青春は何度でもやり直せるなんて嘘、なの?
(以下の文中、敬称略で失礼します)
2023年6月15日、翌週の新譜リリースへ向けた告知も兼ねて、ワニブックスのWebメディアに掲載された、ukka茜空のインタビューの一節。
「私たちのテーマは“青春”なんですけど、学生で止まっている青春じゃない、というのがポイントだと思っています。私は中学生から活動を始めているんですけど、そのときと今とでは、同じ曲を歌っても等身大の私の雰囲気はだいぶ違うし、そうなっていく過程も含めて青春なんですよ。だから、ずっと見ていても楽しくて飽きない青春感じゃないかなって」
(ukka『wonder little love』発売記念インタビュー)
常日頃、さまざまな表現で、意図的に余白・空白をつくろうとしている《ように感じる》彼女の口から、淀みなく言葉が口をついて出てきた、ukkaなりの”青春”。
「青春ってなんだっけ?」
chatGPIに聞いてみたら、その返事の一文めにはこう書かれていた。
青春って感情なの?
いつ明けるんだかわからないうっとおしい梅雨のさなか、どこに行き着くかなんててんで見当もつかない文章を書いてみようかなと思ったきっかけは、そんなところにある。
そう、その辺からはじめてみる感じ。
物語はまだ序盤だから
2023年6月10日、渋谷CYCLONE、tipToe.柚月りんの生誕ライブ。
柚月りんがtipToe.に入りたい、あるいはアイドルになろうと思ったきっかけとなったという、ゆっきゅんが対バン相手として出演した。
ゆっきゅん? 不勉強ゆえ…名前を耳にしても、ほんのかろうじて、”どこかで何かの曲を聞いたことがあるなあ”という認知度だった、というのが正直なところ。
目の前にあらわれた、その歌い手さんを見た第一印象は「二丁魁カミングアウトのぺいにゃむにゃむを彷彿とさせる人だなあ」だった。
声の絞り出し方、マイクの持ち方、スタンドマイクを舞台袖に取りに行く時の歩き方。
人生半世紀近くになってくると、はじめて見た何か、を、これまで見てきたものにまずカテゴライズしなきゃ気が済まないのは、頭の硬さから来ているのだろうか。
40代50代、これは悪化こそすれ、もう死ぬまで治らない悪い癖なのかもしれない。
「若いっていいよなあ」まわりに誰もいないのを確認して、ふとつぶやいてみる。
このライブのMCで、何げなくゆっきゅんが言った言葉が、この文章を書こうとする「承」になった。
(※以下のMC書き起こし、記憶違いなどあるかもしれませんが、何卒ご容赦ください)
「tipToe.さんの曲ね、わたしも聴かせてもらうんだけど、青春のキラキラだけでなく、鬱屈した思いもあって、あー十代特有の空気だなあ、青春だなあって思うんです。
けど、わたしはそれとは全然ちがうこと歌ってて。なんだろう、その年代のころに対する窮屈な思いとか、コンプレックスがないからなのかな。ま、でも良かったら私の曲も今日は聞いて行ってくださいね」
青春に対するコンプレックス、が、青春に対する憧憬を呼び起こす、かあ。
のちに思い出した、「どこかで聞いた、ゆっきゅんの歌う何かの曲」のこと。
前月、たまたまラジオ番組で聞いた、遠い遠い宇宙の歌だった。
AIと同じく、隕石にも青春はないのだろうか?
