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記事99:日本語ラップ100選⑩

記事91を書いた時点で気づいてはいた。
「記事90からアルバム10枚ずつ紹介していたら、記事100ではなく記事99で100枚を紹介することになる」と。

残念ながら記事90の時点で気づかずに始めてしまったあたりが、算数の苦手さを表している。とにかく日本語ラップ100選の完結編だ。

91. 神門『エール』
2007年、追いかけていたDa.Me.Recordsというレーベルから1stアルバムを出したことで神門を知る。レーベルごと推していたので買ったし、その後の神門のアルバムも何となく揃えたが、ハマったのは活動休止明けの『苦悩と日々とど幸せ』からだ。
日常のささいな風景を、普段使う言葉に近い言葉でラップする。その力は日本語ラップ界でも有数だと思う。「普段使う言葉に近い言葉」というのがポイントで、もちろん使う言葉は人によって違うので神門の言葉に共感できない人もいるだろう。僕には刺さりまくっている。そんな日常の言葉で綴られた『エール』の曲たちは、ともすると「あるあるネタ」のオンパレードにもなりえてしまうが、そこは神門の描写力と信念で深みを持たせている。傑作。

92. 昭和レコード『MAX』
これも紹介するの3回目ぐらいじゃないだろうか。般若、SHINGO★西成、ZORNという男臭すぎる3人衆。アルバムの前に何年かかけて数曲を配信していて、いつか3人でアルバム出してくれないかなぁと思ってたら出してくれた。見た目やラップスタイルで誤解されやすいが、ファンサービス精神旺盛な3人衆でもあるのだ。一番後輩になるZORNは使う単語こそ面白いチョイスをしたりするものの、基本的にはシリアスなラップを展開。そこに般若と西成がふざけてるのにスキル高すぎなラップ。そのバランスが最高だ。
あと3人ともラップが聴き取りやすい。それってどうしようもない感想と思われがちだけど、ラップを長く聴いてると一番重要なのは結局そこだと気がつく。

93. 随喜と真田2.0『FESTA E MERDA DI TORO』
ラップアルバムを聴きたいときは、これかDMRの『GUMBO』だ。僕の言うラップアルバムとは、「何ならトラックとか別にどうでもいいから大量のラップを聴きたい!」という衝動に応えうるアルバムのことだ。
随喜こと餓鬼レンジャーのポチョムキンと、MICADELICの真田人のコンビ。アルバムの帯に書いてあった、「最悪のクラス替え!あの2人が同じクラスに!」という文言が好きでいまだに覚えている。
ポチョは言わずもがなだが、真田人がこんなにラップ巧者とはMICADELIC聴いてる時には気づかなかった。何人参加してるのか数えるのも面倒な18分超えのマイクリレー曲、M-12『WALK THIS WAY 58』や全員踏みすぎなM-2『ライムボカン feat. ICE BAHN』、随喜と真田それぞれ本家のグループの相方を迎えたM-6『☆T.O.B.E.R.A☆ feat. ダースレイダー & YOSHI』など、全体的にやりすぎ。

94. スチャダラパー『WILD FANCY ALLIANCE』
熱心に聴いてた時期はないんだけど薄く長く、ずーっと聴ける不思議なグループだ。やることなくてウダウダしていた当時のスチャダラパーをそのままパッケージしたような1枚。暇だからこそ色々考える、スチャ流のブレインストーミングだ。ラップスキルはもちろんだけど、随所で登場する「スチャ語」も楽しい。「連中」を「連マザファッキン中」と言ったり、刺青が入った人(ヤクザ)を「絵人間」とか「ピクチャーマン」と言ったり。中でも「物欲のテトリス状態」はかなりお気に入りの言葉だ。ラップのイメージに反して、トラックがしっかりヒップホップで安定しているのでふざけていても度を越さない。そのバランス感覚がスチャダラパーの魅力だ。

95. スチャダラパー『5th WHEEL 2 the COACH』
熱心に聴いてないと言いつつ、2枚選出してしまった。日本語ラップ好きの間では特に評価の高いアルバムだ。M-1『AM0:00』からM-2『B-BOYブンガク』にかけてスチャらしからぬかっこいいヒップホップで、「いつもと違うぞ」と思わせる。「やっとペンを握ることができた」という一節から始まるアルバム、かっこよすぎる。
でもM-3『ノーベルやんちゃDE賞』である。その後も脱力系の曲を挟みつつ、実質ラスト曲のM-11『ULTIMATE BREAKFAST&BEATS』で熱くも冷たくもなく締める。名曲揃いだが、個人的にはM-10『From 喜怒哀楽』がイチオシ。
「この曲をチェックしてる奴らに道を間違える馬鹿はいない なぜならゴマンとあるドアの中 すでに正しいのを開けてるから」
この歌詞も、かっこよすぎる。

