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有機化学者のための単結晶X線構造解析(1)「単結晶X線構造解析とは?」

単結晶X線構造解析は実際の分子,結晶構造を観ることのできる強力な構造解析手法の1つです。
多くの研究分野に普及しており,生化学・構造生物学分野ではタンパク質の構造解析研究,有機・無機化学分野では合成した分子の構造決定や分子間相互作用の研究などに利用されています。

本連載では有機化学者のための単結晶X線構造解析と称して,X線回折測定の基礎から測定原理を解説していきます。

今回のテーマは「単結晶X線構造解析とは?」です。

単結晶X線構造解析とは?

単結晶X線構造解析からわかること

X線は高いエネルギーを有する電磁波であり,電子(正確には電子密度)を見ることができる。単結晶X線構造解析では,X線の回折現象を利用して,結晶中の電子密度を観ることで,実際の分子構造を映し出すことができる。

単結晶X線構造解析のメリット

単結晶X線構造解析は実際の分子構造を観ることができることから,他の機器分析にはないメリットが存在する。
・ NMRなどで構造決定できない化合物の構造決定ができる。
・ 光学異性などの立体構造を観ることができる。
・ 固体状態での分子間相互作用(=パッキング)を確認することができる。
・ 有機金属化合物における配位状態がわかる。

単結晶X線構造解析のデメリット

一方,強力な単結晶X線構造解析にもデメリットが存在する。
・ 良質な単結晶が得られないと測定ができない。
・ 測定に時間がかかる(ラボ機レベルでも最短数時間はかかる)。

電磁波としてのX線

電磁波

電磁波は波長によって性質が異なる。X線は波長が10^−11~10^−8 mの電磁波のことを指す。

波長とエネルギー

電磁波のエネルギーは以下の式で与えられる。

ここでhはプランク定数,cは光の速さなので定数である。
従って,電磁波のエネルギーは波長の逆数に比例するため,短波長な光ほど高エネルギーを持つ。
X線の波長はγ線に次いで短いため,高いエネルギーを持つ電磁波である。

X線結晶学

X線結晶学の歴史

1895年 Wilhelm Conrad RöntgenによりX線を発見。
1901年 Wilhelm Conrad Röntgenがノーベル物理学賞受賞(第1回目)。
1912年 Max Theodor Felix von LaueがX線回折を発見。
1913年 Bragg親子(HenryとLawrence)がBraggの条件を発見。
1914年 Max Theodor Felix von Laueがノーベル物理学賞受賞。
1915年 Bragg親子がノーベル物理学賞受賞

現在の単結晶X線構造解析

有機小分子,有機金属錯体,MOF(金属有機構造体),タンパク質など様々な分子の構造解析が行われている。

【参考図書】
・X線結晶学入門[化学同人]
・アトキンス物理化学(下)[東京化学同人]

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