ゆっきゅんのステージが終わり、tipToe.のステージが始まった。
2曲終わって、いつものように未波あいりが、
「こんにちは、tipToe.です。私たちは、一緒に青春しませんか、をコンセプトに活動するアイドルグループです。グループでいられるのは3年間というルールの中で、日々活動しています」
と笑顔で自己紹介の口火を切った。
その日のアンコールは、曲途中から飛び入りで参加したゆっきゅんと7人での『夢日和』だった。
青春延長線ていうか、永遠にOK
2022年3月12日。
18歳最後の日、茜空がステージで歌う最後の曲に選んだのは、tipToe.の『夢日和』カバーだった。
この一年前に「大学生」「アイドル」の二兎を追い続けるという覚悟を定めて、大学1年生としての生活と、この間に6人から4人になってしまったukkaの活動と、その両方にとにかく必死に食らいついてきた期間を過ごした茜空が、「最後の曲は、とにかくみんなが楽しく幸せになりますように」というメッセージを含んで届けられた曲だった。
その構成に、アンコールは要らなかった。
いまの大学生が、どんな価値観でどんなキャンパスライフを送っているのかなんて、まるでわからない。
ただ、1年生・2年生でそれなりに必修科目の単位を多く取らないといけないのは変わらないようだ。
履修した単位はフル取得したと、配信などでニコニコと報告する茜空が、高校生までとはまるで違う生活を送っているんだろうことは、なんとなくわかる。
大学2年生になり、ukkaがメジャーデビューを果たしたとともに、メンバーの外部メディアへの露出はずいぶんと増えた。
特に CD発売ともなると、webメディア・ラジオ出演など、ちょっと気を抜くと追いつけない供給がある。
そういうとき、これまでの話を聞かれる機会が多いからだろうか、「今」を一番大事にする茜空が、過去のエピソードを口にすることが少し増えた気がする。ときに懐かしく、ときに苦く。
冒頭に掲載したインタビューも、そんな記事のうちのひとつ、メンバー唯一の同学年、村星りじゅと一緒に答えたものだった。
2人が高校を卒業して、2年とちょっとが経過した。
ヤマモトショウが歌詞を手がけたukka(桜エビ〜ず)の曲に『帰れない!』という曲がある。
卒業式目前の高校生が、まだ少しの間だけはJKでいたいよ、そんな気分をうたった曲だ。
この曲の音源が公開されたのは、2019年1月末、かれこれ4年も前だ。
高校1年生の終わり、ゼロ秒イントロと同時に、おもむろに客席に向き直って、得意げにステージ下手から上手を歌いながらズカズカと歩いていく姿は、当時のステージ映像をいま見てみると、勢いまかせなようにも、無鉄砲なようにも見える。
でも、確かに「青春」と言われたら、真っ先にこういうイメージが脳裏をよぎる、勢いだけは誰にも負けていないぞ、そんな気概が伝わってくる。
2023年3月、ukkaの主催ライブでも声出しが解禁された。
メンバーが相談しながら考えたという、春ツアーのセットリストには、固定ブロックの中にこの曲が入っていた。
曲後半「♩青春」と客席とともにシンガロングするパートでは、川瀬あやめが率先して「いきますよ〜」と、やや大げさにもうつるテンションで煽る。
クローズドなライブハウスで、ゴキゲンなリズムに乗って、コール&レスポンスで応える「青春」は、あえて曲の世界観にぎゅっと押し詰められた青春というような気がした。
少なくとも筆者は、JKであったことはない。
だけれども、フロアからステージへ向かって「青春」と叫んでいる時は、そう、記号やステレオタイプな「甘酸っぱい思い出」から解放されているのだ。
2023年5月の終わり、最後の日曜日。
買い物客が行き交う、市川のショッピングモールの片隅で、茜空は、いまの目標を教えてくれた。
「すでに発表されている、秋からの3つのワンマンライブ、特に(来年)1月のリキッドルームをソールドアウトさせたい」
リキッドルームでライブが行われるころ、茜空の大学生活は、3年生の終盤に差し掛かっている。
そうやっていつか自分自身を許してみたい
話も時間も行ったりきたりする。
許してほしい。半世紀近く生きてくると、1ヶ月前と半年前との時間差は、それほど大きくないように感じてしまうもんで。
2023年5月29日、リキッドルームで、tipToe.のワンマンライブが行われた。
2期としてのワンマンライブは、3回目。
この3rdライブタイトルは、「My Long Prologue」と銘打たれた。
すごいライブだった。
この日のリキッドルームにいた、すべての人で作り上げた「到達点」のように感じた。
演者の熱量、フロアの熱量、適度な治安の悪さ、すべての”そこにいる人”が「当事者」だったライブは、1年ちょっとの期間、tipToe.を見てきた中では初めてだったかもしれない。
ひりつくようなステージも、一瞬一瞬を手から砂がこぼれ落ちそうな感覚も、楽しくて理性が飛んでしまいそうな瞬間も、2期のtipToe.が到達したパフォーマンスだった。
ライブ中盤で、新曲『レゾンデートル』が初披露された。
半ば暴力的とも言えるギターロックのハイテンポなメロディに、”存在証明”というだけあって、自分自身の深淵を覗き込もうとするような、内省的な歌詞が続く。
なかなか自分を肯定しきれないことに逡巡しながら、悶々とした気持ち。
それを振り払うかのように、「諦めたくない」というフレーズが差し込まれる。
このライブを、祈るような気持ちと、楽しみでしょうがないという気持ちとを合わせて待ち望んでいた、であろう宮園ゆうかは、ワンマンライブ数日前から、チームが、そして個人が、一歩踏み出した先の「到達点」が楽しみだという趣旨のことを繰り返しつぶやいていた。
終演後、tipToe.プロデューサー本間翔太から、このワンマンライブをもって、tipToe.2期が3年生を「迎えた」ことが、ツイッターでこっそり示される。
「現体制はあと1年」
このライブが終わり、その事実が、あらためて突きつけられる。
意地の悪い大人は、どうしても考えてしまう。
「2期は、あと1年で”どこまで”行けるのだろう?」
ワンマンのMCで、メンバーが様々な今後の具体的な目標を掲げる中、宮園ゆうかは、チームの自身のパフォーマンスについてと、ライブ中MC中に「泣かなかった」ことを話した。
そして、久しぶりに更新したブログを締めくくるのに、
「私は諦めません。」
という言葉を綴った。
そこにみなぎる覚悟と熱意は、つまらない大人が、日常で繰り返しているような「目標逆算型」の考え方とは真逆だった。
あと1年だから、どこまで行けるんだろう?
