー」

英語ではbe動詞に「ある」と「いる」の区別はないが
日本語にはそうした
「ある名詞に対して「生きている感じがするなぁ」とか
「意思を持っている感じがするなぁ」と思える性質」である
アニマシーが強く働いている

上記の二例は第一章からのものだが
第二章から第六章まで
「あいうえお」という母音の大きさや
舌の高低についての違い
オノマトペのこと
「に」「を」「で」といった格助詞のことなどなど
興味深いテーマが楽しく繰り広げられている

「聞かれたら答えは分かるんだけど、
そのメカニズムがなぜか説明できない」
そんな言葉の「不思議な現象」を知ることができるのはもちろん
しかもそこから言語現象への問いが開かれていくことが楽しい

引用では長くなりすぎるのでほとんど割愛せざるをえなかったが
聞き手と話し手の「ムダ」のようにも思えるやりとりも面白い
YouTubeチャンネルでも聞いてみたが
半ば与太話のようでもあるものの
対話を聞きながらその言語「沼にハマっていくのは、楽しい」

日本語を母国語としていながら
(ほとんど日本語しか使えないのだけれど)
その日本語についてさえいかに無知かということに
(楽しく)気づくことのできるきっかけになる「沼」である

■堀元見・水野太貴
 『言語オタクが友だちに700日間語り続けて引きずり込んだ言語沼』
 (あさ出版 2023/4)

(「プロローグ」より)

「水野/「山川」と書いて、どう読みますか?
 堀元/「やまかわ」かな。
 (・・・)
 水野/「やまかわ」の自然界におけるイメージは?
 堀元/え、まあ、山と川じゃないですか?
 水野/そうですよね。では、「やまがわ」と読んだときはどうですか?
 堀元/・・・・・・あっ!!!! すごい!!!
    「やまがわ」だと、山の中を流れる川のイメージになってた!!
 水野/そういうことです。
    これも並列関係or修飾関係ですよね。
    濁っていると修飾関係です。
    こんな漢字で、我々は無意識に連濁を使いこなしているんです。

 水野/すでに濁音がある言葉は連濁しません。
 (・・・)
    言っている意味、分かります?
 堀元/「カエル」には濁音がないから「ドクガエル」になるけれど、「トカゲ」には濁音があるから「ドクトカゲ」のままってことでしょ?」

(「第1章「のこと」沼」より)

「水野/堀元さん、次の2文を和訳してもらえますか?
   ・There is an apple on the table.
   ・There is a cat on the tabele.
 堀元/めっちゃ簡単ですね。
    ・リンゴが机の上にある。
    ・ネコが机の上にいる。
    こうでしょ。
 (・・・)
 堀元/英語はどちらもisですね。
 水野/ええ。では日本語は?
 堀元/禅者はある、後者はいるですね。
 水野/なぜ日本語は違うんですか?
 (・・・)
 堀元/生物か無生物かでしょ?
 水野/鋭いですね。ほぼ正解です。
 堀元/ほぼ? ドンピシャ正解じゃないの?
 水野/はい。生物か無生物かだけで説明できるわけではないんです。」

「水野/ある名詞に対して「生きている感じがするなぁ」とか「意思を持っている感じがするなぁ」と思える性質のことを、言語学ではアニマシー(有生性)と言います。
 (・・・)
 堀元/僕はさっき「ある/いる」の区別を「生物か無生物か」だと言ったけれど、実際にはアニマシーが重要だったということですね?」

(「第2章「バテる」沼」より)

「水野/母音には大きさがあります。
 (・・・)
    イメージをまとめると、ざっくりこんな感じ。
    ←大きい  小さい→
    「お」「う」「あ」「え」「い」

(「第4章「あいうえお」沼」より)

「水野/堀元さん、「あかさたな」と声に出してみてください。
 堀元/あかさたな・
 水野/何か気づきませんか?
 (・・・)
    ここで注目してほしかったのは、(・・・)調音点です。
 堀元/調音点?
 水野/音を出すために空気を阻害する場所です。
 (・・・)
    子音っていうのは、口の中で空気の流れを阻害して出している音です。
 (・・・)
    この、空気を阻害する点のことを調音点と呼びます。
 (・・・)
    ここでもう一度聞きますね。「あかさたな」と言って、何か気づきませんか。調音点を意識してください。
 堀元/調音点が、徐々に前に移動している気がします。
 (・・・)
 水野/五十音順って、音声学的にめちゃくちゃ正しい配置なんです。」

