長い夜を迎えないために

がん患者さんは夜が怖い
これは病名を告知された方も、術後の方も、再発を恐れる方も、余命宣告された方も、みんなそうだと思います。消えない不安、抱えきれない不安を抱き、夜になると孤独が増して、怖さを感じやすくなります。
総合病院では手術目的なら外科、化学療法目的なら内科、と科目に分かれて適切な病棟に入院しますが、主治医が必要性を感じた時は他科紹介が出来るので、がんの治療に来ている方に精神科医師が介入する姿も多く見られます。それほど、治療というのは心身ともに過酷なのです。

がんを完全に受け入れている人はいない
私は病棟で働いているため、病気になった人の関わりが仕事なので「患者さん」に寄り添いたいという気持ちが強くあります。逆を言えば、病める人を助けたいという思いに視野が向きやすいんです。しかし「患者さん」になってからでは、取り除けない不安があるんですよね。とある若年性の乳がんサバイバーの方のお話で、とても心に響いた言葉があります。
「こうしてお話する機会を頂いていると、がんを乗り越えた、すごいねと言われます。でも、がんを乗り越えるなんてあり得ません。がんであることに慣れてしまっただけ。不安はずっと付き纏います。こうして見ると、私のことを強いなと思うかもしれませんが、いつも不安で、仕方ないんです」。涙を流しながらお話されていました。
私の乳がんになった近親者も、急性期治療を終え寛解を迎えましたが、10年ほど経った今も通院し、フォローを受けています。年に一度のPET-CTの前は緊張している様子ですが、通院自体に関してはケロリとしています。サバイバーの方のこの言葉を話すと、うんうんと頷いて「そうだね。がんと生活するのに慣れただけだね」と言っていました。毎日不安そうなわけではないけれど、乳がんで亡くなった人のニュースには人一倍敏感ですし、薬を飲むのだって、飲まずにいられるならそうありたいと言っていました。

もしもあなたが病気になったら
私たち医療者は色んな患者さんを見ているので、うつ状態になる方もいれば、逆に忙しそうな看護師を気遣ってくれるような方もいます。今日も頑張ってるね!なんていう風に。そういう色んな方を見てきているからこそ、あの人は他の人に比べて強いな、すごいな、なんて思ってしまうんです。でも、がんときちんと向き合って闘病していても、がんを心から受容している人なんていないのだと言うことをサバイバーの方のお話で知りました。
キューブラーロスの死の受容プロセスというものがあります。

第1段階:否認と孤立
自らの命が危機にあり、余命があとわずかである事実に衝撃を受けそれを頭では理解しようとする。しかし感情的にその事実を逃避している段階。社会的に周囲から距離を取り、孤立する結果を招く。
第2段階:怒り
「なぜ悪いことをしていない自分がこんなことになるのか」というような怒りにとらわれる段階。根底には自分が死に選ばれたことへの強い反発がある。
第3段階:取り引き
信仰心がなくても、神や仏にすがり、死を遅らせてほしいと願う段階。死ぬことはわかったが、もう少しまってほしいなどの思いが生まれる。
第4段階:抑うつ
信仰心を持っても死は逃れられない事実であることを悟る段階。絶望に襲われ憂うつな気分になる。頭で理解していた死が、感情的にも理解できるようになるが、同時に虚無感をも生む。
第5段階:受容
死を拒絶し、回避しようとしていた段階を経て生命が死んでいくことは自然なことだという気持ちになる。死は訪れるものとして捉えられるようになり心に平穏が訪れる。

以上が5段階の簡単な内容になります。もし興味があれば、キューブラーロスに関連する書籍をご参照ください。
私は全員が受容の段階まで到達できるわけではなく、悲しみ、怒り、心の整理をある程度つけると病気と向き合えるようになるという段階の理想として捉える方がリアルだと思います。
看護師は常にフォーカスを「疾患」「患者」に向けています。言うならば、健康な人を相手にする機会がほとんどないのです。しかし、病気になって、心から受容できる人はいないと知って、予防活動の重要性を感じました。
私は精神的に脆いタイプなので、がんになったら、相当心を病むと思います。逃避して、怒りをあらわにして、泣いて、騒ぐと思います。受容の段階まで辿り着けず、最期まであがくのではないか。今病気を指摘されていない方は、自分がどうなるか考えたことがありますか?
病気になって、心を病んでしまわないためにも、出来ることは今日から始めて頂きたいなと思います。もちろん、がんの原因が全て解明されているわけではなく、遺伝的要因や思いがけない細胞の変異など、これをすればがんにならないというものはありません。健康に気を遣っていてもがんになるときはなります。でも、気遣っているのかいないのかでは後悔も違うと思います。例えば話は少し違いますが、妊娠されている女性が、風邪を引いて薬を処方された時。医師から処方され、安全性の高いと言われたものの、結局飲めなかったと言う方がいます。

「もし赤ちゃんに何かあったとき、薬を飲んでいたら、あのときの自分を責めてしまいそうで」。

飲めなかった理由をそんな風に話していました。薬が原因でなくても、そんな出来事があれば後悔が残ります。あのときこうすればよかった、こうしなければよかった…よくない形で結果が出てしまうと、そんな思いに駆られます。そんな後悔は、ただでさえ難しいとされる受容の段階をさらに遠ざけてしまうのです。
減らせる後悔は減らす。そういう小さな意識が、もし何かあったときの救いになるかもしれません。

がんになるリスクを減らすために
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html
※国立がん研究センター がん情報サービスより

禁煙治療ってどんなもの
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-06-007.html
※厚生労働省 eヘルスネットより

煙草のやめ方
http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/general/pamph18.html
※国立循環器病センター 循環器病情報サービスより

ちなみに私は禁煙治療を非常に推奨しております。それこそ、看護師をしているとよく分かりますが、規則正しい生活というのは、仕事の兼ね合いなどでどうしても難しい方もいらっしゃいます。三交替勤務は、確実に命を削っています。が、誰もが夜勤をしなくなったら病院は運営出来ません。他の職種でも残業や夜勤、食事をとる時間がない、大気汚染など、現代社会で生きる中でやむを得ないところというのは必ずあると思います。しかし喫煙はいかがでしょうか。嗜好品という意味では、必要不可欠ではないと言えると思います。確実に減らせる後悔だと私は考えます。喫煙者はいわゆるニコチン依存症なので、以後改めてnoteに記載させて頂きたいと思います。

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