『多彩な光の今日に、』星の数、月の数

冬休みが明けて新学期になった。
彼女はその後、学校で一度も見かけなかった。
クラスの女子曰く、学校にはちょくちょく来ているらしい。
ただ、前のように教室の隅で話していることはなく、渡り廊下を眺めていても細い線の彼女を見かけることはなかった。

『おはよう〜』
と、同じクラスのパイセンがダルそうな平たい声で話しかけてきた。
『おはよー。』

『あの子とどうなった?』
『結局来なかったよ。』
『それってクリスマスイブだよね?』
『そう。』
『聞いた話なんやけどさー』
『ん?』
平たい声が少しだけ波打っていた。
『クリスマスの日、山口の弟とヤったらしいよ。』
山口の弟とは前に説明したが、彼女と同じクラスで修学旅行前に彼女に告白したやつだ。彼女はそいつのことを好きじゃないからと聞いていた。その告白には応えられないと聞いていた。そしてこの話はそのあと数人から聞いたので多分だが本当だとは思う。
これは流石に凹んだが、嫉妬もしていないし、発狂もしそうな気もない。
ただ彼女の笑顔だけがなぜか頭に浮かんでいた。全裸で僕を抱きしめる想像をしていた。彼女はきっとスケベだと思っている。

冬休みが明け初の、建築構造という授業があった。
専門科目ということもあり、授業自体にメリハリがある科目であった。
そしてその日は冬休みの思い出について自由に話していいという授業だった。
時間は30分ぐらいしかなかったので、代表して数人が教壇に立ち、話す算段だ。
カラスに襲われた話や、1日に20枚皿を割ったバイト先での話、正月早々食あたりで泡を吹いた話、そしてベビフェの後にキスをした話。どれもこれも楽しい話だった。話の後には教科担の先生が◎や△など簡易的に評価をつけ、なぜか成績に反映させていた。
そして僕は指名制で大トリであった。
クリスマスイブの時間が進んでいくうちにつれ、みんなが真剣に楽しそうに話を聞いてくれていた。
『ガハハハッ』とガープのように口を大らかに開けて教科担が笑っていた。
話し終えた僕はフレディマーキュリーが天に拳を向ける仕草の正体を少し知った。
拍手喝采の教室で教科担がメガネをとり、目元を拭っていた。
『すごくいいぞ。花丸だ。』
小中高で一番良い評価をもらった。

話すことによって成仏すると思っていた。整理して話すことによってきっぱりできるものだと思っていた。だけど、僕は話すたびに彼女を好きだという気持ちが表に出てきて、血管を伝い全身を駆け巡っていることがわかった。引き寄せの法則みたいに宇宙に放った僕の思いは宇宙規模の彼女を思い出させた。話しながら楽しくなって、少し悲しくなった。

建築構造の授業は毎回、その時間の授業のまとめなどを書いてノートを提出しなければならなかった。そしてこの日も例外ではなく、まとめ、感想を書いて提出した。

『星の数から君を見つけて、月の数の愛を送れる、そんな人になるんです。』
柱の名前や基礎の種類などが書いてある隣のページに大きく縦書きで書いて提出した。
この先死ぬまでのテーマを僕は決めた。

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