ではなくて、
あと1年あるから、どこまででも行けるんだろ!
継ぎ接ぎだらけの毎日でも 私らしく歩いていこう 不器用な生き方でもいい 今の私が好きだ
2023年6月21日。
新譜シングルの発売とともに、音源未公開だった『Glow-up-Days』がサブスクでも公開された。
茜空は、今回のシングルに収められた3曲の中で、この曲が一番好きだという。
いま、茜空は、ブログとTikTokの毎日更新を続けている。
そして、新しいファン・古いファン関係なく、ときに、投げかけられるコメントに返信をしている。
かつてから、ファンのちょっとした一言や、ライブ中の挙動に至るまで、びっくりするくらいに記憶しているという茜空。
メジャーデビューとともに、多くの新しく興味を持ってくれる人が訪れても、そのスタンスは変わらない。
配信やブログなどで、ほんの時折、ファンに明かしてくれる大学生活は、総じて言うなら「次々にかわる人間関係」「自分の意思で、自由と責任をもって」「楽しそうに生活している」ように見える。
「大学のお友達も、リリイベとかライブに来てくれたりしてさ」
そう屈託もなく語る茜空。
気づけば、事務所に入ってからは、もう8年を過ぎている。
自己肯定感。
8年になろうとするキャリアの中では、中学生の頃も、高校生の頃も、いや大学生になっても、ときに意地の悪い一言を投げつけられた時もあったという。
でも、そんな彼女が出会った「今の私が好きだ」という歌詞。
毎日、何十何百と投げ込まれる、ファンからのメッセージ。
そして、ソロパートで聞き手に身を委ねる茜空。
マイクロフォンの中から、ガンバレって言っている
5,000字を超えたところで、いよいよたどり着く先が見えなくなってきた。
唐突だけれど、100%な私事について書く。
2022年秋、タワーレコード秋葉原店の一角に、ukka『青春小節』の販促コーナーが設けられていた。
さまざまな形に切り揃えられたメッセージカードは、色のバリエーションも何種類か用意されており、その横にボールペンが置かれていた。目の前には、大きめのコメントボード。
「皆さんの青春の曲はなんですか?」という問いかけに、何気なくその場で自分が思いついたのは、THE BLUE HERATSの『人にやさしく』だった。
30年以上も前になるのか。
さしたる理由はないのに、なんだか眠れなかった26時。
外に出て空を見上げるなんて考えつきもしない自分は、お年玉だったか昼食代と言って親からせしめたお金だったかで買った高感度ラジオを脇にして、横になって目をつぶっていた。
妙にテンションの高いAMラジオのDJが、毎週のように繰り返し流していたのがこの曲だった。
青春の体現者は、青春の供給者たりうる。
ステージに立ちつづける覚悟があるからこそ、その役割を負うことができるんだと思う。
時代は移りかわっても、ブラウン管のTVやAMラジオから、LSDのスマホやradikoアプリに変わっても、そのことはきっと変わらない。
青春は一回きりだという。
それは確かにやり直しがきかないのかもしれない。
だけれども、マイクを通した声の残響は、いつだって記憶の中にとどまっている。
そして、脳を揺さぶられるたびに、その振幅はまた大きさを増してゆく。
応援している声の人たちには、どこかにたどり着いてほしい。
だってその資格が十分にあるのだから。
やっぱりこの文章はどこにもたどり着かなかったな。
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