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「もっと特別な、白い石」(2023/7/20 - ukka葵るり19歳の誕生日によせて)

(※以下の文中、敬称略で失礼します)

”オーディション候補生”の「ルリ」「リナ」だったふたりが、”ukkaの新メンバー”「葵るり」「結城りな」として、はじめて舞浜アンフィシアターのステージに立ってから、600日余りが経った。

その日から遡ること、約2週間前。
4人体制最後のステージ<秋田分校文化祭>で、新メンバーについて問われた、川瀬あやめは、
「もう、ほんっとマイペースでねぇ…鍛え上げますよ、スパルタで」
と、困っているのをいかにも楽しんでいるように答えた。

さらに、その約3ヶ月前。
オーディションの最終日、候補者6人ひとりひとりに対して、自分たちの思いを言葉にした4人のメンバー。
アイドルとして必要な歌もダンスも、それまで集中的にレッスンを受けたことがなかったであろう「ルリ」に対して、短期間での研鑽と努力を、口々に褒め称えていた。
それを聞いているうち、涙をこらえきれず、ティッシュで目元を何度もぬぐう「ルリ」。
それを見た、川瀬あやめと村星りじゅが、その場を和ませようとしてか、笑顔でゆっくりと掛け合いを続ける。

川瀬「たぶん、ルリちゃんは、私たちより先輩…なのかな、と思うんですけれども。」
村星「はい」
川瀬「それをずっとタメ口で話してしまって…」
村星「すみません、ホントすみません」
川瀬「ルリちゃんは先輩です。この場を借りて、ホントすんません」
村星「小学生の頃から、ね」

2023年8月27日 ukka新メンバーオーディション(最終日)

遠慮がちに、伏し目がちに、そんなことないですという表情を浮かべながら笑いながらすすり泣く「ルリ」。
zoom画面の向こうで、芹澤もあと茜空は、大口を開けて笑いながら、川瀬村星の「すみません」にあわせて、ペコペコお辞儀を繰り返していた。

思えば、このときから、今のukkaのMCの茶番は、始まっていたのかもしれない。

ukkaは、2015年はじめに行われた、スターダストとDeNAが共同主催した「桜えび~ず」メンバー募集オーディションに端を発している。
現メンバーの中で、このオーディションと別のオーディションを通じ、桜エビ~ずのメンバーになったのは、川瀬あやめと村星りじゅのふたりだった。
ふたりが芸能界の門をたたいたとき、その少女は、既にその前年からスカウトされて事務所に所属し、芸能活動を開始していたことになる。

■マイペース

舞浜アンフィシアターでの新体制お披露目ライブが、ukkaの大きなイベントとしては、2021年の締めくくりとなった。
このライブで、6人揃ってパフォーマンスした曲は、おおよそ半分だった。
そして、例年のように、12月に単独ライブが行われることはなかった。
(※スカパーの番組で、生配信ライブを行ったのみだった)

のちに葵るり自身がインタビューで明かしたところによると、オーディションの結果発表後2ヶ月で、舞浜のセットリスト全曲を覚えきれなかったのは、自分だけだったという。
それでも、”先輩”は、そんな泣き言を一切ファンの前では見せなかった。
あるいは、どれだけ頑張っているか、努力しているかといった話もほとんどしなかった。
それが、長年やってきた彼女の流儀だった。

2022年があけた。
長いコロナ禍のトンネルをくぐって、2年経ってもまだ、ukkaの確たる形は定まっていなかった。

2月から、新体制初のシングル『MORE!×3!』のリリースイベントが始まった。(本人が楽しみにしていたという)はじめての対面での特典会、思っていた以上にチャキチャキしゃべる、りなるりのふたり。
そして、葵るりは、翌3月からインスタストーリーで「#今日のるりグミ」と称して毎日ちがうグミを上げ続ける、そんな試みを始めた。

個人配信や、ラジオでの喋りをきくたび、”なんだか雰囲気が違うぞ”、もちろん悪印象などいっさい抱いているわけじゃないけれど、なんだろう? もしかして、この子は”ちょっとへん”なのでは?

