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web調査におけるバイアスと対応

今回は社会調査の1つの方法としてある、webアンケートについて。

web調査とサンプルバイアス

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インターネットの普及と、このたびの新型コロナの影響もあり、社会科学や統計を専門とする研究者に限らず、インターネットを用いたアンケート調査(web調査)を検討したり実施したりする機会がこれまで以上に増えているのではないかと思います。

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筆者も実際にwebアンケートを使った経験がありますが、配布から回収まで短期間で済む、データ入力が不要なためミスがなく集計が簡単など、多くの利点を感じることができ、今後もますます調査手法として主流になってくるのではないかと思います。

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多くの人がインターネットを日常的に使うようになった今、webアンケートの導入当初に懸念されたようなインターネットを使う人と使わない人のあいだにある傾向の違い、すなわち選択バイアスの問題もだいぶなくなってきた(あるいは無視できる程度になってきた)のではないかと感じます。
(詳細は割愛しますが、そうした内容を議論した研究も出てきています)

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webアンケートは早くて簡単なだけでなく、費用も抑えられる場合が多いので、その点でも便利な時代になったと思いますが、一部の調査内容については引き続き注意が必要かもしれません、というのが今回の内容です。

きっかけは農村部での交通に関する調査の中で

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筆者がある農村集落で日常的な移動方法について調査しているとき、自動運転の利用意向について住民の方に尋ねる機会がありました。

そのときは質問紙調査で、いわゆる紙冊子の調査票を配っての調査でしたが、結果からここにバイアスの問題が潜む可能性があると思いました。

図1

完全な自動運転はまだ見ぬ技術といわれていますが、運転をアシストする技術の精度は年々高くなっていて、その実現度の高さから、完全自動運転が実現した場合に利用したいかどうか、その利用意向をたずねる調査はすでにいくつか実施されています。

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表1 自動運転の利用意向に関する比較

例をあげると、国内では民間企業のリサーチ部門による消費者アンケート(オークネット総合研究所やNTTコムリサーチ)や新聞社が実施した読者アンケート(日本経済新聞)等があり、国外の調査としてもフランス等で実施されていて、多くが7割前後が利用意向をもつと回答したという結果を示しています(表1)。

利用

ところが、筆者が農村集落で実施した自動運転の利用意向に関する結果※は、これまでの調査結果と比較して「利用したい」という意向が12.2%、「どちらかというと利用したい(20.3%)」という回答とあわせても3割程度となりました。

※農村集落における75歳以上の全住民(99人)を対象としたアンケート調査(有効回答数N=90)に基づく。

この集落での自動運転の利用意向は、当初の予想以上に低い結果となったため、その要因についてさらに探ってみることにしました。

ネット利用比較

インターネットの利用別にみた自動運転の利用意向(n=74)

高齢者を対象とした調査であったため、年齢による影響と思う方が多いかもしれません。筆者も最初は年齢との関連性を考えました。しかし、その要因として、インターネット利用の有無が関連している可能性が出てきました。

インターネットを利用すると回答した人では、6割近くが自動運転を利用したいという意向を示しました。

つまり、高齢者(75歳以上)であっても、インターネットを利用する人ではこれまでの他の調査結果と同様に半数以上が自動運転に対して利用意向を示すことがわかりました。

新技術の採用とインターネット

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ではなぜ、インターネットの利用と自動運転の利用(意向)に関連があると考えられるのか。

このことに関して、普及学の分野を確立したともいえるRogersは自身の著書『Diffusion of Innovations』の中で「新たなアイデアや技術を個人が採用する際には、これまでに新技術を採用している程度と関連がある」ことを指摘しています。

一般化命題として示されているこうした知見は、今回の(インターネット利用を前提とした)web調査と自動運転技術の場合にもあてはまると考えています。

さらなるweb調査の活用に向けて

今ではすっかり当たり前となったインターネットですが、その歴史は90年代以降と意外にも浅く、広義には”新技術”とも捉えられると思います。

そのため、web調査を通じて「(自動運転技術のような)新技術」の利用意向などを把握する場合には、やはりバイアスが存在すると認めたうえで結果を考察するのが望ましいのでは、と思います。

一方で、その他の多くの影響がない(あるいはあっても無視できる程度である)と妥当に判断できる調査項目については、様々な点で利点の多いweb調査の活用がますます進むことを願うばかりです。

今回一部お示しした調査結果に関する詳細(全文)は、下記から御覧いただけます。
https://www.researchgate.net/publication/342762505_A_Study_on_Technology_Acceptance_of_Self-driving_Car_in_Rural_Areas?channel=doi&linkId=5f052bd8a6fdcc4ca455c958&showFulltext=true
(プレプリントのため、査読中・審査前の原稿であることにご留意ください)

おわりに

コロナ禍にあって、また今後の流れとしても社会調査の手法としてwebアンケートを実施する機会が一層増えると思われます。

その際に「新技術」の利用意向などを把握する場合にはサンプルバイアスの点から慎重に、という期せずしてある意味で時宜を捉えた結果になったと思っています。

こうした内容はweb調査の実施後では遅く、調査の設計を検討する段階で必要な情報になるのではないか、そのためより早い時点で研究コミュニティに発信すべき内容ではないか、と思い、今回学会側に許可を得て、審査中ですが先行して公開する次第です。

そもそものサンプル数が少ない、ある集落の高齢者という偏った分母に基づく結果であるため、統計的な確からしさに疑問を持たれることもあるかと思いますが、1つのデータとしてweb調査の実施を考える際に何らかの参考となれば幸いです。

以上です。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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