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外傷 #8-2 急性硬膜下血腫


原因と病態

 急性硬膜下血腫は、頭部に高エネルギー外傷がきっかけで急性に起こります。高エネルギー外傷とは、高所転落や交通事故などで体に大きな力が加わって起こった外傷のことです。高齢者の場合は、単純な転倒などの外傷でも発生することがあります。血腫は硬膜と脳の間に貯留します。外傷時の衝撃を受けた部位に起こる直接損傷もありますが、衝撃を受けた反対側の部位に発生することもあります。反対側に生じる場合を対側損傷(contrecoup injury)といいます。

 対側損傷が発生する機序を、後頭部を強打した場面を例にして説明します。後頭部に衝撃を受けると、まず後頭葉が硬い頭蓋骨の壁にぶつかって、慣性の法則により脳が動き続けて後頭葉が頭蓋骨に衝突し、衝撃を受けた部位に挫傷ができます。その後、衝突の反動や脳の移動で発生した反対側の「陰圧」によって、衝撃のあった側と反対側の頭蓋骨(と硬膜)から脳が引き剥がされてしまうことで、反対側に血腫が生じます。

対側損傷

 出血を起こす責任血管は、皮質動脈の場合と、架橋静脈の場合があります。皮質動脈が破綻している場合は、脳挫傷や外傷性くも膜下出血をともないます。

画像所見

 CTやMRIでは、硬膜とクモ膜の間に出血し、硬膜下腔に血液が広がるため、三日月型の出血像を呈します。

CT画像

手術の適応

 急性硬膜外血腫と同様に、治療の主体は手術で、通常は全身麻酔で行います。「重症頭部外傷ガイドライン」では、厚さ1cm以上の血腫がある急性硬膜下血腫で手術適応になるとされています。意識障害など進行などの神経症状も手術適応の判断材料になります。

 血腫はゼリー状に凝固し、脳表を覆った状態になります。手術は開頭手術による血腫除去を行い、出血した原因血管の止血を行います。術後に脳浮腫によって頭蓋内圧亢進が発生する可能性がある場合には、頭蓋内の圧を外に逃がすようにするために頭蓋骨を戻さず頭皮の縫合する外減圧術を行うことがあります。

急性硬膜下血腫の経過

 急性硬膜下血腫は、硬膜とくも膜の聞に血腫が生じます。硬膜の下にはくも膜と軟膜がありますが、とても薄いので、硬膜下血腫は硬膜と脳の間に出血している状態です。そのため、外傷時の衝撃や血腫の増大が、脳表への波及を起こしやすく、脳挫傷を伴うことも多く、脳浮腫・脳腫脹の程度が重篤となります。

 そのため、生命予後、機能予後が悪くなります。とくに、発症時から高度な意識障害がある、高齢者、血腫量がが多い、脳損傷を伴う患者は、寝たきりの状態や死に至りやすくなります。手術をしても死亡率は約40-60%と高率となります。脳損傷が軽度の場合は、開頭血腫除去術によって、予後良好のこともあります。

看護

 急性硬膜下血腫の患者に対して、神経症状が悪化することを想定して注意深く経過観察をすることが重要になります。

 早期診断・治療につなげるため、頻回に意識、瞳孔、麻痺など神経症状のチェックを行います。血腫量増加を避けるために、疼痛コントロールを行いながら安静を保ちながら、血圧コントロールをすることが重要です。しっかり、必要時に降圧加療をして高血圧を避けます。受傷2日~2週間に血腫の増大や脳浮腫をきたして発症する亜急性期硬膜下血腫にも注意が必要です。


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