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アニメ『平家物語』[2022年1~3月放送]の感想

3月24日(木)の放送で、ついに最終回になりました。
日本でこれほどよく知られている物語もそうそうないと思いますが、それでも面白かったし何度か泣けました。物語に接して泣けてくると、意外と自分は単純な人間なのだと、人並みの感情がちゃんと備わっていると確認できる気がします。

第9話と第11話をピックアップして、その後全体的な感想を書きます。

全11話
原作:古川日出夫 訳『平家物語』河出書房新社刊
アニメーション制作:サイエンスSARU
放送局:フジテレビ系列、FOD、Netflix、Amazon Primeなど
https://heike-anime.asmik-ace.co.jp/#introduction

第9話「平家流るる」

平家は都を落ちて、西国に逃れる。
敦盛の最期で泣けた。結末が分かっているのにやっぱり泣けた。

公式サイトより

ただ、細かいところを言えば不満はある。敦盛が熊谷直実にいよいよ首を切られる直前、声を振り絞るようにして次のように言う。
「誓ったのだ、誓ったのだ。私は武士として、立派に。」
たしか第8話だったか、敦盛は清経に武士として潔く生きようと無邪気に誓う場面があった。それを回想しての言葉だが、平家物語の原典にはこんなセリフはないようなので、アニメのオリジナルであろう。
このセリフはなくても良かった。説明しすぎだと思う。

第11話(最終回)「諸行無常」

これもどうしようもないくらい結末が分かっているのに、やっぱり安徳天皇の入水で泣けた。

公式サイトより

原典では、清盛の未亡人時子(二位殿)が安徳天皇に「極楽浄土とてめでたき所へ具し参らせさぶらふぞ。」と泣きながら言うと、天皇も泣いて時子に従う。8歳の子供ながらも、これから自分たちが死ぬことを理解していたのである。時子は天皇を抱いて「波の下にも都のさぶらふぞ」と慰めて、二人して海に身を投げた。

このアニメでは随所の見せ場で琵琶の弾き語りが入るが、ここでもやっぱり原典のあの有名なくだりが入った。

「悲しきかな、無常の春の風、
たちまちに花の御姿を散らし、なさけなきかな、
分段の荒き波、玉体を沈め奉る。」

昔初めてこの部分のテクストを読んで、とても不思議な印象を受けたことを憶えている。

物語の地の文で、登場人物に敬語を使っている。現代小説に慣れ親しんだ人には、これだけでかなり強烈な印象が残る。しかも「波」という無生物まで、安徳天皇に敬意を払っている。

その後平家の人々が次々に入水する場面が続く。

両脇に敵兵を二人抱えて飛び込む人が出て来るが、その様子からこれが能登守教経だとわかる。有名な『能登殿最期』で、教経は源氏の兵に「死出の山の供せよ」と叫んで、二人の兵を無理やり脇に抱えて道連れにする。

たった2秒程度の場面で、しかも教経のセリフは「うぉおおりゃああ」だけで何のナレーションもないので、知らないと見過ごしてしまいそうだ。

と、ここではたと気付いたが、他にも有名なくだりがさらっと描かれていて、見過ごした箇所がありそうだ。

作画

作画がまた良い。
キャラデザインがなんか見覚えがあると思ったら、高野文子だった。調べたところ、高野文子がアニメのキャラデザインをしたのはこれが初めてだそうだ。

アニメーション制作はサイエンスSARUという会社だそうで、最近良いなと思ったアニメで、ここが作っているものが結構多かった気がする。

ロゴと公式サイトのキー・ビジュアルも良いです。(ロゴは丸明ですかね?)

登場人物

「びわ」という架空の少女が登場するのがこのアニメの独特なところだが、これには賛否両論があるようで、動画サイトのレビューでも結構辛辣に言われている。
全話見ての所感は…、別に「びわ」要らないかな…笑

この少女が登場することで、物語の進行に無理が生じてしまった。第1話で孤児となったびわが重盛の屋敷に入り込んで、そのまま屋敷で一門の子女と同様の待遇で迎えられる。その理由は、びわが重盛と同じ超自然の能力をもっていることとして描写されている。説明はされないが、重盛がそれを見抜くのである。それでもやっぱり「強引だなあ」と思った。

時代考証

かなり考証に凝ったらしい。
が、どうしても気になった点が二つ。

1.生前の天皇や上皇が諡号(しごう)で呼ばれている
高倉天皇とか後白河院とか後鳥羽天皇とか、これは死後に贈られる「諡号」という称号である。
それとも平安末期は生前から諡号で呼ぶ(または、生前の呼び名をそのまま諡号にする)習慣だったのだろうか? 同時期に上皇が2人も3人もいたりした時代なので、もしかしたらそうなのかもしれないけれども。

2.平家の武士の髪型が、江戸時代の総髪のようになっている

江戸時代の総髪
https://sakura-paris.org/dict/%E5%AD%A6%E7%A0%94%E5%9B%BD%E8%AA%9E%E5%A4%A7%E8%BE%9E%E5%85%B8/content/5221_64


総評

とはいえ面白かったです。おすすめです。


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