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自販機の売り切れ


この文明社会において、自販機はそこかしこに佇んでいます。その姿はまるで歩哨のようです。自販機に気取られないように、そっと近づいて耳を澄ますと「ビィィィン」という作動音が聞こえます。ローワン・アトキンソンの姿が思い浮かんだ人は極めて正常です。


夜の自販機は、独特の存在感を放っています。暗闇に輝くその姿は、ライトセーバーを彷彿とさせます。自販機からジェダイ機に名称を変更しても良いかもしれません。ジェダイ評議会の判断を待ちましょう。言わずもがなですが、根回しは欠かせません。


そんな従順な自販機が反旗を翻すこともあります。そうです。あの恐るべき事態である「売り切れ」です。その様子は、ジェダイ狩りに加わったダース・ベイダーを連想させます。シスの暗黒卿として、ダース・ベイダーの悪名は銀河系一帯に響き渡りました。宇宙全域に「売り切れ」が轟いているのです。


しかしながら、たとえ「売り切れ」の表示が出ていたとしても、本当に売り切れているわけではありません。自販機の中には、該当商品が必ず1本は残されているのです。温度管理がされてない中途半端な温度の飲料を出さないために、1本は常にスタンバイしているのです。待機児童ならぬ待機飲料ですね。自販機というのは、飲料の保育所なのです。


なので、もし「売り切れ」という表示を見ても、ブチ切れてはいけません。犯人が自販機の中に逃げ込んだという状況を想定してみましょう。そのような状況において「そこにいるのはわかっているんだ!さっさと出てこい!」と怒鳴りつけるのは悪手です。


売り切れのボタンの奥に逃げ込んだ犯人は、体温が適切な温度になるまで、自販機の中で休息しているのです。そのような健気な犯人を誰が責めることができるでしょうか。私にはできません。第一、面倒くさいですからね。触らぬポリに祟りなし。


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