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EU離脱にまつわる不確かな憶測

コロナ禍ニュースの陰で、ブレクジット交渉のゆくえや合意点を報じる内容が各種メディアで相次いでみられる。

英政府の瀬戸際戦術、進出企業に危機感
(日本経済新聞:10.5 朝刊)
英「瀬戸際戦術」不発…EUと貿易協定合意 「多くの漁業者 落胆」
(読売新聞:12.26 朝刊)

変異ウィルス確認に関する話題で、一層世間的な注目が集まる英国であるが、今回は国家運営の視点から英国の動向に注目したい。

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交渉は英国にとって不利だったのか

一連の交渉を受け、「FTAが維持されたことで産業界はひと安心」といった内容や、離脱の悪影響を受ける点では英EU双方が敗者といった論調、また多くの分野で譲歩を引き出したEU側に優位性があり、英国側の強硬姿勢はむしろ状況を悪化させた、と指摘されていたりする。

漁業権に関する交渉が最後まで長引いたが、英国側の交渉決裂(FTAの解消)を辞さない構えはポーズで、経済的な影響の小さい漁業問題で交渉を決裂させるつもりは英国側になかったと池本氏(明治学院大教授:英国政治)は述べているが、果たしてそうであろうか。

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政治学者は漁業権を低く見積もりすぎている

漁業権交渉が最大の対立点となり続けた(英国が強硬な姿勢で主張を続け、こだわった)のは、別に理由があると考えている。

今回の交渉が漁獲割り当てに関する内容のみであれば、多くの識者が論じるように、漁業の経済規模※を鑑みても影響の小さい分野であろう。しかし、領海権と捉えれば話は別である。

すなわち、英国は海洋や水産に関するポテンシャル(将来的な価値)を市場より高く評価しているのでないか。漁業や水産資源のもつ現時点における経済性・市場価値ではなく、技術進展により海洋に眠る多くの未活用資源は、今後大きな価値を生むと試算しているのではないか、というのが見立てである。

国土以上に、海洋は線引きの難しい部分がある。今回の争点となった領海権の獲得(EU公有から英国有への転換)が、英国にとってEU離脱の真の果実であり、まさしく「海域の主権回復」に向けた動きなのではないだろうか。

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海洋資源開発に向けた可能性と戦略

エネルギー転換の動向や海底掘削技術・養殖技術の発展等を背景に、海洋鉱物資源や海底資源を含む海洋・水産資源は今後「金の卵」となる公算を立てている可能性がある。英国は国をあげて海洋資源開発にさらに積極的に取組んでいく可能性があり、英国同様海に囲まれた島国・ニッポンは、その点で英国の動向に注目すべきであると思われる。

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英国のEU離脱は国際的には批判の対象となり得るが、それでも英国の決断は(ポピュリズムと揶揄されることもあるが、政治的には大衆への迎合を装った巧みな国政術であると思う)、不戦共同体の確立を理想論だけでなく現実的に見据えたからこそのものであり、長い道のりの途中であると思いたい。

英国は、経済力・機動力こそ失ったが、歴史的にもやはり老獪な国なのだと思う。英国文学や音楽、文化や芸術への憧憬がそう思わせるのかもしれないが。

※金融サービスは、経済規模で漁業の169倍とされている(ロイター通信)

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