4月、ukka東名阪の春ツアーがスタートした。
長尺を、ほぼ全編6人でやりきるライブのハイライトは、葵るり・結城りなの2人だけでパフォーマンスする『WINGS』だった。
2021年に(桜井美里卒業後)5人体制をスタートさせるときに、ツアーの”冠”曲として提供された曲は、その後の経緯を含めて、ごく個人的には悲しい運命を背負った曲になっていた。
正直、毎週の冠ラジオのオープニング曲として『WINGS』がながれるたび、複雑な思いを拭いきれなかった。
この曲がつむいできた物語を、これ以上は引っ張ってほしくはなかった。

4月2日。東京・ヒューリックホールで披露された、ふたりの『WINGS』は、そんな思いを全部ぶち壊してくれるものだった。
その日の葵るりのボーカルは、ピッチ・リズムといった技術的な観点から言うと、お世辞にもうまいとはいえないものだった。
でも、凛と前を向き、絞りきれる声量すべてをホールにぶつけるボーカルは、器用さをすべてかなぐり捨てた、もしかすると彼女の(一見)不器用な生き方を示唆するものだった。

■逆に、ね

あのとき、葵るりの咆哮は、たしかに6人体制スタートのファンファーレに聞こえた気がした。
そして、翌5月に、念願のメジャーデビューが発表された。
だが、あとから明かされた事実として、その月に、葵るりは一度アイドルを辞めたいと思ったという。
高校3年生になり、18歳の誕生日を間近にしたころだった。

アイドルという存在だからこそできること、そして、アイドルとして研鑽を続けることで犠牲にしなくちゃいけないこと。

オーディションのときに、乃木坂46の生田絵梨花が好きだから『フィンランド民謡』を突如披露した葵るり。

乃木坂46の現役メンバーの中では、掛橋沙耶香が好きだと、生誕記念ポスターや、神宮球場で名前入りタオルを掲げた写真をインスタで投稿する葵るり。

2022.11.20 葵るりインスタグラム

彼女がオーディション合格を通知されたのと時を同じくして、掛橋沙耶香は、はじめて『君に叱られた』という曲で、乃木坂46の選抜メンバー入りを果たした。
彼女がメジャーデビューの衣装が発表されて、横浜アリーナに立った翌日から、掛橋沙耶香は、少しの間の休養に入ることになった。
そして彼女が「ALL OUT SECOND」で、全曲を6人でやりきって大粒の涙を流した日、久しぶりに掛橋沙耶香がブログで消息を明らかにした。

あこがれの人、推しの人と同じ職業についたこと、それを続けていることって果たしてどういう気分なんだろう?
でも、たぶん葵るりに「なぜアイドルをやっているの?」と問うことは愚問なのかもしれない。

小学4年生から芸能界にいて、その厳しさや競争の激しさを知っている彼女が「その道を選んで」、そして「選んだ道が正解になるようにこれから頑張るね」ということ。

■運命

葵るりが、昨夏、亀戸で行われたリリースイベントで「オススメ」としてあげた香取神社は、スポーツの神様として、ときおりメディアにも登場する。

境内の白い石を、お守り袋に入れると”白星”につながるとして、スポーツだけではなく、病気にも「勝つ」、自分に「克つ」というご利益があるそうだ。

亀戸香取神社の「勝運守」

いつからだったか、葵るりは、自分のメンバーカラーを「白」と指定して、曲中の見せ場で、ペンライトを灯してほしいと言うようになった。

はじめのころは、ライブ中にも数えられるくらい、ポツポツと点灯していた白色のペンライトは、いつしか『Killer Lips』の落ちサビで、会場中がその色でうけつくされるのが名物の景色になるほど、広がってきた。

約10年という月日を経て、葵るりは今ここに立っている。

そして、これから。




ただそこに落ちている白い石じゃなくて、もっと特別な白い石を探しに行こう。


19歳の誕生日、おめでとうございます。
素敵なラストティーンの一年を。

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