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Garden4

勤務する青山の書店は、全国展開されている大型チェーン店だが、土地柄から内装やコンセプトがスッキリとしている。

小さな頃から、将来は書店で働く事を夢見ていた。
インクの匂い、紙の重み、どこへでも連れて行ってくれる本の世界。私はこの仕事が大好きで、誇りを持っている。

初夏の日差しが眩しい7月、新刊の小説を品出ししていた。ハードカバーの本が並んでいく様に、ワクワクしていると、声をかけられる。

「すみません…本探してるんですけど…」

振り向くと…彼がいた。
長めの髪をフワフワと遊ばせ、口元には髭が対象的に伸びていた。そのアンバランスさが、妙に色気を誘う。

「あっ!あの、もしかして渋谷のカフェに一昨日いました?同じ本を持ってる人がいるな…と気になってたんですよ。本屋さんの人だったんだね〜、びっくりした」

言葉が出てこない…緊張する。
予想に反して、人懐こい可愛らしい話し方。

「は、はい…時々行くのであのカフェ。近いし。
何を探してるんですか?」

「えっと…、82年生まれ…なんだっけ?」

「82年生まれ キムジヨン?」

「そうそう!さすがだね!映画面白かったから、原作読んでみようかなと思って…」

私は本を探して、彼に渡した。
「いいですよね。女性のフェミニズムに対する意識改革が進まない事で弊害が起こるお話…」

彼の目がキラっと光る。

「ね、もしかして本、相当好きでしょ?あのカフェで時々話さない?話せる人探してたから。じゃー、水曜日の夕方なら大丈夫だから!おいでよ!待ってるね」

あ、あの…言いかけるが、他の客に声をかけられてしまった。彼はレジへ向かうと消えてしまい、後には混乱と期待の渦に巻き込まれそうな私が残された。




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