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「しゃべるピアノ」#ショートショートnote杯

 私は「イタい子」だった。不思議ちゃんを目指し、わざとらしい奇行を演じていた。
 とある音楽家の「楽器と対話する」という発言から、「私はピアノとおしゃべりできる」と言い張り、昼休みには、体育館のグランドピアノに、「どう、最近?」と話し掛けていた。
 しかし、小四の終わり頃になると、そのキャラ設定に行き詰まりを覚えた。単なる「物」へ話し掛けている姿に可愛らしくはなく、可哀想に見えることに徐々に気が付き始めていた。
 肌を刺すような寒い放課後、運動部の邪魔にならないようステージに上げられていたピアノに、私は、「これまでありがとうね」と最後の挨拶をした。
 翌朝、朝練に来たバスケ部員は、コート上で、バラバラになったピアノを発見した。足が折れ、鍵盤が飛び散り、屋根が割れていた。
 地震があったわけでもないのに、どうしてステージから滑り落ちたのか、誰も分からなかった。
 程なくして新品が届いたが、私は、決して話し掛けなかった。

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