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Garden8
はあ。なんて甘い匂い。
なんて柔らかく優しい空気。
多幸感で満たされる。
私は戸惑いながらも美しい庭と、この夏の宴の真ん中で抱きしめられる自分に酔っていた。
抱き合ったまま、ポツポツと彼が話し始める。
「音楽関係の仕事してるんだ…でもちょっとスランプで。カフェで同じ本を読んでた君を見かけた時、懐かしいような不思議な気持ちになった。」
「偶然、青山通りの本屋で会えて…嬉しかった。友達になりたいと思ったんだ」
そこまで、一気に話すと体を離して私を見つめた。
「会うといつもホッとした、君に惹かれてた…」
私はただ頷くしかなかった。私も惹かれてたよ。
そう言いたかった。でも言ってしまうと何もかも終わりそうで怖かった。
私をまっすぐに見つめる。嘘はつかないとその瞳が言ってる。
「彼女とは…もうずっと長く付き合ってる。
学生の時からね。」
ひとつ大きく息をすると、目を伏せた。
「…結婚するんだ。来月。」
耳の奥で、小さな蜂の群れが飛び交うようなザワザワとしたものが駆け巡った。
鼻の頭がツンッと痛くて、頭が痺れる。
上手く言葉を探そうとしたけど、見つからない。
代わりに大粒の涙が溢れ落ちる。
こんな時、82年生まれのキムジヨンは何て言うんだろう。ぐっと我慢するんだろうな。我慢を強いられて生きて、いつのまにか心が死んでしまうだろう。
嫌だ。
そんなの嫌。
私は彼のシャツについたリップの跡を思い切り掴むと、自分の顔に近づけた。
戸惑い、目を丸くして「なに…」と言いかけた唇を塞ぐように唇を重ねた。
ねえ、私は嫌なの。
こんな風にかき乱されるのは嫌。
人の物を奪うのは趣味じゃないの。
だから今日だけは、この庭にいる間だけは
ワガママを聞いてほしい。
この後のことなんて知らない。
どうなってもいい。
美しい花々が咲き乱れる庭で
私は明日なんて来なければいいと本気で思っていた。
fin
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