アンパンマンは働きマン


アンパンマンに対して「普段なにをやっているのかわからないふやけたパン」というイメージを持っている人は少なくありません。確かに、真っ赤な衣装に身を包み、昆布のような色のマントをはためかせながら空を飛び回っている姿からは「真っ当な勤め人」という印象を抱くことは難しいです。巨象を抱くぐらい難しいかもしれません。暇と度胸がある人はやってみて下さい。骨は拾いません。

アンパンマンはしっかりと働いています。しかも、休みが1日もありません(推測)。脅威の365連勤です。ブラック企業も真っ青の働きぶりですね。アンパンマンの頭の中もブラック(あんこ)なので、ブラック企業に対して免疫があるのでしょう。「こんなに働かされるなんておかしい。もしかしたら、僕の会社はブラック企業なのかもしれない」という疑念が浮かんでも「いや、それは違う。お前の頭の中のブラックな部分(あんこ)が外部に漏れ出しているだけだ。ちゃんと拭いておけよ」と言われてうやむやになってしまうのです。不憫なパンですね。

ただ、アンパンマンは人間ではないので、いくら彼が騒いだとしても、人権問題には発展しません。雇い主の狙いはそこにあります。法の目をかいくぐって、アンパンマンを酷使しているのです。「これぐらいで音を上げているようでは、主人公の座は務まらないぞ」という脅し文句をぶつけて、アンパンマンの反抗を阻止しているのです。まるで「年季が明けたら一緒になろうじゃないか」と遊女と約束して、仕事に精を出す奉公人のようですね。

「そうは言っても、アンパンマンには『ジャムおじさんのパン工場』という心休まる場所があるではないか」という意見もあるでしょう。確かに、ジャムおじさんのパン工場は、アンパンマンにとってのオアシスです。兄弟喧嘩が耐えなそうですね。ただ、アンパンマンはパン工場の正面扉から出入りすることは滅多にありません。彼は普段、煙突から出入りしているのです。これは「ぼくはジャムおじさんの本当の子供じゃないから・・・」という遠慮による行動なのかもしれません(アンパンマンの生みの親は「いのちの星」)。言うなれば「日陰者の美学」です。

また、アンパンマンは、常に周りの者を優先して生活しています。たとえば、周りの皆が食事をしているときでも、彼は食事をしません。皆が食べ終わったのを見届けた後で、ひっそりと食事をとるのです。慎ましやかなパンだこと。飯を食うのもひとり、酒を飲むのもひとり。まるで『つぐない』の世界です。テレサテンマンですね。時の流れに身をまかせて、あんこの色に染められるのです。いまはあんこしか愛せない。ただの甘党ですね。



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