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有機化学者のための単結晶X線構造解析(7)「X線回折測定」

単結晶X線構造解析は実際の分子,結晶構造を観ることのできる強力な構造解析手法の1つです。
多くの研究分野に普及しており,生化学・構造生物学分野ではタンパク質の構造解析研究,有機・無機化学分野では合成した分子の構造決定や分子間相互作用の研究などに利用されています。

本連載では有機化学者のための単結晶X線構造解析と称して,X線回折測定の基礎から測定原理を解説していきます。

今回のテーマは「X線回折測定」です。

単結晶X線構造解析の流れ

単結晶X線構造解析は「X線回折測定」と「PCによる構造解析」の2つに分けられる。

X線回折測定の流れ

1.単結晶の作成
→測定に用いる良質な単結晶を作成する。

2.結晶のマウント
→ゴニオメーターヘッドに単結晶をマウント(設置)する。

3.予備測定
→簡易なX線回折測定を行い,反射の有無や測定条件を決める。

4.本測定
→X線回折測定を行い,回折反射を撮影する。

5.回折点の抽出
→撮影した反射データから回折点を抽出し,データ整理を行う。

結晶のマウント

作成した単決勝はゴニオメーターヘッドにマウントし,センタリングと呼ばれる位置調整を行う。

前述の通り,単結晶X線回折測定では,2軸以上を回転させながらX線を照射してその回折点の測定を行う。
その際に結晶の位置がぶれてしまうと回折点がうまく拾えなくなってしまう。

そのため,測定の前に測定に関与する軸回転に対して,結晶が動かないように位置を微調整しなくてはならない。

予備測定

有機分子の単結晶X線回折測定は,高性能のラボ機であっても数時間かかってしまう。
実際にその単結晶で測定ができるのか,どのような条件で測定を行うのが良いのかを判断するため,簡易な条件での予備測定を行う。

予備測定を行った後は,得られた回折点を確認する。
この結果によって本測定の条件の決定や,結晶交換の必要性を判断する。

予備測定で確認するポイント

回折点の形状確認

撮影した回折点の形状を確認する。きれいな単結晶の場合,回折点はきれいな円になる。
一方で双晶(ツイン)の場合は2つの円が重なった形状となり,多結晶の場合は点がつながった回折円が確認できる。
このよう場合はいくら条件を変えても良質なデータが得られないため,結晶を交換する必要がある。

回折点が広角(外側)に確認できるか

回折点が確認できても,必ずしも本測定で良好なデータが得られるとは限らない。
回折点の確認するポイントとして広角(外側)に確認できるかどうかが重要である。
広角の反射はBraggの条件における2θの大きい反射まで観測していることになる。
即ち,結晶面の層が分厚いことを意味する。

反射が単一の結晶に由来するかの確認

ごくまれに双晶などでも先ほどの(1)及び(2)を満たす場合がある。
そのため,確認できた反射が単一の結晶格子に由来するものであるかを確認する必要がある。
この作業は目視ではなく,回折測定のソフト上で行うのが一般的である。

本測定

予備測定で良好な反射を確認出来たら本測定を行う。
本測定では装置の特性や予備測定の結果に応じて軸の回転速度や露光時間(1枚当たりの結晶にX線を照射する時間),撮影枚数などを決める。
特に露光時間は長すぎても短すぎてもよくないので,予備測定の結果に応じては適切な時間にする必要がある。

露光時間が長い

利点:回折強度が強くなる。
欠点:測定時間が長くなり,結晶劣化のリスクが高まる。回折強度が強すぎると検出器が故障する可能性がある。

露光時間が短い

利点:結晶が劣化する前に測定を終えることができる。
欠点:回折強度が弱くなる可能性がある。

回折点の検出

本測定の終了後,回折点の検出を行う。近年のX線回折装置では自動検出をしてくれる。
回折点を検出後はPC解析を行い,結晶構造を解いていく。

【参考図書】
・X線結晶学入門[化学同人]
・アトキンス物理化学(下)[東京化学同人]

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