「まつり」  fujii kaze

藤井風の「まつり」MVが公開された。

令和の時代が4年目を迎え、世の中の動きがスピードを増す。人対人の関係性がますます「個」を重視し、リアルな繋がりを嫌う時代に集団でなければ行えない「まつり」は流れを逆行するようなタイトル。フェスティバルなのか、スピリチュアル的な意味で奉るのか、個人の受け取め方でずいぶんと違う。

ネットでは憶測が飛び交いMV公開までの数週間、様々な視点から「まつり」の意味について紐解こうとfanが考察する。アジア圏の民族調?はたまた仏教的要素の強いメッセージソングか?私は「まだ誰も観たことのない新しい世界」をまつりを通して観せてくれるのでは…と根拠なき仄かな期待を持っていた。

今回もし曲に惹かれなかったら、暫く彼の音楽から距離を置こう…と思っていた矢先のMVティーザー公開。ガランとした和室にダイダイのカラフルな衣装の主がゆっくりと目覚める。気だるそうな伸びの後、タイトルが画面いっぱいに力強く出る。え?何?急にカウンターパンチを食らって立ち上がれない。曲のサビではなくコーラス部分しか流れないので、余計に想像力を働かせる。何度も何度も聴いて、観て。でも分からない。分からないから知りたくて仕方ない。日を追う後にムクムクと湧き出す好奇心、こんなにも何かを純粋に「楽しみ」と思った事は暫くなかった。

数日後、フル公開の日は朝から何をしても手につかない。頭の中を気だるそうな寝起きの彼が、何度も手招きする。諦めた。もう降参して大人しくパソコンの画面の中に現れるのを待つ。

PM9時。OPのアニメーションのあと、美しいピアノの旋律が川のせせらぎのように気持ちよく流れる。ゆるゆると、タイムスリップしたかのような空気。時代も、場所も、コンセプトも、彼が何者なのかも全く分からない不思議な映像。脳がバクる。なのに不快ではなく、とにかく「もっと知りたい」これに尽きる。前半はカラフルでオリエンタルな衣装で彼にしか出せない独時な世界観で観るものをあっという間に、あちら側に引きずりこむ。「まつり、まつり」と連呼しながら身体をしならせ、あの大きくて美しい手で表現する。ヒラヒラと儚く、夢みたいに。

油断していたら、後半は激しく場面が展開し、エネルギュシュなダンスを披露する。前半のユルさとは真逆だ。身体の重心を低く、重みのある野性味溢れた男っぽさに、脳髄が震えるようなビートに、ゾクっとする。そしてラグジュアリーな衣装にいつの間にか変わっていた。髪型や衣装でここまでイメージの変わるアーティストも珍しい。先程までの親近感がなくなり、一気に近寄り難い。ハイブランドを着こなす男性に憧れと羨望の眼差しが集まる緊張した瞬間に似ている。

ラスト前では、日本庭園をバックに柱にもたれかかり目線を流す。お互いに気持ちを知っているけれど、まだ繋がれていない大好きな人と目を合わせる時の真剣な目に似ている。いつかの誰かを思い出してるんでしょうね。きっと。

声、眼差し、仕草…こんなにも「性」を意識させる。観た者全てが、同性だってちょっとおかしな気持ちになる。なのに本人は知ってか知らずか飄々とかわす。絶対に捕まらない。手の中にいるかと思うと、するりと抜けて。誰かに取られたくないのに、指を咥えて眺める事しかできないのだ。あざけ笑われるのが分かっているのに欲しくたまらない。そんな錯覚に男も女も堕ちる。

ラストでは、たたみかけるような圧倒的な映像美が繰り広げられる。バックで踊るダンサー達のトップで堂々と踊る姿に熱い気持ちが抑えきれなくて、大袈裟ではなく涙が溢れ落ちた。今まで彼の曲で泣いた事なんてほぼなかったのに。

まつりの後は静かに一人で。掛けられたジャケットに裸足だけが映し出されるシーンが艶かしい。そしてやっぱり最後は寝そべるんだね。そういうとこが君らしいね。



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