
脳浮腫ってどんな状態?~脳浮腫があるときのリハビリテーションを考える~
こんにちは。
本日も臨床BATONにお越しいただきありがとうございます。
第25日目を担当するのは、脳神経外科病院で急性期〜回復期までのリハビリテーションを担当しているシミーです。
前回は脳梗塞のBADについてお伝えしました。
前回の記事は下のリンクから閲覧可能ですのでよろしければお読みください。
今回は急性期で遭遇することのある『脳浮腫』について話したいと思います。
私自身、最初は臨床において脳浮腫というものを意識していませんでした💦
しかし、臨床を進めていく中で、『発症直後よりも徐々に意識レベルが低下していく』、『急性期の患者様の意識レベルが数日で急激に改善する』、『脳画像と症状が一致しない部分がある』というような経験をしました。
なぜこのような現象が起きたのか?そのときはわからなかったのです。
脳卒中後には一時的に脳機能が低下し、そこから回復してくることがあるということがわかりました。
もう少し詳しく原因を考えていくと、「ペナンブラ」や「機能乖離」、「血腫の進展と吸収」、「脳浮腫」が関与しているとわかりました。
今回はその中でも『脳浮腫』にフォーカスして
・急性期での脳の状態をどう読み解くのか?
・リハビリテーションをどう考えるのか?をお伝えしたいと思います。
●脳浮腫とは
引用
脳実質内に異常な水分貯留を生じ、脳容積が増大した状態である。脳腫脹も同義である。
”脳浮腫”『ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典』https://ja.wikipedia.org/wiki/脳浮腫
脳実質内に異常な水分貯留が生じることで、脳血流量の低下を助長し機能低下を起こします。
さらに頭蓋内圧の上昇により脳ヘルニアを引き起こすことがあります。
●脳浮腫の発生を知る
脳浮腫は脳腫瘍、脳血管障害(脳梗塞や脳出血)、頭部外傷、感染、水頭症など頭蓋内病変に起因します。
脳浮腫は発生の違いから大きく3つに分けることができます。

〇血管原性浮腫(vasogenic edema)
脳障害によりBBB(血液脳関門)が破綻し、血管透過性調節因子のバランスが崩れ血中タンパク質漏出を引き起こすため脳組織での水分貯留が起きます。
〇間質性脳浮腫(interstitial brain edema)
髄液の生産と吸収のバランスが崩れ、生産過剰になった髄液が間質に漏出して脳浮腫を引き起こします。
〇細胞障害性浮腫(cytotoxic edema)
神経やグリア細胞のエネルギー代謝が障害されて生じます。細胞膜を隔てたイオンバランスの乱れにより細胞内に水分が貯留するものです。
脳梗塞急性期では、脳浮腫の出現は半日~1日後にみられ、おおよそ5日~1週間後にピークをむかえ、2~3週間で次第に軽減、消失します。
ある程度以上の(大脳半球の広範囲にわたる)大きさの梗塞や出血性梗塞などがあると、脳浮腫の遷延がみられます。
どの程度の大きさだと脳浮腫の遷延が見られるのでしょうか?
文献などに明記はありませんが、私の臨床経験では大脳半球の大部分を占めるような脳梗塞や血腫の進展が上下左右に広がるような脳出血後の患者様は脳浮腫が1週間では治まりませんでした。
中大脳動脈領域の心原性脳梗塞のMRI画像をイメージした図になります。
赤で囲っている部分が梗塞巣であり脳浮腫の範囲となります。
一例として大脳半球の広範囲にわたる梗塞巣があれば脳浮腫の遷延がみられます。

●脳浮腫の程度を画像所見や症状で評価する
脳浮腫の程度が、どれくらいの範囲に影響を及ぼしているかということを画像所見で把握します。
血管原性脳浮腫では、MRI画像にて脳浮腫の部位と範囲が確認できます。
間質性脳浮腫ではCT画像で脳室周囲の低吸収域を、MRI画像では脳室周囲の高信号が出現しているかを確認します。
細胞障害性脳浮腫では、MRI画像上では早期にDWI(拡散協調画像)で高信号を示し、少し遅れてFLAIR画像で高信号、その後CT画像で低吸収域を示します。
また、脳浮腫により頭蓋内圧が上昇していると以下の症状が出現します。
・頭痛
・悪心、嘔吐
・視力障害(うっ血乳頭による)
・片麻痺などの局所症状
診察や治療は医師が行うことであるため、セラピストが直接関わる部分ではありませんが、リハビリテーションに適した状態か?どこまで離床するのか?を考える材料になるため画像所見や症状の把握は必要です。
しかし、上記の症状が確認されていなくても、脳浮腫の圧迫により神経機能を低下させる可能性が考えられます。
脳卒中を起こした部位以外の症状が出ている可能も考えられますので画像所見により部位や範囲を把握することは重要です。
●臨床で脳浮腫を考える
私たちセラピストが『脳浮腫』に出くわす場面は主に急性期です。
脳梗塞や脳出血を発症し、リハビリテーションが開始したときから脳浮腫は起きているからです。
脳浮腫の影響は原因となった頭蓋内病変の程度により大きく違ってきます。
例えば、
前大脳動脈や中大脳動脈などの主幹動脈が閉塞した場合や脳出血により血腫の進展が広い場合は脳浮腫の影響が強く、脳実質を圧迫し神経機能の低下を起こし、改善に要する時間も長くなります。
逆にラクナ梗塞など穿通枝領域の梗塞や血腫の進展が狭いような脳出血では脳浮腫の影響は弱く改善に要する時間も短いです。
細胞間質と細胞内の水分貯留により神経が圧迫されて機能しなくなるために、臨床場面では様々な症状が出現してきます。
頭蓋内圧が上昇すると脳血流量は低下し、脳の低酸素状態を引き起こし、さらに脳浮腫を助長してしまうという悪循環に陥ってしまいます。
さらに悪化した場合には、脳ヘルニアを引き起こして生命の危機に陥ることも考えられます。
そのような場合にはグリセロールを使用した高張液療法や手術により頭蓋骨を外して圧力を外に逃がす外減圧を行います。
<脳ヘルニアとは>
引用
脳ヘルニアは簡単にいうと、脳実質が元の位置から圧の低いところへはみ出す現象です。そして、脳がはみ出すための“隙間”こそが、脳ヘルニアの起こる場所です。
絵で見る脳と神経 しくみと障害のメカニズム 第2版 馬場元毅 医学書院 p77
脳ヘルニアの分類は以下の通りです。

