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Garden7



あの日以来、気まぐれに彼からLineが来る。
内容はどれも大した事はないが、誰かに聞いてほしいのかもしれない。

8月のある日。
「水曜日に時間取れそうだから、あのカフェに行かない?」とメッセージが入る。

「大丈夫」と返信するとすぐに既読がついた。

ただの友達だ。
別に、あの人の事ばかり考えてるわけじゃない。
私は自分で自分に言い訳を必死にしていた。
これ以上、好きにならないように。

水曜日。カフェは珍しく混んでいた。
夏のイベントも重なり
時間も少し遅くに約束したからかもしれない。

いつもとは違う夜独特の匂いがするカフェは、まるで異国のカーニバルを思わせた。

待っていると夕闇の中、フッと彼が現れる。
相変わらずユルい。髪だって乱れてる。
でもそのユルさが纏う気だるさが、妙に色っぽい。

「ごめん。ちょっと遅くなって」

「いえ、全然。大丈夫…」

その時、私は気づく。彼のシャツの首元にうっすらとベージュのリップの跡がある事に。

おそらくここに来る前に会っていた。
きっと抱き合った時に付いたんだろう。

私は思わず目を逸らした。

「なんか、混んでるね…珍しく。席もいっぱいだね!」
明るい声が、私を少し切なくさせた。

私達は仕方なく飲みものだけを買うと、
店の奥にある小さな庭のベンチに腰掛けた。

店の喧騒から離れると、静かな空間が広がっていた。
花々が咲き乱れ、夏の生命力に満ち溢れている。
虫達の声が遠くから聴こえる。あれは求愛の声。
むせ返るような夏の匂いが思いを加速させる。

夜の庭なんて来た事ない…私達は暫く言葉を失って黙って時を過ごした。

ふいに、ちょっとだけ手が触れる。
ダメだ…と思う。

また、離しては少しだけ手が重なる。

やっぱりダメだ。
私は何度も何度も心の中で繰り返す。

「やめましょう。恋人いますよね?」
思わず口に出してしまった。

彼はちょっと驚いて、それから強引に抱きしめられる。

ダメだ…ダメ。
フワフワの髪が、私の頬をくすぐる。
男の人の匂いが、ふんわりと私の心と身体を包む。
もう本当に…どうしてこの人はこんなにも愛おしいのか、困った人だ。

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