「水野/母音を発するとき、舌には高低の特徴があります。
 堀元/舌の位置が高いか低いってこと?
 水野/そうです。「あ」と「い」だと、舌が高いのはどっちですか?
 (・・・)
    「あいうえお」は、舌の高さが「低→高→中」という順番で並んでいるんですよ。

 水野/堀元さん、特に重要な母音って何か分かりますか?
 (・・・)
    アラビア語など言語によっては、母音を3つしか持たない場合もあるんです。
 (・・・)
    母音をどうしても削減しなきゃいけなくなったら、2つリストラできます。
 (・・・)
    正解は、「え」と「お」です。
 (・・・)
    この2つは、比較的聞き取りにくいからです。
 (・・・)
    実は、母音には舌の高さ以外にも、もう1つパラメータがあります。舌の位置です。大きく、前舌母音と口舌母音、そして中絶母音の3つに分けられます。
 (・・・)
    「い」と「え」は舌の位置が前で、「う」と「お」は舌の位置が後ろなんですよね。
 (・・・)
    「あ」と「い」は舌の高さが「高」か「低」なのに対して、「え」と「お」は舌の高さが「中」なんですよ。つまり他の母音と区別するのが難しいワケで、だからこの2つは、優先度が低いんです。」

(「第5章「パンパン」沼」より)

「水野/オノマトペってすごいんですよ。
    聞いただけでなんとなくイメージが湧くんです。
 (・・・)
 水野/オノマトペの意味っていうのは、ある程度音から導き出せるんですね。もちろん限界はありますけど。」

「水野/オノマトペを使うことで言語の習得が早まるんです。
 (・・・)
    オノマトペを使えば、子どもは単語を理解しやすくなるんですよ。
 (・・・)
    特にポイントになるのが動詞の一般化です。
 (・・・)
    動詞が理解できない子どもでも、オノマトペを用いた動詞なら使いこなせることが、ある実験からわかっています。」

(「第6章「を」沼」より)

「水野/「山に登る」と「山を登る」って、どう違いますか?

 (・・・)

 水野/「を」は、その名詞にある程度影響を与えてたり、強く働きかけたりすることが多いんです。
 (・・・)
    山道をたどって山頂に着いているから、「〜を登る」と言えるんですね。
 (・・・)
 堀元/「犬ぞりで山に登る」は臨場感がない。気づいたら山頂にいる感じ。
    一方、「犬ぞりで山を登る」は、雪を舞い上げながら斜面を登る大男のイメージがありありと湧いてくる。」

「水野/もう少し捕捉しておきましょう。
    「川を泳ぐ」と「川で泳ぐ」の違いについてです。
 (・・・)
 水野/正解を言うと、「川を泳ぐ」のときの「を」は、その場所をかなり広い範囲で運動が行われているニュアンスが含まれます。
 堀元/あー、なるほど。メロスは川を渡りきったから「川を泳いだ」なのか。」

(「エピローグ~聞き手(堀元)~」より)

「言葉が気になるせいで、生活に影響が出ている。僕はまさに、言語沼にハマってしまったに違いない。
 なぜハマったか。その答えは、「ムダ」にる気がしてならない。本書をひと言で表現するなら、ムダの多い本である。」

「ムダの削減が叫ばれる世の中である。SDGsを意識するなら、紙とインクを大事にしなければならない、こんなムダばかりの本を出版するのはサステナブルじゃないかもしれない。」

「とはいえ、こんあムダばかりの本もあってもいいんじゃないかなと、思っている。自由にムダ話ができる環境だからこそ、僕は言語の楽しさに耽溺でききたはずだ。」

「沼に引きずり込むというのはつまるところ、相互作用にほかならない。」

「沼にハマっていくのは、楽しい」

(「エピローグ~話し手(水野)~」より)

