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霞堤の浸水被害、公的補償を

 長浜市北部で昨夏に発生した豪雨水害を巡り、田畑が浸水被害にあった高月町馬上の農家横田圭弘さんは(2023年)3月13日、市の産業建設常任委員会に出席し、「霞堤内農地の公益性の認定と農家の収入減少補填を求める意見書」を関係機関に提出するよう求めました。意見書は委員会で部分採決され、22日の本会議で全会一致で可決されました。

 横田さんが被害に遭った農地は、県が「霞提」として認めるエリア。河川の増水時に治水機能を発揮するとされています。浸水被害にあった農作物は経営面積半分の約11㌶、浸水作物は大豆が2㌶。そのうち、完全に収穫不可能となったのが0.67㌶。被害総額は約220万円に上りました。

 今回の意見書を提出した経緯について横田さんは、あるテレビ番組で県の担当者が、農地の被害補償について、「公のお金を使っての補償となると、霞堤の公益性の整理が必要で今のところ、農家自らの経営判断としての保険での対応しかない」と返答したのを見たことがきっかけだったと言います。
 県によると、県内の霞堤は21ヶ所。その役割について、河川本流の水位低減効果、堤防破壊防止効果、貯留効果、氾濫流の内水排除効果、生物多様性保全効果としています。

 これらの効果を認めているにも関わらず、「霞堤の公益性の整理が必要」と解答されたことに疑問を感じた横田さんは「将来、次世代が被害を受けて今回の様に苦悩しないために、今のうちはっきりさせたい思いが強くなった」と話します。

 横田さんが提出した意見書の内容は次の4点です。①霞堤の治水に果たす役割の整理と公益性の認定と、関係する地域住民や農家にその説明を求める②霞堤の治水上の果たす役割、公益性が認定されれば、農地所有者の公租公課の減免措置や農家収入減少の補償を求める③霞堤内の災害発生時の見回りと、発生後の早期復旧体制の強化を求める④国の流域治水関連法に基づく「特定都市河川」への認定申請を求める。委員会で議論された結果、①と③については採択され、②と④については不採択となりました。
 ②については、出席議員から「個人の補償の問題については言及できない」という意見があり、不採択が決まりました。

 意見書の中で、補償の問題を最重要と考えていた横田さんは「補償は私の個人の問題ではなく、県内21ヶ所もある霞提に関わる農地全てにおいて共通する問題」とし、「このままでは被害を受けた農家は『補償もされないリスクのある農地は請け負えない』という考え方になってしまう。農家が耕作を放棄すれば、困るのは農地所有者だ」と話しました。

 私の集落でも、既に多くの農地が担い手農家に集約されています。担い手農家が耕作を続けてくれるように地域全体で支えることが、その地域の食や景観を守ることに繋がることを暮らしの中で実感しています。
 県の政策で治水機能を果たした農地の被害が「個人」の問題とされることを心苦しく思いました。

 また④については、開発の規制など認定の条件について慎重に検討する必要があるとして見送られましたが、「今後、勉強を重ねて検討していく必要がある」と報告されました。
 横田さんは、「今回、勇気も持って請願して良かった。私と同じ苦悩を他の方々にしてもらいたくないし、将来子ども達が農業を志した時、安心して持続可能な農業に取り組める様にするのが、被害を受けた私の役割ではないかと思っている。ここからです」と話しています。


2023年4月3日 朝日新聞滋賀県版『丘峰喫茶店へようこそ』掲載

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