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脳血管 #2-1 脳動脈と灌流域


動脈の名称


動脈系の走行

 脳に向かう動脈は、右総頚動脈は腕頭動脈から,左総頚動脈は大動脈弓から始まります。椎骨動脈は鎖骨下動脈から出ます。以後、脳は2つの動脈系(内頚動脈系・椎骨脳底動脈系)によって栄養されます。

大動脈弓部から脳へ栄養する動脈

覚えるべき13本の動脈

 脳は前方循環である内頚動脈系と後方循環である椎骨脳底動脈系によって栄養されます。
内頚動脈系(内頚動脈)
➜内頚動脈
➜前大脳動脈
➜中大脳動脈
➜前交通動脈
➜後交通動脈
➜前脈絡叢動脈
➜眼動脈
椎骨脳底動脈(椎骨動脈・脳底動脈)
➜椎骨動脈
➜脳底動脈
➜後大脳動脈
➜後下小脳動脈
➜前下小脳動脈
➜上小脳動脈

皮質枝動脈と穿通枝動脈の違い

 脳動脈は走行様式により、皮質枝動脈と穿通枝動脈に分かれます。
 皮質枝動脈は、内頚動脈や中大脳動脈などの脳の表面を走行する太い動脈で、脳組織を貫通して脳深部まで到達する穿通枝動脈を分岐します。厳密にはくも膜下腔を走行しており、主幹動脈の周囲は脳脊髄液で満たされています。脳全体に均一に血流が巡るのではなく、血液の流れやすいところと流れにくいところがあります。流れにくい領域は、各皮質枝の境界領域や、穿通枝と髄質動脈の境界領域もなります。これらの領域は分水嶺とよばれ、脳梗塞に陥りやすい領域とされます。
 穿通枝動脈は脳実質内に入っていく動脈で、終動脈のため穿通枝動脈の血流が悪くなるとその灌流域が脳虚血になります。脳実質に入るまでのすべての脳動脈は、必ず吻合枝を持ちますが、脳実質に入ると、吻合枝がある動脈はなくなり、終動脈になります。

皮質枝動脈と穿通枝動脈

動脈の構造

 血管壁は一般に内膜、中膜、外膜の3層構造になっています。内膜は内皮と内弾性板に、中膜は平滑筋、弾性線維と外弾性板に区分されます。内弾性板は、血圧600㎜Hgまでの圧に耐えれる、動脈壁の一番強い構造になっています。内膜は、血管に損傷が及んだ時に、それを修復する機能を持っています。

MRAでの動脈の部位

 脳動脈の状態を目視で確認することはできません。脳動脈の状態を知るためには、MRAもしくは3DCTAやAGを撮影して、確認するしかありません。そのため、画像を見たときに、画像のどこがどの動脈かすぐに判断する必要があります。
 MRAは基本的には、頭の上から見た画像、顔の正面から見た画像、顔の横から見た画像の3方向の画像を回転させています。画像を見る時、脳の上から見た画像と、顔の真正面から見た画像の左右対称となっている画像を見つけます。

MRA

側副血行路とは

 ある脳動脈からの血流が動脈閉塞や狭窄によって滞ったとき、周りの動脈から補われた血流のことです。
 代表的な側副血行路として、ウイリス動脈輪を構成する前交通動脈と後交通動脈があります。前交通動脈は左右の前大脳動脈を連絡し、脳動脈を左右でつなぎます。片側の内頚動脈が閉塞したときに、前交通動脈を介して反対側の内頚動脈の血流を閉塞した側の大脳に流します。後交通動脈は内頚動脈と後大脳動脈を連絡し、脳動脈を前後でつなぎます。同様に内頚動脈が閉塞した場合、同側の後大脳動脈から後交通動脈を介して閉塞した側の大脳にも流れます。
 そのほか、脳表面の細い血管である脳軟膜動脈が通常の範囲を超えた発達や、顔面や頭皮を栄養する外頚動脈系から血流が乏しい領域を補うこともあります。

動脈と灌流域

脳血流について

 脳血流は脳灌流圧と脳血管抵抗に依存します。計算式にすると、“脳血流=脳灌流圧/脳血管抵抗”です。脳灌流圧は平均動脈圧から頭蓋内圧と静脈圧を引いた数値で表します。計算式にすると。“脳灌流圧=平均動脈圧-頭蓋内圧-静脈圧“になります。よって、体血圧が上昇すると脳灌流圧は上昇します。いっぽうで体血圧が低下したり、頭蓋内圧の亢進や、脳うっ血による脳静脈圧上昇によって、脳灌流圧は低下します。
 脳細動脈が収縮したり狭窄したりすると、脳血管抵抗が上昇し脳血流は低下します。逆に、アシドーシスや血管拡張物質の作用により血管が拡張すると、脳血管抵抗が低下し、脳血流は上昇します。平時では、脳動脈はこれらの収縮・拡張を自動的に行っており、体血圧の変動があっても脳血流量を一定に保とうとする作用(脳血流の自動調節能:cerebral autoregulation)がはたらきます。

脳血流をみる方法

 脳血流量はSPECT検査で確認することができます。

SPECT

 脳組織の代謝量に対して、脳血流が低下している状態を貧困灌流(misery perfusion) といい、脳梗塞に陥りやすい状態と考えられています。いっぽうで、脳組織の代謝量に対して脳血流が上昇している状態をぜいたく灌流(luxury perfusion)とよび、脳出血をきたしやすい状態と考えられます。通常は、脳代謝量が増加すれば脳血流量も増加し、脳代謝量が低下すれば脳血流量も低下します。

脳血流の重要性

 脳は全身に送られるエネルギーの約20%を消費します。脳組織は、酸素や栄養を貯蔵できず、また血液以外から受け取ることはできないため、脳動脈は酸素やエネルギーを脳組織に供給する重要なパイプとしての役割を担っています。脳組織は自力で再生する能力がほとんどないため、エネルギーや酸素が供給されずにダメージを受けると、運動麻痺や意識障害などの後遺症を残します。

動脈と灌流域

 大脳には前大脳動脈、中大脳動脈、後大脳動脈が分布します。それぞれの動脈は、脳の表層を栄養する皮質枝動脈と脳の深部に至る穿通枝動脈に分かれます。分布域は、大脳内側面には前大脳動脈、外側面には中大脳動脈、後部から下面には後大脳動脈の皮質枝が分布します。

大脳の脳灌流域

 穿通枝動脈は大脳の内部にある間脳や大脳基底核などに分布します。
 前大脳動脈の穿通枝は、尾状核頭や被殻の前1/3、内包前脚に分布します。主な穿通枝動脈は内側線条体動脈やホイブネル動脈があります。
 中大脳動脈の穿通枝は、大脳基底核、内包、視床に分布します。被殻や淡蒼球などに至る外側線条体動脈は、脳内出血の好発部位です。
 後大脳動脈の穿通枝は、内包や視床後部に分布します。

 内頚動脈から分枝する前脈絡叢動脈は、大脳脚や内包後脚に分布します。そのため、前脈絡叢動脈が閉塞すると反対側の麻痺や感覚障害が出現します。 

 脳幹腹側を上行する脳底動脈から橋動脈と上小脳動脈、前下小脳動脈が分枝します。橋動脈は橋に分布し、上小脳動脈と前下小脳動脈は小脳に分布します。椎骨動脈から後下小脳動脈が分枝します。後下小脳動脈は延髄や小脳に分布します。
 小脳の上面は上小脳動脈から血流をもらい、小脳の下面は前下小脳動脈と後下小脳動脈から血流をもらいます。

脳幹と小脳に分布する動脈

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