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有機化学者のための単結晶X線構造解析(4)「X線の基礎 その2」

単結晶X線構造解析は実際の分子,結晶構造を観ることのできる強力な構造解析手法の1つです。
多くの研究分野に普及しており,生化学・構造生物学分野ではタンパク質の構造解析研究,有機・無機化学分野では合成した分子の構造決定や分子間相互作用の研究などに利用されています。

本連載では有機化学者のための単結晶X線構造解析と称して,X線回折測定の基礎から測定原理を解説していきます。

今回のテーマは「X線の基礎」です。

X線回折の基礎

Braggの条件

結晶面に照射したX線は,Braggの条件(下式)を満たすときに反射を引き起こす。

全てのX線回折測定においてBraggの条件は最も重要であり,基礎となる数式である。

結晶中におけるBraggの条件

単結晶は規則正しく分子が並んでおり,X線を照射させることで相互作用を引き起こす。この相互作用の波の位相が一致したとき干渉を起こし,検出器で回折パターンとして情報を得る。

Laueの条件

Max Theodor Felix von Laueによって提唱されたX線回折の理論でBraggの条件と等価である。
入射光の波数ベクトルをki,回折光の波数ベクトルをkoとすると,その差分である

ko−ki=Δkは散乱ベクトルを示す。回折が生じるとき,散乱ベクトルと単位格子の基本ベクトル(abc)及びミラー指数(h, k, l)を用いて次式が成り立つ。

原子散乱因子

X線は高いエネルギーを持ち,回折測定においては電子(正確には電子密度)を見ることができる。つまり,電子密度の高い原子(=周期表で下の原子,重原子)であるほど強い散乱が見られる。
平たく言えば,X線の散乱強度は電子数に依存する。これを数値化したものが散乱因子であり,原子ごとに固有の値を持つ。

結晶構造因子

格子中の分子が複数の原子で構成されている場合,各々の原子散乱因子の総和で結晶構造因子F(hkl)が得られる。この結晶構造因子は,結晶からの回折波の振幅と位相を与える。

回折強度

波において強度は振幅の2乗に比例する。つまり,検出器の位置における強度は結晶構造因子の2乗に比例する。

消滅則

Braggの条件によれば,反射する結晶面の位置により複数の回折パターンが観測される。しかし,ある周期おきにI(hkl)=0(反射強度が0)となる位置が規則的に生じ,これを消滅則と呼ぶ。
消滅則では格子点の位置を判別できる。格子定数により七晶系は判別できるため,消滅則と合わせることでBravais格子を判別できる。さらに,詳細な対称性を加味することで空間群を判別できる。実際の測定においては解析ソフトが消滅則に基づいて空間群を判定してくれる。

P:消滅則なし(全ての反射が出現)
C:h+k≠2n, k+l≠2n, l+h≠2n のいずれかを満たす。
I:h+k+l≠2n
F:h, k,l≠2n, h, k,l≠2n+1のいずれかを満たす。

【参考図書】
・X線結晶学入門[化学同人]
・アトキンス物理化学(下)[東京化学同人]

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