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「てぶくろ」と「こまどりのクリスマス」

我が家の本棚には、母から引き継ぎ、私が買い足してきた絵本がたくさんある。シーズンごとに10冊ほど選書して寝室に運び込み、その中から息子が選んだ本を就寝前に2、3冊よみきかせるのを続けている。
この冬選んだ本の中で、3歳の息子が特に気に入った絵本が、写真のエウゲーニー・M・ラチョフ絵/うちだりさこ訳『てぶくろ』と、丸木俊画/渡辺茂男訳『こまどりのクリスマス』(いずれも福音館書店)だった。

『てぶくろ』は冬といえば…の名作で、ウクライナの民話。おじいさんが森の中に落とした片手袋にネズミが住み着き、カエル、ウサギが次々と自分もその手袋に住みたいとやってくる。さらに、キツネ、オオカミ、イノシシ、クマも手袋の中に入りたいと訴える。手袋はギュウギュウ。それでも、先住の動物たちは「仕方ないですね」と言いながら、後から来た動物たちを入れてあげるというお話。
ネズミやカエルなどの被食者が、キツネやオオカミなどの捕食者を同じ手袋に受け入れるところも無二のお話だと思う。

一方、『コマドリのクリスマス』は、スコットランドの民話。お城の王様にクリスマスの唄を歌うよう呼ばれたコマドリ(被食者)が、お城を目指して飛ぶうちにネコやワシやキツネ(捕食者)から、甘い言葉で「こっちへおいでよ」と誘われるが「その手には乗りませんよ」と断って、見事お城にたどり着くお話。

教訓めいたものはまるで違う2冊。
この本を選んでいた時、まさかウクライナがこんなことになるとは想像もしなかった。子どもの頃から本棚にあった『てぶくろ』がウクラナイナの民話というのも気がつかなかった。
ウクライナ国民には、ウクライナ人の他、ロシア人、ルーマニア人、ベラルーシ人、クリミア・タタール人、ガガウズ人、ユダヤ人などの民族がいるという。この絵本はそんな背景から生まれたのだろうか。
捕食者であろうと、相手の理性や良心を信じて住まいに招き入れる被食者の寛大な心に胸を打たれる。
でも、久々にこの本を読んだ時、実は少々戸惑った。多くの絵本は、「オオカミには気をつけろ」と教える。『七匹のこやぎ』も『三匹のこぶた』もそう。だから私は、ねずみとかえるとうさぎが、オオカミを入れてあげる時に「食べられちゃう!」と思った。

やはり、息子にはコマドリのように捕食者に騙されない知恵を身につけることが必要なのでは。2冊を読み聞かせながら、悩んでしまった。

オットに、教訓のための一冊を選ぶとしたら、どっちを選ぶ?と聞いたら、「俺はこれまで『コマドリ』のスタンスで生きてきたから、コマドリかな」といっていた。『てぶくろ』を選びたいと思ってしまうのは、理想主義者かもしれない。
ロシアに侵攻を受ける、ウクライナの人々に思いをはせる。プーチン大統領は、隣国の『てぶくろ』を知っているだろうか。
ネズミやカエルたちは、ぎゅうぎゅうの手袋の中でも、「入りたい」と言ったクマを受け入れた。クマも「手袋をよこせ」と先住の動物たちを追い出したりはしなかった。

今も絵本選びは息子に任せている。正直、『てぶくろ』が選ばれると、ホッとしてしまう私がいる。
いつか後悔する日がくるだろうか。

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