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組織修復と強度 ~ケガの回復、そのプロセスを知る!~

組織修復に関する理学療法士の視点からのまとめ

組織修復は生体の損傷に対する自然な応答であり、理学療法士にとって非常に重要な知識です。以下では、皮膚、関節軟骨、骨、靭帯、腱、筋の修復過程と修復後に再度果たすべき各組織の機能について要点をまとめます。

皮膚の修復

皮膚は損傷を受けると以下の3つの段階を経て修復されます。

1. 炎症期

炎症期は受傷後3-8日間続きます。この期間中、創内への滲出液中の多核白血球、大食細胞、リンパ球などが働き、細菌および壊死組織などの異物が排除されます。このプロセスにより、創部の清掃が行われ、次の増殖期への準備が整えられます。

2. 増殖期

増殖期は炎症期の後半から始まり、創傷が治癒するまで続きます(受傷後4-6日)。この段階では、肉芽によって組織欠損部が埋められ、上皮細胞の増殖により上皮が形成されます。新たな組織が次第に形成され、創傷が閉鎖に向かいます。

3. 成熟期

成熟期は受傷後3週から数年間続きます。この期間中、瘢痕が小さく薄くなり、発赤が消失していきます。縫合創が十分な抗張力を得るために必要な平均日数は、顔面・頸部で3-4日、体幹で7-10日、上肢・手で10-12日、下肢で12-16日とされます。

関節軟骨の修復

関節軟骨は再生しない組織として知られています。これは、関節軟骨内に血管が存在しないためであり、また軟骨細胞が緻密な細胞外基質に囲まれているため、他の部位へ移動することが困難であるためです。

自然修復の機序

部分欠損では、損傷部周辺からの炎症細胞の浸潤は見られず、損傷部の辺縁に存在する軟骨細胞がわずかに増殖し、一時的に基質合成が亢進するに過ぎません。全層欠損では、損傷後2週間以内に骨髄から未分化間葉細胞が進入し、基質が形成されます。損傷後6-8週で、典型的な軟骨修復組織の組成および構造は硝子軟骨と線維軟骨の中間位にあり、正常関節軟骨の構造を再構築することはありません。

骨の再生

骨の再生は以下の3つの段階を経て行われます。

1. 炎症期(4-5日)

骨折により骨膜、骨皮質、骨髄の血管が損傷され、骨折部から数ミリ以内の骨細胞は死滅します。一方、骨折部を中心に血腫が形成され、骨折端の間隙が埋められます。壊死組織と出血が強い炎症性反応を誘発し、急性炎症が消退すると次の修復期に移行します。

2. 修復期

修復期では血腫内に白血球や線維芽細胞の浸潤が見られ、毛細血管が進入して仮骨が形成されます。仮骨内の軟骨組織は内軟骨性骨形成によって骨組織となり、骨片の両端が固く癒合していきます。この段階では新生骨はまだ十分な支持力を持たず、次にリモデリングが始まります。

3. リモデリング期

リモデリング期では新生骨が力学的要請に応じて骨梁の新生と吸収を繰り返し、次第に皮質骨と海綿骨の組織構造を整えます。

骨リモデリングの期間

骨リモデリングは、破骨細胞による急速な骨吸収と骨芽細胞による緩徐な骨形成の過程です。吸収相は2-4週、形成相は4-6か月です。

治癒期間(W)

  • 中手骨:2週間

  • 肋骨:3週間

  • 鎖骨:4週間

  • 前腕骨:5週間

  • 上腕骨幹部:6週間

  • 上腕骨頭部:7週間

  • 下腿骨・大腿骨:8週間

  • 大腿骨頸部:12週間

靭帯の修復

靭帯の修復も3つの段階で進行します。

1. 炎症期

損傷後2週頃まで損傷された膠原線維はマクロファージにより貪食され、炎症細胞と線維芽細胞が浸潤し、肉芽組織を形成します。炎症期の終わりごろには線維芽細胞が損傷部に細胞外基質を産生します。

2. 修復期

損傷後2週-8週ごろでは未熟な膠原線維が平行に配列し始め、線維芽細胞や炎症細胞が減少します。膠原線維の強度が増し、線維束を形成し始めます。

3. リモデリング期

損傷後2-3か月が経過するにつれ、線維芽細胞や膠原線維の配列が規則正しく正常様になります。しかし、1年が経過しても正常な靭帯と異なる組織学・力学的特性が残ります。受傷直後に適切なRICE処置を行わなければ、膠原線維の異常な配列と肥厚し有痛性となる瘢痕が生じることがあります。

腱の修復

腱の修復過程は、瘢痕組織による治癒と腱組織自身の再生が同時に進行します。

腱断裂後の経過

  • 3-4週:腱断端間の線維細胞・線維芽細胞の増殖が著しく、抗張力が強くなります。

  • 5-6週:腱断端間の癒合がほぼ完成しますが、新生組織は正常腱組織ではなく瘢痕組織です。

  • 6-8週:瘢痕組織がリモデリングを受け、コラーゲン線維は腱部の走行に沿って縦に並びます。

筋の修復

筋細胞の損傷後の修復過程は以下の通りです。

炎症

損傷した細胞が白血球によって除去されます(受傷後1-2日)。

再生

  • 1-2日後:筋芽細胞が出現します。

  • 5-6日後:筋管細胞が出現します。これは細長で中央が空洞、中に大きな核を有する細胞です。

  • 2週後:核は細胞周辺に寄り、中心部に筋原線維が規則正しく配列されます。

組織修復のメカニズムと治癒プロセスの理解は、患者の病態把握と、どのタイミングからリハビリを積極的に実施していくのが安全なのかの判断の助けになると考えます。

最後に、これらの組織は修復後、本来体の中で果たす機能(役割)を再度果たす必要があります。例えば、骨は硬くないと困ります。柔らかく折れやすい骨では体を支えられません。果たすべき必要な機能を再獲得できるようにかつ、修復過程を邪魔しないようにリハビリを実践していくことが肝要になると考えます。

以上の情報と組織的に強度が強くなるタイミングの目安、そしてリハビリをしていく上で各組織の獲得すべき機能(柔軟性、組織の強度、滑走性に任意で分類)について表にまとめましたのでチャックしてみてください。

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