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双子の生きる意味—やがて霧色は曇りなく—

概要

著:旧都なぎ

出版:実業之日本社


あらすじ

ある時、気がつくとローランドは穏やかな時間が流れる死者の世界にいた。
「私が死んだ?」
近くにいた天使に尋ねると、そこは憶えていても辛いだけの生前の記憶を消し、死者たちが二度と生に囚われないように設計された“楽園”なのだという。

しかし、自分がどうして死んだのか?を知りたいローランドは
死を「幸せ」とするこの世界でルールに逆らい、生きることを望んだ。
かすかに記憶に残る現実と、死者たちの混濁した記憶の間を彷徨いながら、
自身の死の真実を探す旅は始まった――!(1)

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はじめに

 イラストが上手い人でも話を作るのが下手なひともいる。この作品も例にもれずよくある話の中で僅かな起承転結しか起きず、設定や登場人物の掘り下げも出来ていないだろうと考えていたら良い意味で裏切られた。ほとんどの人がイラストメインで手に取った人であろうが是非この物語も楽しんでもらえれば幸いである。

特徴

フルカラーのイラストとマンガ

 この本はマンガと画集を合体させたかの様な特殊な作りになっている。そしてマンガもイラストもフルカラーとなっており、非常に贅沢感があるものとなっており、その分値段も高くなっている。このマンガとイラストの組み合わせはマンガが話の筋を表現し、イラストはその話に関連した場面やモチーフの一枚絵入れているのでそれぞれがもう片方の邪魔をしていないので読みやすくなっている。


群像劇

 この物語は群像劇で織りなす、楽園と現実の境界がぼんやりとした中で登場人物達の救いと生きる希望を描いたものになっている。1巻では物語が細かく分解しすぎて何が何処に繋がっているのか分かりにくくなっているが2巻では本筋となるローランドとミレーラ、二人の双子の生きることと救いの結末を後腐れなしに描いている。


良い点

美麗なイラストとマンガ

 全体的にイラストとマンガのクオリティが高くこの薄く済んだ濡れた天蓋のカーテンの様な画風が好きな人は買って損はない。この作品集のほとんどのイラストが変な縮小や切り取りが行われずに一頁、二頁をまるまる使ってイラストを全面的に載せているので見づらくない。マンガでも地の分や吹き出しでイラストが隠れたり、邪魔にならない様に配置する場所に気を遣っている。そうしてイラストに気を遣うばかり何処に台詞が置いてあるかわからずマンガとして読めないという事はない。非常に工夫された作品となっている。


設定

 生者の辛い記憶を無くす為の楽園、死者たちが再び純粋な心を取り戻せるように苦しみを受け止めるだけの器を持つ女神など救いを願う清らかな設定が白いイラストと調和しており物語の深みを出している。


悪い点

登場人物の区別がつかない

 1巻では無造作に登場人物が出てきているのでどのキャラクターがどの物語に登場していたのか分かりづらくなっており、一枚絵のキャラクターの紹介ページを何度も捲る必要がある。キャラクターそれぞれに特徴がなく、髪の色が同一の登場人物がいることでそれに加速をかけている。加えてモブなども主要人物と変わらない作画で描かれているのでごちゃごちゃである。もう少し工夫が必要である。


1巻の出来が悪い

 前述した様に1巻ではキャラクターの区別がつかないので物語がどの様な風に進んでいるのか判別付かず、よくわからない短編が多々並んでいるだけという印象しか持てない。その為1巻は落ちの無い短編だけ判断し2巻も読もうと気が起きない、1巻切りを引き起こす原因になっている。


おわりに

話の構成

 この物語の主軸となるのはローランドとミレーラの双子であり出自から始まり、反抗期を経て、成長期を迎えた二人の生き方のすれ違いを描いている。そこに至るまでの布石が堅実に置かれており、物語中に「双子」と括りをしていた為の叙述トリックもある。しかしその作者のしたい展開への準備の物語(1巻)が読みにくく、つまらなさを感じるのは否めない。


ミレーラ

 しかしそれを以てしても2巻の展開は素晴らしい。死んでしまった双子のミレーラの生き様はこの銀と白を基調とした純粋なこの世界観に合致しており、声変わりと言う致命的な肉体の変化による絶望も調和され見事に表現できている。


生と救い

 養護者から離れ、自己欲求のままに生き続けたローランドはミレーラの日々切迫していく悩みに気づかずにいたことを悔やみこの楽園に至ったことを悟る。それを悟った時に物語が急速に展開され、今まで何となしに読んでいた短編が結びつき、双子それぞれのの生と救いの意義を明かされる。そして双子のミレーラに許しを貰ったローランドは今も双子の死に囚われ続けている養護者と寄り添い、前に進むハッピーエンドを後腐れなく描き切ったを言わざるを得ない。


女神様

 もう一人の主人公とも言える存在、物語の舞台となる島の女神様。伝えられた女神としての自己が崩壊をするであろう未来を受け入れ彼女は人々を救う道を選ぶ。しかし女神として長く孤独にいたそれが欺瞞だと自己疑心になってしまう。人を救うことに彼女自身は救いを見出せず、女神として一人の人格として死を迎えたことにより漸く自由になり救われる。そんな儚い彼女の物語でもある。



(註)

(1)以下からあらすじ引用

ヘッダー画像。(2)以下から画像転載


リンク

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