「言語の面白さを伝える本が作りたい。大学で真面目に勉強しなかったくせに生意気だが、そう思って出版社に就職した。

 言語沼に堕ちて四半世紀が経とうとしている。思わぬ形で夢が叶ってしまった。

 これまでの人生で、言語沼の深さを共有できる仲間はいなかった。」

「言語の面白さは誰も理解してくれないのか・・・・・・・
 そう思って20年、ついによい知己に恵まれた。」

「聞かれたら答えは分かるんだけど、そのメカニズムがなぜか説明できない」。こんな不思議な現象が、日常生活ではそう滅多にお目にかかれない。ところが言語に目を向けると、一事が万事こんなことばっかりなのである。
 本書では、こうした現象にぎゅっと照準を絞って、僕が特に面白いと感じていた日本語の事例を取り上げた。」

「そして、気になり始めたら最後、底なしである。」

【目次】

そもそも言語沼とは?
プロローグ 言語の面白さは、フェルマーの最終定理と同じ
母語話者なのに、分からないことだらけ/「やまかわ」と「やまがわ」の違い/カエルはガエル、トカゲはトカゲ/ライマンの法則/言語の面白さは、フェルマーの定理と同じ/まとめ

第1章 「のこと」沼
俺、スイカのこと好きなんだよね
タモリさんは無生物?/タモリさんは生物のときもある/ロボット犬aiboは1体? 1匹?/まとめ-英語はあまりアニマシーを意識しない

第2章 「バテる」沼
「あ」と「い」は、どちらが大きい?
怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか/単語とは、音声による模造品である/タケテ・マルマ実験が切り開いた「音象徴」/ブーバ・キキ効果/「お」は「い」より大きい/四天王キクコは強い名前かもしれない/まとめ-ソクラテスはやっぱり偉かった

第3章 「えーっと」沼
「えーっと」と「あのー」は違うもの
フィラーは撲滅すべき?/「えーっと、ちょっといいですか?」にイラっとするのはなぜ?/「あのー」を使える限られた状況/「あのー」は○○を検討しているときにしか使えない/子どももフィラーは間違わない/依頼の内容が定まっていない無礼者/まとめ-撲滅されかけるフィラーの歴史/一見ノイズだけど、実は意味があるもの

第4章 「あいうえお」沼
「あいうえお」はなぜこの順番なのか?
「あかさたな」と声に出して気づくこと/昔、「は」は「ぱ」だった/調音点が前に行く法則/母音はどうなっている?/母音をリストラするとしたら?/まとめ-母音の順番

第5章 「パンパン」沼
なぜか意味が分かる「パーパカパー」
クスクスとスクスク、意味が違うのはなぜ?/なぜかオノマトペを理解できる子どもたち/言語習得の手がかりはオノマトペ?/オノマトペで悩む日本語学習者/英語はエアバス社、日本語はボーイング社/まとめ-イギリス人は動詞で泣く、日本人は副詞で泣く

第6章 「を」沼
1文字に人生を賭ける学者
「ヘリコプターで山を登った」はなぜヘン?/「を」の意味は?/壁をペンキで塗る? 壁にペンキで塗る?/「食うか食われるかの乱世〇生きる」←〇に当てはまるのは?/「川を泳ぐ」は遊びじゃない/まとめ-「を」のニュアンス

エピローグ~聞き手~
エピローグ~話し手~
参考文献
著者について

◉ゆる言語学ラジオ
言語学素人の堀元見と言語オタクの水野太貴が「言語」にまつわる話をするYouTubeチャンネル。
第3回JAPAN PODCAST AWARDSにおいて、ベスト ナレッジ賞とリスナーズチョイスをW受賞した。

*堀元見(ほりもと・けん)
1992年生まれ。北海道出身。慶應義塾大学理工学部卒。専攻は情報工学。
作家とYouTuberのハイブリッドで、知的ふざけコンテンツを作り散らかしている。YouTubeチャンネル「ゆる言語学ラジオ」で聞き手を務める。
著書に『教養悪口本』(光文社)、『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』(徳間書店)がある。

*水野太貴(みずの・だいき)
1995年生まれ。愛知県出身。名古屋大学文学部卒。専攻は言語学。
出版社で編集者として勤務するかたわら、YouTubeチャンネル「ゆる言語学ラジオ」で話し手を務める。
小学校では難読漢字に、中学校では辞書に、高校では英単語の語源や英文法にハマり、半生を言語沼で過ごしてきた。

◎You Tube ゆる言語学ラジオ


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