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Garden1

そのカフェは、渋谷と原宿のちょうど中間地点にある。
小さな庭があって、コバルトブルーのフードトラックが目印だ。

白い壁に、ウッドテラス。
吹き抜けになっているエントランスを入ると、新人画家のギャラリーがある。左手にはアパレル、その隣にはインテリアが売られているちょっとした複合施設の中にある。

その先に小さな庭。
短く刈られた芝生に、丁寧に手入れされた花々が咲き乱れ、季節の移り変わりを教えてくれる。
BOX型のベンチが並び、お気に入りの場所だ。
夜は、軽めのお酒を出してくれるBARへと変身する。
夜風が気持ちよく、時々夜も訪れる。

都市開発が進む渋谷の喧騒を抜けて、私はこのカフェに来る。もちろん1人で。
友達や恋人と一緒に来た事はない。
私だけの憩いの場。私だけのガーデン。
誰にも教えない。

心に秘密を抱えているみたいで、心地よい。
誰にも遠慮なく、アイスラテを飲みながらのんびりと小説の続きを読む。

大好きな小説家の新刊を夢中になって読んだ。

どんどん進む話に、ページをめくる手が止まらない。
一気に前半を読むと、少し疲れて眠気が襲った。

ふと、目をやると同じ小説の背表紙が見える。
同じ本…どんな人が読んでるの?

私は好奇心で、バレないように本の隙間から相手の顔を覗きみた。

クセのある髪、カラーはされていない。少し伸びて襟足がバラけている。ボタニカル柄の白いパーカーにJAZZの眼鏡…。よく見ないと分からなかったけれど、本を持つ手がとてもキレイだ。長い指に、きちんと切り揃えられた爪。手の甲は薄く、冷たそうな、でも凛とした手。

手が綺麗…初めて会ったのに。
私はその手に一目惚れした。

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