まんざい?

上京と同時に一人暮らしを始めた。
大学も遊びも楽しくてキャッキャキャッキャしていたので、夜ふかし上等生活もすぐに訪れた。
深夜番組も一通り見尽くし、何気なくつけたラジオから芸人さん2人の声が聴こえる。どうやらたまにテレビで見かける人達らしい。名前くらいは知っていたけど、話すとこんなに面白いんだ。

うっすら彼らに興味を持ったので、出ているDVDから一番パッケージがオシャレなものをチョイスして見たら衝撃を受ける面白さだった。日常を切り取ってはいるけどどこか不気味で不思議なコントと本格的な歌ネタと文字のみで爆笑させる幕間映像など、とにかく一瞬で「好き」が突き抜けた。これが人生で初めて出会うお笑いだった。
初めての単独ライブに行った日は今でも強烈に覚えている。何着ていくもの?と考えた結果、上から下まで新しく服を買い揃えた。別に客側が着飾る必要なんて無いのだけれど。多分デートか何かと勘違いしていたのかな。当時の私に聞いてみたい。

生で見る2人は、テレビで見るよりイキイキしていた。というかテレビでは見たことのない迫力と演技のうまさにただただ涙を流して笑っていた。こんなに面白いんだ?!何?!コントって凄い!
そこから数年、ありがたい事に毎年ライブ足を運べた。一度だけ最前で見た時は、息遣いまで聴こえる近さと足の傷跡まで見えてテンションが爆上がっていた。友人には若干キモがられたものの、好きなものは好きなんだから仕方ないと興奮するばかりだった。

何年もかけて徐々にではあるけれどお2人も色んなテレビ番組に出演するようになり、出る時間帯も深夜から23時台、22時台と上がっていった。今思えば大変喜ばしい事だと分かるのだが、当時はとにかくお笑い要素の強い番組での活躍が見たい!と考えていたので少しモヤモヤしながらも番組チェックは欠かさずしていた。
しかし時間帯の早い番組が決まったくらいのタイミングで、毎週の楽しみだった深夜のトーク番組が終了してしまった。視聴率も悪そうじゃないし、何で…
その後も何ヶ月か新番組を見たりラジオを聴いたりを続けていたが、楽しみだからというより義務感に近くなっており、少しずつ離れていってしまった。

私も社会人となり、今なら分かる事が沢山ある。
経験を積んでいけば出来る仕事も増え、立場が変わることも当然ある。やりたくない仕事だってやらなければいけない。
彼らも経験を積み、立場が変わり、超低空飛行から見えない所まで一気に上昇していたのだ。今や冠番組を見ない日はない。自分達は単価が安いとボヤいていた頃から比べるととんでもない大出世である。私がただ素直に応援出来なかっただけ。悲しいけど、それが事実である。
しかし彼らのコントは今でも大好きだし、そこはずっと変わらない。

その後何年もの間、生のお笑いに触れる機会がなく過ごしていたところ、出会ったのが「漫才師」の見取り図。
初めて見たお笑いを親と思い込むタイプの私は、コントばかりに興味があって漫才がよく分からなかった。
いや、漫才はテレビで見たことはある。中川家が面白かったのは覚えてる。検索ちゃんで見た。
M-1グランプリという大会も知ってる。知ってるけど…どう面白がれば良いのか分からなかった。優勝者が決まるときだけ見たり、何なら結果をネットニュースで知る事もあった。

しかし一気に興味が湧いたこの漫才師の漫才を見ずに通る事など出来ないと謎の使命感に駆られた。
テレビで何となく見た事はあったけど、左の人イカついなの記憶だけ残っている。ポンコツ脳である。

2021年7月に開催されるという見取り図寄席in東京。
既に会場チケットは完売しているが、どうやら追加席販売があるらしい。音楽ライブのチケ発で培った経験と実力を遺憾なく発揮しようやく1枚チケットを手に入れた!この日ばかりは長年チケ発と戦ってきた甲斐があったと自分で自分を褒め称えた。(とはいえ△になるまでリロードし続けただけ…)

追加席なので3階席の後ろの方。
席なんぞ関係ない。生で見られる。見られるんだ!と心躍らせながら渋公もといLINE CUBEまで向かった。
暗転し、流れたOP映像に度肝を抜かれた。
え、今This is OWARAIって書いてあった…?ださ…くない?ちょっと記憶にないくらい引きずった。
気を取り直し本編。見取り図だけではなく色んな芸人さん達が出てくるこのスタイルがいわゆる寄席なのかな?何組も出てくるライブも初めてだった。
多分面白い事を言ってる。多分。というのも、会場の構造なのか私の席が良くなかったのか、声が反響してしまって語尾がゴチャっと聞こえる。面白そう!という予想だけは出来た。そこに笑い声も混ざると更に反響時間が長くて、折角楽しみに来たのにこれでは〜〜〜と落胆したと同時に、次は絶対に漫才劇場で見ようと誓った。確か盛山さんが、漫才のために作られた劇場だから見やすいとどこかで話されていた。それに随所で「是非劇場にも来てください」と言葉にされていたので、素直に受け止め大阪行きを考えた。

コロナ感染者数も微妙な推移の仕方をしていて、どうにか滑り込んだ10月末。朝早い新幹線に乗り込み、漫才劇場へと向かった。
音楽ライブでは何回も訪れた大阪だが、なんば付近は数えるほどしか来たことがなくしっかり迷ってやっと着いた。
こ、これが激安ではなく驚安だと教えてくれた例のドンキ!劇場より先にそちらにテンションが上がった。
いざ5階に着くと、数日前にYouTubeにあがった漫才劇場の楽しみ方で見た場所だ!とロビーからワクワクが止まらず、入場してからも隅々まで見て回った。
初めての劇場。寒くもないのに緊張で汗が出てきた。YouTubeでも紹介していた提灯の色が変わるの見ながら心を落ち着けた。
暗転し、いよいよ!
東京の寄席での大箱とは違ってもちろん反響もないし、ちゃんと声の届くキャパ。舞台も見やすい高さになってるし、流石漫才劇場と呼ばれるだけあるな…と感心したのも束の間、面白い!え、面白い!当時まだコンビ名しか知らない方達の漫才がとても面白かった。ホクホクした気持ちでいると、聞き覚えのある出囃子が鳴った。見取り図が出る。緊張で心臓がバクバクしていた。それはもうバクバク。バクバクしすぎて何のネタだったか覚えてないくらい…。けど生で見たほうがテレビよりも何倍も面白い事が分かった。あの空気は生じゃないと味わえない。面白がり方が分からないんじゃなくて、単に生で触れる機会がなかっただけの事だった。

勝手に自分の中で高くしていた漫才というハードルが一気に下がって、とても身近で面白いものに変わった瞬間だった。

同じ日に見たロングコートダディと黒帯がとても面白かった。この2組のネタはちゃんと覚えてる。多分気持ちがフラットだったから。緊張しすぎは良くない。

こうして劇場バージンをよしもと漫才劇場に捧げた。
この日のツイートを見返すと、もうルミネを視野に入れていた。こいつチョロいな〜と思いつつ、好きなものに対してはチョロくありたいものである。

「是非劇場に観に来てください」と言い続けてくれた見取り図に感謝の意を込めて。

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