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破綻した会社と幽霊の話・前編

十数年前、仕事先で奇妙な出来事に遭った。幽霊がいたのだ。そしてその幽霊は、僕の家にまでついて来た。

民事再生法案件

目黒区に本社のある会社だった。すでに破綻していたので、本社には誰もいない。民事再生手続の申立てを行なった会社で、再生計画を裁判所に認可してもらう必要があった。僕は、再生計画策定の一環として、財務内容を確定させるチームのひとりとして関わった。

錠のかけられた本社ビル、がらんとしたオフィスのなかで、山積みとなった書類と数週間、格闘することになった。

その本社、3階建てだが、中2階と中3階がある。風水的には凶である。なかに入ってみれば、淀んだ空気を感じさせる。作業のために割り当てられたのは3階の会議室であった。トイレは2階にある。

公認会計士8人のチームで、淡々と作業を進めた。30代から50代の年季の入った者たちによる力仕事である。期日が迫っているため、作業は深夜にまで及ぶ。

弁護士の忠告

日中はともかく、日が暮れると雰囲気が変わるのだ。暗がりに少々、不気味な気配があるような。気のせいかとも思ったが、そう感じるのは僕だけではないようだった。

「トイレに行きたいひとー!?」

誰からともなく、そんな声が上がるようになった。いい歳したおっさんたちが、そろいもそろって、はいはいはいと手を挙げるのである。そうして皆、連れ立って2階に降りていき、用を足す。

夜も更けて、午後11時を過ぎたころ、弁護士チームが現れた。どうですか、大丈夫ですか?と声をかけられた。

スケジュール的にはタイトですけれども、まあぼちぼち順調ですよといった風に返すと、その弁護士、実はここ、出るんですよという。

詳しいことは話してくれなかったのだが、どうやらここで、以前、自殺者が出たらしい。その後、幽霊らしきものが出るという噂がたったとかなんとか。

ではそういうことで、と弁護士たちは帰っていった。

深夜のタクシー・プラス1

その日の作業は深夜に及び、午前2時を過ぎた頃、皆で引き上げ、解散となった。僕もタクシーをひろって帰った。冬のことである。

家につくと、寝ていた家内が起きて、出迎えてくれた。普段ならば、あなたが帰ってくると部屋が暖かくなって良いという家内なのだが、その日はちがっていた。あなたが帰ってきたとたんに寒さが増した、というのだ。めずらしいことをいう、とそのときは思った。

そういえば、いま関わっている会社に幽霊が出るらしいのだと、家内に話そうかと一瞬思った。しかし、下手に話しても怖がらせるだけではないかと思い直し、黙って風呂に入り、おとなしく寝た。

翌朝、目が覚めて起きたところ、先に起きていた家内が僕を見ているではないか。家内がいう。

「今朝、あなたの枕元に男の人が立っていたんだけれど、あれ誰?」

※後編に続く。


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