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ずるい

早すぎる梅雨入りと、コロナによって仕事は減りましたが、空いている時間が増えました。いまは坂口安吾の「堕落論」を読んでます。ここに興味深い文章がありまして、自分自身を振り返ることができましたので記録としてここに記します。

私にはパートナーがいる。ぼくの4つ上の女性。たくさん勉強されていて、他人のことを自分ごとのように考えることができる、大変素晴らしく、尊敬している大事な人です。そんなパートナーの嫌いなものは「カミナリ」だ。

以前、自分が歩いている近くに雷が落ちたことがるらしく、雷が鳴り出した時には窓を閉めて、厚手のカーテンもしっかり閉め、それでもなお震えている。ぼくが外に出ようものなら必死で止めようとしてくれる。

今日もまた雷が鳴り始めた。
食料品の買い出しに出かけ、家に帰る途中。
信号待ちをしていると、大雨の中、歩道を雨ガッパを着た学生達がびしょびしょになりながら、自転車で帰宅してる。

パートナー「こんな雨の中を自転車で帰ったら危ないよ。」
僕「ほんとだよね。大丈夫かな。気をつけてね。」
パートナー「私、学生の時は雷が鳴ったら迎え呼んでた。パパかママに。梅雨なんかほぼ毎日お迎え呼んでたよ。」

僕は学生の頃を思い出した。

親に迎えを呼ぶなんて考えたこともなく、どんなに雨でも雷でも、台風の日だってなんとか自力で家に帰ってました。別にそれが嫌だと思ったことはなかったと思う。浸水してる道路を自転車で横切り、立ち上がる水飛沫と轟音を楽しんでさえいた。

パートナー「ずるいと思ったでしょ。」
僕「そんなことない、学生の頃を思い出してた」

僕は「ずるい」と口にだす。
あんただけアイス食べてずるい。僕はあんたより仕事頑張ってるのに、今日あんたは仕事休みだったでしょ、ずるいな。ずるいと思う時は僕が損をしている気になる。ずるい。

坂口安吾の「続堕落論」の中にある一節に、こんな文章がある。

「農村の美徳は耐乏、忍苦の精神だという。乏しきに耐える精神などがなんで美徳であるものか。」

なぜ坂口安吾さんは耐える精神は美徳ではないというのか。次のように続く。

「必要は発明の母と言う。乏しきに耐えず、不便に耐え得ず、必要を求めるところに発明が起こり、文化が起こり、進歩というものが行われてくるのである。」

あぁ、なるほど。納得できる。不便だと感じるから物が生まれる。100円ショップだ。あそこに行けば、これは便利だ便利だと買い物を続け、お会計が1000円超えることも少なくない。

坂口さんは続ける。
「その必要を求める精神を、日本ではナマクラの精神などといい、耐乏を美徳と称す。」

???

「一里二里は歩けという。5階6階はエレベータァーなどとはナマクラ千万の根性だという。機械に頼って勤労精神を忘れるのは亡国のもとだという。全てがあべこべなのだ。」

わかる。わかるよ!なんか似たこと言われて傷ついたことあるよ!

「ボタン一つ押し、ハンドルを回すだけで済むことを、一日中エイエイ苦労して、汗の結晶だの、勤労の喜びなどと、馬鹿げた話である。」

思い出したよ。いっぱい言われたことあるよ。
若い子はいいね。機械があるけん。昔は全部手でしよったとよ。もっと手を動かさんね。だけん、今の子はいかん。体を動かせ、汗を流せ、もっと働け、携帯ばっかりさわるな、だらだらするな。

悪気がない場合もあれば、俺たちの方が頑張ってるから偉いと言わんばかりに威圧してくる人、その背景には俺たちのは頑張って苦労してたのにお前らは楽してずるい。という感情が見え見えだ。(違うかもしれないけど)

坂口安吾さんに出会ってから、僕はずるいと思うことが減った。

毎日迎えに来てくれる環境、素晴らしいじゃん!毎日アイス食べれる生活、いいじゃん。美味しいものを美味しいお酒飲みながら食べれること、とてもいいことじゃん。

「ずるい」の言葉の裏側には、「したいのにできない」があると思う。だから、他人にあたっちゃう。自分がしたいことをしてる人に攻撃しちゃう。

頑張らないと暮らしていけない人がいる。

努力すれば報われるという人がいるが、それは違うと思う。そもそもこの言葉がすごく嫌いだ。報われない人は頑張ってない、とでもいいたいのか。そもそも、報われた人は頑張れる環境が既にあったことを忘れてはならない。

僕は思う。
頑張らないで生活できないのはおかしくないか。なんでこんなに頑張らないといけない?。
なぜ、生きていくために頑張ること、努力すること、道を切り開くことが前提にあるんだ。
たぶんこの世界は間違ってる。
うまくいってるフリしてる。

「堕落論」は1947年の終戦直後に出版された書籍だ。約75年前の本。これは良くないと思う。日本人は何も変わってない。まだ読み終わってないんですけど、この本と出会えて本当によかった。

「頑張らないでも生きていける世界」を僕は作りたい。まずは自分から。自分が頑張らなくてよくなったら身の回りの人に。

少しずつ少しずつ、変えていきたい。




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