有機化学者のための単結晶X線構造解析(5)「単結晶の作成法」
単結晶X線構造解析は実際の分子,結晶構造を観ることのできる強力な構造解析手法の1つです。
多くの研究分野に普及しており,生化学・構造生物学分野ではタンパク質の構造解析研究,有機・無機化学分野では合成した分子の構造決定や分子間相互作用の研究などに利用されています。
本連載では有機化学者のための単結晶X線構造解析と称して,X線回折測定の基礎から測定原理を解説していきます。
今回のテーマは「単結晶の作成法」です。
単結晶X線構造解析の流れ
単結晶X線構造解析は「X線回折測定」と「PCによる構造解析」の2つに分けられる。
X線回折測定の流れ
1.単結晶の作成
→測定に用いる良質な単結晶を作成する。
2.結晶のマウント
→ゴニオメーターヘッドに単結晶をマウント(設置)する。
3.予備測定
→簡易なX線回折測定を行い,反射の有無や測定条件を決める。
4.本測定
→X線回折測定を行い,回折反射を撮影する。
5.回折点の抽出
→撮影した反射データから回折点を抽出し,データ整理を行う。
単結晶の作成
単結晶X線構造解析を行うためには良質な単結晶を作成する必要がある。
良質な単結晶とは,
①結晶の断面が割れていない
②できればブロック状~板状少なくとも針状結晶であること
③小さすぎず十分な大きさに育っている
④複数の単結晶がつながった状態でない
などを満たしている。
良質な単結晶を得るためには,適切な溶媒を選択し,でゆっくりと結晶化させることが重要である。
特に,溶媒は結晶中に取り込まれるため,溶媒の種類(主に極性,分子サイズが重要)が結晶化に大きく影響するため,適切な溶媒を選ぶことは非常に重要。
また,結晶化させる際は静置させておき,刺激を与えないようにする。
飽和溶液の調製
単結晶を作成する初段階として飽和溶液の調製があり,いくつか注意点がある。
① 結晶化させる温度で飽和溶液を調製する。飽和溶液を冷却してしまうと素早く結晶化してしまい,良質な単結晶が得られない。
② 飽和溶液の調製はメンブレンフィルターでろ過を行う。これにより,正確に飽和溶液を調製できるだけでなく,ほこりなどのごみを取り除くことができる(これが重要)。
溶媒拡散法
化合物を良溶媒に溶解させ,貧溶媒をゆっくりと混ぜ合わせることで,溶解度の差から結晶化させる方法。
溶媒の沸点,溶液を静置する温度により揮発速度をコントロールできる。
再結晶法
高沸点の良溶媒に化合物を溶解させて飽和溶液を調製し,少しずつ揮発させることで結晶化させる。
【参考図書】
・X線結晶学入門[化学同人]
・アトキンス物理化学(下)[東京化学同人]
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