96. タサツ『僕らの五日間戦争』
完璧打算的楽観的ジャパン的ラップ。ある意味伝説のグループ。ケツメイシのRYO、アルファのTSUBOI、NAMの3MC。このアルバムを発売時に買っていた奴を、自分以外に知らない。懐かしのCCCDだった記憶がある。下ネタ多めなんだけど、ラップスキルが高すぎて気にならないしむしろ心地いい。このアルバム出した後はリリースがないけど、先日YouTubeでLITTLEと3人が対談している映像がアップされ、テンション上がった。RYOとTSUBOIはともかくNAMに関しては当時からタサツ以外の活動を見なかったが、サラリーマンになっていた。こんなにラップうめぇのに!つくづく甘くない世界だ。
M-10『血液脱腸』はラップファンにももっと知られてほしい珍曲だ。

97. 環ROY『ラッキー』
ダメレコの功績のひとつが、環ROYの発掘だったと思う。ダメレコに所属せずともいずれ出てきた才能かもしれないけど。アルバムはどれも素晴らしいんだけど、一番カドがない作品を選んだ。手の届く範囲の幸せを歌うことはもしかしたらヒップホップ的ではないのかもしれないけど、こういう寄り添ってくれるようなアルバムも絶対に必要だ。環ROYは具体的な言葉を使って抽象性を発揮するのがすごくうまい。ひとつずつの言葉の意味は分かるけど、曲単位での主張は強くない。M-3『そうそうきょく』はそんなふわっとした、好きな曲のひとつ。
このアルバムから三浦康嗣や蓮沼執太といったヒップホップ畑ではない人のトラックを特に多く使っていて、その試みが成功しているように思う。今月リリースされる、全トラックセルフプロデュースのアルバムも楽しみだ。

98. 達磨様『How To Ride』
元・韻踏合組合のOHYAが出したソロ1st。100枚選んでいて気づいたが、韻踏一派のアルバムがけっこう好みなのかもしれない。脱退したMC3人とも、グループの中でポップさとトリッキーさを受け持っていた。
元々声の抜けが良く、ソロになってから歌うようにラップしていて、辞めてよかったのかもなと思った。韻踏のメンバーが客演しているし、関係性がどうしようもなくなったとかではなさそうだ。この後に出したアルバム『SKILL & CONCEPT 2007-2010』もだいぶ聴いた。
それにしても達磨様とEVISBEATSが韻踏のグループ内グループでもコンビだったのってすごい。といまだに思っている。アルバム残してから解散してほしかった。

99. 田我流『B級映画のように2』
日本語ラップ的には1st『作品集 ~JUST~』を選ぶべきだろうが、こちらもまた良作。トラックは勝手知ったるstillichimiyaの面々が多くを提供していて、田我流も安心してラップをしている感じがする。M-4『ハッピーライフ feat. QN, OMSB & MARIA of SIMI LAB』でのコラボも新鮮だったし、M-10『Straight outta 138 feat. ECD』でのECDとの共演も痺れた。「言うこと聞くよな奴らじゃないぞ」とラップしていたECDが「言うこと聞かせる番だ俺達が」と歌う。あのECDが。
田我流とECDって、ラップのスタイルはもちろん違うけど社会への視点が似ている。

100. 舐達麻『GODBREATH BUDDHACESS』
「アフロディーテギャーング 熊谷レペゼン」って気怠げに言いたい。2019年は間違いなく舐達麻の年だった。1枚目は2015年に出してたんだよな。このスタイルをずっと続けるのはすごい。大麻のことを歌うラッパーは数多いるが、グループのコンセプトもアルバムの全曲も大麻絡みという、もうこれをやってしまっては後にも先にも何も残らないだろう、という発明をしたグループ。
かったるい感じを漂わせているのにMC一人一人のバースが長く、「いや言いたいことけっこうあるんだな!」というギャップも魅力。ほとんどの曲が4分超えだ。
それもこれも、GREEN ASSASSIN DOLLARの作る、美しさの中に毒のあるトラックがすべていけない。去年から仕事ガンガン増えてるだろうな。

そんな100枚。100枚選ぶの難しいだろうなと思っていたのでPCのデータをABC順、50音順に見ていき、ある程度厳しい目で一巡した。その結果、一巡で120枚程度まで絞れたことは我ながらグッジョブだった。そこで200も300もあったら、選定はもっと難航していただろう。ABC順のあと、残ったアーティストを50音順で見るわけだけど「舐達麻」以降が選ばれなかったのも我ながら意外だった。あ、般若のアルバムを入れるかどうかは最後まで迷ったんだった。

ZEEBRAも般若も出てこない日本語ラップ100選なんて嘘だと思う。

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