参考文献
神経研究の進歩 50巻 2号(2006年4月)
脳虚血と虚血性脳浮腫の臨床画像 大鳥達雄、片山泰朗
p238 一部改変
●脳浮腫とリハビリテーション
リハビリテーションを進めていく上で気になるのは離床してもいいのか
脳浮腫がある状態でのリハビリテーションを考えていくためには、上記で解説している脳浮腫という現象は脳がどんな状態かを把握することが重要です。
脳浮腫がある状態とは脳が低酸素にある状態ですが、それが全体的なものなのか、局所的なものなのかは脳浮腫の程度により変わってきます。
脳浮腫により頭蓋内圧が上昇した状態であれば、積極的なリハビリテーションは好ましくないのです。
なぜかというと、脳浮腫が強く頭蓋内圧が上昇していると脳は低酸素状態である上に圧迫されているからです。
その状態で活動を続けると、さらに脳浮腫を助長してしまう可能性が高く、脳ヘルニアなどを引き起こすリスクを伴うからです。
脳浮腫がピークに達する発症後1週間までは、脳浮腫の影響が強くなるため、脳の大部分を占めた脳梗塞や血腫の進展が広い脳出血を発症された患者様では脳浮腫が遷延するため、リハビリテーションを進めていく上では症状の変化に注意しなければなりません。
また、頭蓋内圧を上昇し重篤な症状につながるような脳浮腫ばかりではありません。
意識レベルは正常に近い状態の脳卒中の患者様でも脳浮腫により損傷部位以外にも影響が出る可能性があるので、脳浮腫の程度を確認する必要があるのです。
<私が経験した患者様>
『脳浮腫により一時的な症状が出現していた』ことがありました。
その患者様は被殻出血で重度の感覚障害が認められる方でした。
視床のVPL核の障害や一次体性感覚野に直接的な障害がないにもかかわらず感覚障害が認められたのです。
画像所見でCTにて被殻の内側から下方にかけて血腫の進展があり、その先の部分に低吸収域が認められ、視床を圧迫していることがわかりました。
この感覚障害は脳浮腫の改善と血腫の吸収により徐々に回復しました。
リアルタイムでは脳浮腫と血腫の進展が原因であったとわからなかったのですが、徐々に改善したことと、画像を確認することにより予測をすることができました。
このように、圧迫による神経機能の低下も考えられるため、脳浮腫の影響を考慮することはリハビリテーションのアプローチやリスク管理において重要なのです。
また、脳浮腫により一時的に機能低下をきたしているのであれば、脳浮腫の改善により機能も改善しますので、予後予測をするうえでも把握しなければなりませんね。
脳浮腫の状態を知ることで頭蓋内状態を把握し、予後予測やリスク管理をした上でのリハビリテーションを行うことができるのです。
●まとめ
・脳浮腫は急性期の頭蓋内病変に認められる病態であり、重度になれば外科的な治療も必要なほど重篤な病態となる可能性があります。
・脳浮腫は血管原性脳浮腫、間質性脳浮腫、細胞障害性脳浮腫の3つにわけることができますが、臨床上は2つないし3つが混在しています。
・脳浮腫のことを考えると、急性期からリハビリテーションを行うために画像所見や意識レベル、呼吸状態などの評価を重視していくようになりました。
・脳浮腫を評価するためには画像所見がわかりやすく、CT画像では低吸収域を示し、MRIでは高信号を示します。
・外減圧が必要となる重篤化する状態ではリハビリテーションを行う状態ではないため、治療前から関わることは少ないかもしれませんが、患者様の状態を把握するために重要なことです。
・意識障害や呼吸困難などの症状が認められない状態でも、脳浮腫の影響により損傷してない部位まで機能低下を及ぼす可能性があるので、リハビリテーションを実施するうえでも重要です。
●終わりに
今までは脳浮腫があっても重要視できていませんでしたが、脳浮腫について理解することで頭蓋内の状態を把握できることがわかり、リハビリテーションを進めていく上で重要だということがわかりました。
さらに、脳浮腫から脳ヘルニアを起こすと重篤な状態となり、リハビリテーションどころではなくなるため、介入する際にはリスクが高いということも把握しなければなりません。
脳卒中の状態とそれにともなう脳浮腫の状態を把握することで急性期の状態でも予後予測を立てて介入することが可能となりました。
一時的に機能低下を引き起こしている部位があったとしても回復してくることが分かっていれば予後予測を行うことができ、患者様に適切な状態の説明やアプローチをすることができると感じました。
皆さんも、明日からの臨床で病巣の評価のみではなく、その周囲の脳浮腫の状態も併せて評価し、リスク管理や予後予測、アプローチへと繋げてみてください。
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