私の大好きな漫画家さん
「――うそだ」
その日。私は絶望した。
「まってまってまって」
たった二文字の言葉が、理解できなくて。
受け止められなかった。
「引退って何――」
信じられるだろうか。小さな時から大好きな漫画家さんの最新刊であり最終巻を購入して、読んで。
いつものように語彙力が消失しながら「すきだぁ」と胸いっぱいにあふれてくるものを堪えて。次はどんな物語書くのかなって、あとがきを読んだら突然の引退宣言。
病気? 怪我?
いろんな憶測が飛び交って、でも自分に出来ることなんてなにもなくて。
ただ、もう二度と大好きな漫画家さんの物語を私は読むことができないのだと知って、悲しむことしかできなかった。
「いつまで落ち込んでるんだ?」
「あなたの身長が20センチ縮むまで」
「じいさんになってもそこまで縮まねえよ」
月日がたてば、それなりに気持ちも落ち着いてきた。
幼馴染に軽口も叩ける程度には。
「べつに病気になったわけでも怪我したとかでもないんだろ」
「そーだけど……ずっと好きだったんだもん」
その人の漫画のキャラはとても明るくて、底抜けの元気で、でも悩んでないわけじゃなくて。
悩みがあってもつらいことがあっても、自分が選んだ道に楽しいと思う道に進んでいいんだって教えてくれる。
みんなが優しくて、あったかくて。元気をくれる。一歩を踏み出す勇気もくれる。悪い子もそれで終わらなくて、きつい言い回しのなかでその子の良さも垣間見える会話の運びもとても素敵なんだ。
「……そういえば、その人。今度イラスト集だすって聞いたけど」
「え?!」
その場で慌てて検索した。
イラスト集は思いのほか高かった。
発売日には財布の中身に足りない分は貯金箱から引っ張り出した。
学校が終わって向かった本屋ではことごとく売り切れ。在庫なし。
次の日もその次も。近くから遠くまで。
「神は私を見放した……」
「大袈裟な……予約しなかったのか?」
「予約も注文もしない。汚れてたときどうしようもなくなることを肌身で知ったから」
「あー……わかる」
隣をゆっくり歩く。
もうずっと隣にいる幼馴染の彼は、いつからか私の背を追い抜いている。目を合わせるには首が痛いくらい。
彼も、彼女ができたらやっぱりもう隣を歩くことはなくなるのかもしれない。
何もしなければお別れなんて、あっという間だ。
「そこの本屋、行くけどお前は?」
「いく」
本屋に入ったら別行動。たくさんの本棚に並ぶ漫画をひとつずつみていく。
画集のところにも置いてない。
やっぱりここにもないか。
最後の一列の先に幼馴染が見える。もう帰ろうか。
一瞬横目に映った大きな本。
「……あったー!」
「うるさい」
「あった、あったよ」
泣きそうになった。声が震える。
私は一冊だけあったそれを大事に両手で抱えた。
目の前の幼馴染はとても呆れた声で優しい顔。
「よかったな?」
「うん!」
私はようやく買えたイラスト集で、大好きな漫画家さんが元気であることを知った。
そしてずっとできなかったことを、今楽しんでいることもわかった。
なんだかとってもその人らしくて、笑顔になった。
最後のページにその漫画家さんからのメッセージ。
私――読者――にむけられたメッセージは、とても胸に響いて涙が出た。
先生が元気で良かった。好きなこと、やりたいこと、たくさんしてください。
いままで私を救ってくれた、あなたの作品が今でも大好きです。
でもやっぱり、読めなくなるは寂しいよーー!
* * * * *
あとがき
普通に書けば良かったんですけど、なんとなく物語風。
ほんとはnoteに書くつもりもなかったんですが、ふたりの会話が思い浮かんだので。このふたりはいつか小説書こうと思っている。恋ばな。
気にして落ち込んでたから、興味はなかったけど調べてみた幼馴染男子。
中身はなんにも伝えられなかったんですけど、ようやく槙ようこ先生のイラスト集が手に入って私が泣きそうです。本当に大好きだったんです。今も好きです。
みんな繊細でちょっとおバカで元気で可愛くて。私の語彙力死んでるけど、ほんとに魅力に溢れたキャラばかりで。心がちょっとだけ救われるような気がする、そんな漫画ばかりです。
元気そうでほんとうにほっとしたけど、やっぱりさみしいです。
私の気持ちが溢れてしまった。
こんどはちゃんと小説書きます。
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